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第2章:冒険者のはじまり

第6話:新米冒険者としての洗礼

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 朝日がまだ淡く街を包み込んでいる中、俺はギルド前でエドガーと待ち合わせをしていた。冒険者ギルドに登録したその日のうちに、彼が次の依頼に付き合ってくれると言ってくれたのだ。ベテラン冒険者の彼が俺の初仕事に同行してくれるのは、なんとも心強い。

「よう、アレクシス。早いな」

 エドガーがギルドの扉から現れると、相変わらずの無骨な姿でこちらに向かって手を挙げた。彼の鎧や武器には戦いの傷が刻まれていて、その姿だけで圧倒される。

「おはようございます、エドガーさん」

「気合が入ってるようだな。冒険者として最初の依頼だからな」

 俺は勢いよく頷いた。今日の依頼は、森で薬草を採取するという初心者向けの内容だが、今の俺には十分に手ごたえのある仕事だ。この依頼を無事にこなすことで、少しでも冒険者としての自信を掴みたい。

「よし、それじゃあ早速向かうぞ」

 森の入り口に差し掛かると、エドガーが立ち止まって周囲を見渡した。

「さて、薬草採取と言っても、ただ歩けば見つかるわけじゃない。まずは基本だが、森には危険も多い。特に足元を確認しながら歩くことだ」

 彼は地面を指差しながら説明を始める。俺はその言葉に従い、慎重に足元を確認しながら進んだ。枝や石に気をつけながら歩くのは思った以上に気を使う。

「それから、薬草はどこにでも生えているわけじゃない。湿った場所や木陰など、環境によって生える場所が変わる。今日採取する薬草は、日陰が多い場所で探すといい」

「なるほど……」

 エドガーの説明を聞きながら、俺は注意深く周囲の木陰を見渡した。ほどなくして、少し湿り気のある地面に、小さな青い葉が集まって生えているのを見つける。

「これですか?」

 指差して尋ねると、エドガーが頷いた。

「そうだ、それが依頼にある薬草『ブルーフェンリーフ』だ。新米冒険者にとってはおなじみの薬草だな」

 俺は慎重に葉を摘み取り、持参した袋に入れた。これをいくつか集めれば、依頼を達成できるはずだ。

「ただし、注意が必要だ。森にはこの薬草に似た毒草も生えているからな。よく見分けないと、薬草を採取したつもりが毒を持って帰ることになる」

「毒草……そうか、見た目が似ているんですね」

 エドガーは二つの植物を見分けるポイントを教えてくれた。ブルーフェンリーフの葉には細かな毛が生えているが、毒草の方は表面が滑らかで、微かに赤みがかっているのだという。

「こういう小さな見分けが命取りになるから、気を抜かないことだ」

「はい、ありがとうございます」

 俺は緊張しつつも慎重に見分けながら、次々と薬草を摘み取っていった。

 森の奥深くでさらに薬草を集めながら、俺たちは時折、野生動物の鳴き声を耳にしたり、枝の影から動く影を見つけたりした。こうした小さな変化に気を配ることも、冒険者としての大切な感覚の一部なのだとエドガーは教えてくれた。

「おい、気をつけろ。あそこにいるのはキノヴァーという小型の獣だ。こいつは驚かせなければ襲ってくることはないが、下手に近づくと危険だ」

 エドガーが指差す先には、小さな獣が草むらに潜んでいた。俺はその方向を避け、慎重に歩みを進める。

「こうやって、森にいる生き物にも配慮しながら行動するのが基本だ。見て見ぬふりをして自分だけの作業に没頭するな。周囲の状況を意識しろ」

「わかりました」

 エドガーの教えを聞きながら、俺は薬草採取に慣れていった。小さな青い葉を慎重に摘み、袋の中に重ねていく。こうした地道な作業もまた、冒険者の生活の一部なのだと実感し始めていた。

 数時間が経過し、俺たちは十分な数の薬草を集めた。エドガーは軽く頷き、俺に声をかける。

「よし、今日の依頼分は集まったな。アレクシス、これで一つ目の依頼達成だ」

「ありがとうございます、エドガーさん。思っていたよりも細かい作業が多くて驚きました」

 そう言うと、エドガーは肩をすくめて笑った。

「そうだろう?冒険者ってのはただ戦ってるだけじゃないんだ。こうした地味な依頼も大切な収入源だし、実際に戦う時の準備でもある」

 俺は改めて冒険者という仕事の多様さに驚いた。戦闘だけが仕事ではなく、さまざまな場面での知識や技能が必要とされるのだ。

 エドガーは俺の肩を叩き、ギルドに戻るよう促してくれた。

 ギルドに戻ると、受付嬢のリリアンが微笑みながら迎えてくれた。

「おかえりなさい、アレクシスさん。依頼はうまくいきましたか?」

「ええ、おかげさまで。無事に薬草も集めてきました」

 そう答えると、リリアンは用意していた報酬の袋を俺に手渡してくれた。初めての報酬の感触に、胸が熱くなる。自分の力で成し遂げた成果が形になったのだ。

「おめでとうございます、アレクシスさん。初めての依頼を達成することができて、自信になったでしょう?」

「ああ。正直、ただ薬草を摘むだけとは思っていたけれど、想像以上に学ぶことが多かったです」

 リリアンは満足そうに頷いてくれた。俺も新米冒険者としての初めての依頼を無事に終えたことに、達成感を感じていた。

 ギルドからの帰り道、エドガーと並んで歩きながら、俺は今日の経験について考えた。こうして一つ一つの依頼をこなすことで、少しずつ冒険者としての力を身につけていくのだろう。

「これから先、もっと難しい依頼も増えていく。今回のような簡単な仕事で慣れておくのは悪くないことだ。焦らず、少しずつ成長していけ」

「はい、エドガーさん」

 彼の言葉には、経験者ならではの重みがあった。俺もこの先、彼のように初心者を導ける存在になりたいと思う。

「さて、次はどんな依頼が待っているのか楽しみだ」

 俺は初めての冒険者としての仕事を終え、少しずつ新たな成長への期待に胸を膨らませながら、エドガーと共に帰路に着いた。
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