異世界で等価交換～文明の力で冒険者として生き抜く

第2章：商会の始まり

第19話：奴隷購入

　翌朝、俺は再び商業ギルドの前に立っていた。昨日の話を聞いた後、どうしても考えをまとめる必要があったが、一晩悩んだ末に、奴隷市場を見てみる決心をした。

　やはり、店を回すためには信頼できる人材が必要だ。自由人を雇うことも考えたが、コストや長期的な安定を考えた場合、奴隷という選択肢は無視できない。

「ルナ、今日は重要な決断の日だ」

　隣を歩くルナに話しかけると、彼女は落ち着いた瞳でこちらを見上げる。彼女はいつものように冷静で、俺の心情を察しているようだった。俺たちは商業ギルドの重厚な扉を押し開け、中へと入った。

　カウンターにいるのは昨日と同じマルコスだ。彼は俺が近づいてくるのに気づくと、にこやかに迎えてくれた。

「タケル様、おはようございます。ご決断はお済みでしょうか？」

　俺は頷き、少し考え込んだ後、口を開いた。

「マルコスさん、昨日のお話を少し考えたのですが、奴隷市場に行ってみようと思います。実際に見て、どのような人材がいるのか確認したいのです」

　俺の言葉にマルコスは軽く頷いた。彼は全く驚くことなく、淡々と対応してくれた。

「かしこまりました。タケル様のような商売を始める方が奴隷を使うことは珍しくありません。それに、紹介する市場は商業ギルドと提携しており、信頼性も高いです。少々お待ちください、すぐに手配いたします」

　マルコスはカウンター内の書類を確認し、少しの間、手続きを進めていた。やがて、彼は俺に向き直り、地図のようなものを取り出した。

「こちらが奴隷市場の場所です。商業ギルドの紹介状もお渡しいたしますので、それをお持ちになって市場の管理人にお見せください。丁寧に対応してくれるはずです」

　俺は彼から地図と紹介状を受け取り、中を一瞥した。市場はこの街の外れに位置しているらしい。道順も詳しく書かれており、迷うことはなさそうだ。

「ありがとう、マルコスさん。早速行ってみます」

「何かお困りの際は、いつでもギルドへご相談ください」

　俺は軽く礼を言って、ルナと共にギルドを後にした。紹介状を手にしながら、奴隷市場へ向かう。心の中にはまだ多少の葛藤が残っているが、実際に現場を見て、自分の目で確かめることが必要だろう。

「行くぞ、ルナ」

　奴隷市場へ向かう道は、街の中心から少し外れた場所に広がっていた。建物が少なくなり、徐々に静けさが増す。その静寂さがどこか物々しい雰囲気を醸し出し、俺の胸にわずかな緊張が走る。

「大丈夫か、ルナ？」

　ルナは俺の横で静かに歩いていたが、彼女の警戒心を感じる。魔獣としての鋭敏な感覚で、この場所の空気に敏感になっているのだろう。俺も同じように注意を払いつつ、進む道の先に目的地が見えてきた。

　奴隷市場は、見た目には普通の広場のように見えるが、その一角には重厚な門があり、その門の前には数人の警備兵が立っている。中の様子は外からは伺えないが、入口からは忙しそうな足音や人々の話し声が聞こえてくる。

　俺は、商業ギルドから渡された紹介状を手に、ゆっくりと門に近づいた。警備兵の一人が俺に気付き、視線を向けてくる。

「何用ですか？」

　彼の問いに、俺は紹介状を差し出しながら答えた。

「商業ギルドの紹介で、奴隷市場を見に来ました。適切な人材を探したいと思ってます」

　警備兵は紹介状を確認し、無言で頷くと、後ろの門を開けてくれた。中に入る許可が下りたらしい。

「どうぞお通りください。市場の管理人にお会いになりたいのであれば、正面の建物に行けば対応してくれるでしょう」

「ありがとう」

　俺は礼を言って、ルナを連れて市場の中に入った。中に入ると、奴隷たちが一列に並べられ、売り物として展示されているのが見えた。

　奴隷という言葉にはどうしても抵抗を感じてしまうが、ここでは彼らもまた商品として扱われているのだと実感する。

「ここが奴隷市場か……」

　目の前に並ぶ人々を見ながら、俺はゆっくりとその場を進む。奴隷たちは無表情で、黙ってこちらを見返すだけだった。やがて、市場の奥にある事務所らしき建物の前にたどり着き、俺はそこに入っていった。

　中には、少し年配の男性が座っていて、書類を広げながら何かをチェックしている。彼は俺が入ってきたのに気付き、顔を上げてにこやかに微笑んだ。

「いらっしゃいませ。奴隷市場へようこそ。お客様はどのような人材をお探しでしょうか？」

　彼の穏やかな態度に少しほっとしながら、俺は意図を伝えた。

「商業ギルドの紹介で参りましたが、店舗運営を手伝ってくれる信頼できる人材を探しています。奴隷という形には少し抵抗がありますが、長期的に安定した人材が必要でして」

　その言葉を聞いた男性は、再び書類に目を落とし、何かを確認している様子だった。しばらくの間、彼は書類を捲りながら考え込んでいたが、やがて顔を上げ、説明を始めた。

「商業ギルドの紹介であれば、信頼性の高い者を提供できます。特に、店舗運営や商取引に経験がある奴隷も揃えています。彼らは基本的な計算や接客も問題なくこなせますので、店舗運営には最適です」

　俺はその言葉を聞いて少し驚いた。奴隷市場で扱われているのは、ただの労働力ではなく、商業に特化した経験者もいるということか。

「それなら、ぜひ紹介してもらいたいです」

　そう答えると、管理人は立ち上がり、俺を市場の奥に案内してくれた。そこには、他の奴隷たちとは少し異なる雰囲気の男女が並んでいた。

　どこか自信に満ちた姿勢と、彼らの整った服装から、過去に何らかの職業経験があったことが窺える。

「こちらの方々は、商業経験のある奴隷たちです。特にこちらの女性は、以前は小さな店舗を運営していた経験があり、財務管理も得意です。彼女であれば、店舗の運営を任せるには十分でしょう」

　紹介された女性は、冷静な瞳でこちらを見返してきた。その目には決して諦めの色はなく、むしろ自信を持って前を見据えているような強さが感じられた。

「なるほど……」

　俺は彼女の態度に好感を持ちつつ、しばらく考え込んだ。