異世界で等価交換～文明の力で冒険者として生き抜く

第2章：商会の始まり

第18話：人材を求めて

　翌朝の柔らかな光が街並みを照らし、通りには店を開ける準備をしている商人たちの活気が漂っていた。俺は、冒険者としての活動を続けながら商売を繁盛させるためには、信頼できる人材が必要だと痛感し、商業ギルドに向かっていた。

　ギルドの重厚な扉を前にして、隣を歩くルナに話しかけた。

「ルナ、今日は商業ギルドで重要な相談があるんだ」

　ルナはいつものように静かに俺の隣を歩いている。彼女の穏やかな表情と共に、ただ寄り添ってくれるその存在に、俺は不思議な安らぎを感じていた。

　ギルドの中に入ると、受付の女性が俺に笑顔で挨拶をし、マルコスを呼んでもらうことを告げた。しばらくして、いつもの礼儀正しい姿勢でマルコスが姿を現す。

「お待たせしました、タケル様。今日はどういったご相談でしょうか？」

　マルコスの柔らかな表情に、俺は軽く会釈をしながら本題を切り出す。

「おはようございます、マルコスさん。今日は、店舗の販売を任せられる人材についてご相談したいんです。今後も冒険者としての活動を続けるつもりなので、店の管理をしっかり任せられる方を探していて……」

　俺の言葉を聞いたマルコスは、真剣な表情でしばらく考え込む。彼の鋭い目が俺に注がれる中、ゆっくりと口を開いた。

「確かに、タケル様のように商業と冒険を両立させる場合、信頼できる人材を見つけることは重要です。商業ギルドでは、販売や管理の経験が豊富な人材を紹介するサービスもあります。しかし……」

　マルコスは言葉を選ぶように、一瞬口を閉じた。俺は彼の次の言葉を待ちながら、何か別の選択肢があるのではないかという予感を抱いた。そして、少し間を置いた後、彼は続けた。

「この国では、奴隷を雇うという選択肢もございます。奴隷であれば、長期的に忠実に働いてもらえる上、経費も抑えられます。特に、販売や管理の技能に特化した奴隷も存在しますので、店の運営を安定させるには一つの有効な手段と言えるでしょう」

　その言葉に、一瞬心の中に驚きが走った。俺の元いた世界では、奴隷制度など存在しない。だが、この異世界においては、それが現実の一部であり、商売を行う者にとって珍しいことではないようだ。

「奴隷……か」

　俺は思わずつぶやいた。マルコスは俺の戸惑いを察したのか、さらに説明を続けた。

「もちろん、奴隷を購入するかどうかはタケル様ご自身の判断にお任せします。しかし、商業においては非常に有用な存在です。契約に基づいて誠実に働き、自由な労働者よりも経費が抑えられることが多い。特に、これから商売を拡大される予定があるのであれば、選択肢として考慮されても良いかと存じます」

　俺は、彼の言葉に耳を傾けながら、この世界での商売の現実について考えた。奴隷という選択肢が、この国では一つの正当なビジネス戦略なのだろう。

　しかし、俺の価値観には抵触する部分もあり、簡単に受け入れられるものではなかった。

「マルコスさん、奴隷というのは具体的にどのように手に入れるのでしょうか？」

　慎重に問いかけると、マルコスは冷静に答えた。

「奴隷の購入は、奴隷市場で行われます。商業ギルドと提携している市場もございますので、そこで販売される奴隷は適切に管理されています。特に商業に特化した技能を持つ奴隷もおりますので、店の管理や販売の業務を担当させるのに適しています。もちろん、購入後はあなたの指示に従い、忠実に働いてくれるでしょう」

　奴隷市場か――その言葉にはやはり違和感があった。しかし、彼の説明は理にかなっており、この異世界での商売を成功させ、同時に冒険者としての活動を続けていくためには、現実的に考えるべきなのかもしれない。

「他に、自由な人材を雇う選択肢は？」

　もう一度確認するように尋ねると、マルコスは頷いて続けた。

「もちろん、自由人を雇うことも可能です。ただし、彼らの場合は報酬や待遇が契約に基づいてしっかりしているため、費用が高額になる傾向があります。長期的に見ると、奴隷の方が経費を抑えることができる場合が多いです。しかし、自由人の中には非常に高い能力を持った者もおりますので、その選択肢も決して悪くはありません」

　俺は深く考え込んだ。奴隷か、自由人か――それぞれにメリットとデメリットがある。奴隷は長期的に見て経済的には有利だが、俺の中での葛藤は拭えない。

「少し考える時間をいただいてもよろしいでしょうか？」

「もちろんです。タケル様が納得のいく形で決断されることが最も重要です。もし奴隷市場に興味がありましたら、私が紹介いたしますので、いつでもお申し付けください」

　マルコスに礼を言い、俺は商業ギルドを後にした。外に出ると、明るい日差しが降り注ぎ、通りを歩く人々の喧騒が耳に入ってくる。

　ルナは俺の隣を静かに歩き、彼女の瞳が俺をじっと見つめる。彼女の気配りある態度に、少しだけ気持ちが軽くなった。

「奴隷か……どうするべきかな」

　俺は遠くの街の風景を見ながら、今後の店の運営や自分の冒険者としての活動について、考えを巡らせ続けた。

　どの道を選んでも、簡単な答えではないが、俺の決断がこれからの未来を左右するのは間違いない。