秘宝を集めし領主～異世界から始める領地再建～

第二章：貴族階級との関わりと派閥争い

第27話：経済発展派のリアナとの会合

　数日後、私は経済発展派の代表であるカトリーナ・フォン・エヴァンス伯爵令嬢と会うため、彼女の屋敷に赴いた。エヴァンス伯爵家は中央都市の中でも有名な名門であり、その豪奢な屋敷は経済発展派の中心に位置する彼女の権威を象徴するようなものだった。

　カトリーナは、並外れた商才と鋭い洞察力で名を知られる貴族であり、経済発展派の中核を担っている。彼女がアルテリア領の急速な成長に興味を持ち、会談を望んでくれたことは、我が領地の発展にとって重要な機会となるだろう。

　広間に通されると、カトリーナは端正な顔立ちに落ち着いた微笑みを浮かべ、優雅な所作で出迎えてくれた。その知的な雰囲気が周囲の空気を引き締め、彼女の言葉に耳を傾ける者すべてを引きつける力を持っているのがわかる。

「初めまして、タカミ男爵。貴方のアルテリア領の発展は私どもも注目しております」

　彼女のその一言は、静かに、だが確かな関心が込められていた。経済発展派として、成長する領地に興味を持つのは自然なことだが、彼女が示してくれるのは表面的なものではないようだ。

「こちらこそ、カトリーナ伯爵令嬢、お会いできて光栄です」

　私が礼を返すと、カトリーナは微笑みながら席に促した。彼女の目には冷静な知性が宿り、緊張を抱く私の心を見透かしているかのようだった。

「アルテリア領の急成長は、我々経済発展派にとっても素晴らしい成功例です。特に、貴方のように若く、将来ある領主がここまでの成果をあげられたことは非常に喜ばしい」

　彼女の言葉には一切の無駄がなく、巧妙に織り込まれた意図が感じられる。エヴァンス伯爵令嬢がわざわざこの会談を設定した目的は単なる賞賛ではない。彼女の背後には経済発展派の意向があるのは間違いない。

「ありがとうございます。確かに領地の発展に尽力して参りましたが、これからは貴族社会における立場も重要だと感じています」

　私が率直に答えると、カトリーナはわずかに微笑み、視線を逸らさずに話を続けた。

「まさにその通りです、タカミ男爵。だからこそ、我々経済発展派は貴方のような志ある領主と共に歩みたいと考えています。ただし、私たちの一員として迎え入れるにはいくつかの条件がございます」

　そう言うと彼女は、経済発展派のもとで支援を受ける条件を一つずつ丁寧に説明してくれた。

　まず、経済発展派が運営する商業組合への定期的な貢献金の支払いが求められるという。その資金は経済発展派の活動や組合の維持に活用されるが、同時に経済発展派に属する貴族たちとの絆を強固にするためのものでもあった。

　これは単なる経済的な負担だけでなく、経済発展派に対する忠誠と信頼の証を意味しているのだ。

「これは貴族同士の助け合いであり、同時に我々と連携して成長するための投資とお考えください。経済発展派に属することで、貴領地は商業組合の支援を受け、領地全体の発展を加速させることができます」

　彼女の言葉には確かな説得力があり、商業組合からの支援があれば、アルテリア領の発展も大きく加速するだろうと感じた。しかし、その代償として、アルテリア領の経済が発展派の影響下に置かれることを意味していた。

　次に、発展派が進める交易政策への従属が求められた。これはアルテリア領の交易に対して制約を設け、発展派の支持する商人たちと優先的に取引を行うことが義務づけられるものであった。

「このネットワークに参加すれば、貴領地が生産する物資もより広範な市場に流通させられます。商業の発展には欠かせない要素です」

　彼女の説明は論理的だったが、アルテリア領の独自性を保ちたい私にとっては慎重に考えたい内容だった。確かに、経済発展派の力を借りれば交易の安定は増すだろうが、独立した発展にはいくらかの制約がかかるのは避けられないだろう。

　最後に提示された条件は、発展派が支持する政策や方針を遵守すること。彼らの理念に沿った行動を求められ、特に中央からの干渉が強まる場合には、発展派の方針を支持する立場を貫くことが期待されていた。

「我々と共に歩むならば、タカミ男爵の領地は経済発展派の支援を受け続けられます。共に力を合わせ、貴領地をさらに成長させることをお約束しましょう」

　カトリーナは、柔らかな微笑みを浮かべながらも真摯な眼差しを向けていた。彼女の提示する条件は、一つ一つが領地の発展に確実に有益なものであったが、それと同時に、発展派の影響力を受け入れる覚悟が必要だった。

　条件は重く、容易に受け入れられるものではない。しかし、彼女の支援がもたらす利点もまた見逃せない。

「カトリーナ様、貴重なご提案を心から感謝いたします。私の目標は、アルテリア領を豊かで安定した土地にすることです。経済発展派のご支援は、間違いなくその目標を助けてくれるでしょう。しかし、私は今まで領民たちと共にこの地を築いてきました。彼らの生活と未来を大切に考えていきたいのです」

　私がそう言うと、カトリーナは満足げに頷き、小さな微笑みを浮かべた。

「タカミ男爵、貴方の思いは十分に伝わりました。だからこそ、貴方のような方が我々経済発展派と共に歩むことには意義があるのです。私たちは貴領地を豊かにするための力となりたい。どうか、この提案を前向きに検討していただければと思います」

　彼女の言葉には確かな温かさがあり、その中に経済発展派の支援がどれほど大きな意味を持つかが感じ取れた。彼女の支援を受け入れることで、アルテリア領は間違いなくさらなる発展の道を歩むことができるだろう。

　しかし、その代償として背負うべき責任と義務も決して軽いものではない。

　カトリーナと視線を合わせた瞬間、その覚悟が心の中で重くのしかかる。しかし同時に、彼女と共に歩む未来が、領地のさらなる発展と安定に繋がるという希望も感じられた。

　どちらを選ぶにしても、この提案はアルテリア領の将来を左右するものだ。悩みつつも、経済発展派の支援を前向きに考え始めた。

　私は決断を見据えながら、カトリーナに礼を述べ、会談を終えた。