上 下
15 / 18
第一章:第一の秘宝「大地の加護」

第15話:守護者イザベルとの出会い

しおりを挟む
 山岳地帯を進み続けて数日が経った。険しい岩肌が連なる冷えきった風景が眼前に広がり、冷たく張り詰めた空気が肺の奥を刺すようだ。

 土地の荒廃を何とか救いたいという一心で前進してきたが、岩肌を踏みしめるたびに体力は少しずつ削られていく。それでも歩みを止めず、「大地の加護」を手に入れるため、前へ進み続けた。

 視界を覆うように立ち込める霧が、辺り一面を包み込み、目に入るものすべてが青白くかすんで見える。静まり返った空気の中でただ一人進んでいると、どこか現実から隔たったような錯覚に陥る。

 眼前に広がるこの神秘的な景色は美しい反面、どこか人が踏み入れるべきでない場所のようにも思えてきた。

 霧がかかった岩肌を見つめながら、ふと背後から視線を感じ、振り返る。誰もいない。だが確かに、何か得体の知れない気配が漂っている。緊張が背筋を走り、胸が脈打つ音がはっきりと耳に響いた。

 そのときだった。不意に霧の中に青白い光が灯り、静かに揺らめきながら次第に形を成していく。

 霧の奥から姿を現したのは、青白い光をまとった一人の女性だった。彼女は淡い青色の髪を肩に垂らし、その透き通るような瞳でこちらを見つめている。

 神秘的な輝きをまとい、現世を超えた何かであると直感的に感じ取る。その視線を受け止めた瞬間、思わず息を呑んでしまうほどの威圧感があり、彼女がただの人間ではないことは明白だった。

「あなたが……『大地の加護』の守護者、イザベルですか?」

 声をかけると、彼女はわずかに微笑み、静かに頷いた。その表情には人間のものとは違う冷ややかな気品が宿っており、霧に包まれたその姿から神聖な空気が流れてくるようだ。

「そう、私はイザベル。この地を守り、秘宝を託すべき者を見定める者です」

 その声音は静かで穏やかだが、どこか冷たくもあり、心の底まで見透かされているかのようだった。

 彼女の眼差しには、秘宝を求める理由を確かめようという気配が漂い、ただ単に秘宝を欲するだけの人間には容赦なく拒むという厳しさがあった。

「タカミ……あなたがこの『大地の加護』を求める理由は何ですか?」

 鋭い質問に、体の奥がきゅっと引き締まる。彼女の言葉は、ただの問いかけとは違った。単に理由を問うのではなく、魂の底からの動機を試すかのような響きを持っていた。

 俺は深く息を吸い込み、何のためにここに来たのか、その思いを言葉に乗せる。

「この領地は、長い間痩せ細り、作物が十分に育たない状態が続いています。雨が降っても地はすぐに乾き、領民たちは厳しい生活を余儀なくされている。苦しい日々を送る彼らを見てきたからこそ、この秘宝が領地を救う手がかりになると信じ、ここまで来ました。どうか、この地を豊かにし、領民に安定した生活をもたらす手助けをさせてください」

 言葉が終わると、イザベルは静かに頷き、まるでその思いをすべて受け止めるかのように瞳を閉じた。その表情には、一瞬の冷たさが混じっているように見えた。

「タカミ、あなたの決意は確かに伝わりました。しかし、秘宝を得るためにはそれだけでは不十分です。この秘宝は、ただ強き者、あるいは利を求める者に渡してよいものではありません」

 彼女の口調はどこか厳しく、そして容赦がない。たとえどれほど純粋な願いがあったとしても、それだけで秘宝を託すわけにはいかないという気配がにじんでいる。

 俺は思わず息を詰めながら、彼女の次の言葉を待った。

「私がこれからあなたに課すのは、心の試練です。この試練を乗り越えた先に、秘宝への道が開かれるでしょう」

 心の試練――その言葉には、肉体の戦いや魔物との戦闘とは異なる何かが含まれていることが伺えた。これまで多くの冒険を通じて試練を乗り越えてきた自信はあるが、この試練が一筋縄でいくものではないという予感が走る。

 しかし、ここで引き下がるつもりはない。ここまで来て、領民の希望を諦めるわけにはいかないのだ。

「わかりました、イザベル。僕はこの試練を受ける覚悟です。どんな困難が待ち受けていても、必ず乗り越えてみせます」

 そう告げると、イザベルはゆっくりと目を閉じ、静かな声で言った。

「では、心して進みなさい。この地の加護を受けるにふさわしい者かどうかを、試させてもらいます」

 彼女の姿が、青白い光とともに霧の中へとゆっくり溶け込み、まるで幻のように消えていった。辺りに残ったのは静寂だけ。冷たい霧がまた立ち込め、再び暗闇が俺を包んでいく。

 だが、彼女が去ったあともその場に残された特別な空気は薄れることなく、俺の心には強い意志が宿っていた。

 この試練を超えた先に「大地の加護」があるのなら、迷いなく進むのみだ。冷たい空気を吸い込み、視線を前方に向ける。どんな試練が待ち受けているのかは分からない。

 しかし、領民たちの笑顔を取り戻すためにも、この一歩を踏み出す必要がある。

「行こう、僕の道はまだ始まったばかりだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

処理中です...