秘宝を集めし領主～異世界から始める領地再建～

序章：転生と新たな始まり

第8話：元冒険者ガレスとの出会い

　商人ギルドとの接触から戻って数日が過ぎ、ぼくは農地改良の作業を続けながら、ふとした瞬間に領地の防衛について考えることが増えていた。

　土地を豊かにし、商業が発展すれば、この領地には自然と人や物資が集まってくるだろう。それはつまり、外部からの関心も集まり、いつかはこの地を狙う者が現れるかもしれないということだ。

「領地を守るために、何かしらの対策を考えておかないといけないな」

　そんなことを考えながら、畑での作業を終え、領地を見渡していると、遠くの森の入口に見慣れない人影が見えた。背が高く、屈強な体つきをした男がこちらに向かってゆっくりと歩いてきている。

　男の肩には大きな斧がかけられており、その姿はまるで戦士のようだった。

「誰だろう？」

　村の中でこのような風貌の人物を見かけたことは一度もない。ぼくが不思議そうにその男を見つめていると、彼もぼくに気がついたようで、大きな声を張り上げて話しかけてきた。

「おう、お前がこの領地の領主か？ここで作業しているって聞いたが、噂通り自ら土を耕しているとはな！」

　彼の声は低く、だがどこか豪快な響きがあり、聞いているだけで少し圧倒されるような雰囲気を持っていた。ぼくがうなずくと、彼はそのまま近づいてきて、親しげに肩を叩いてくる。

「俺はガレスだ。かつては冒険者としてこの辺りを旅していたが、今は半分隠居みたいなもんだ。こんな田舎に立派な領主がいるって聞いて、会ってみたくなったんだよ」

　その無遠慮な態度には一瞬驚いたが、彼の言葉には悪意が感じられず、むしろ好奇心と親しみが伝わってくる。ぼくも少し安心し、挨拶を返した。

「ガレスさん、会いに来てくれてありがとう。俺はタカミ。この領地の再建を進めているけど、まだまだ分からないことだらけなんだ」

　ぼくの言葉に、ガレスは大きく頷きながら笑い声を上げた。

「ははっ、そりゃいい！若い領主が自分で汗を流して頑張るなんて、なかなか見どころがあるじゃないか。でもな、タカミ、土地を豊かにするだけじゃ駄目だぜ？お前の領地がよくなれば、それを奪おうとする連中も出てくる。領地を守るためには、基礎的な戦闘知識も必要ってわけだ」

　彼の言葉に、ぼくはハッとした。確かに、これまで土地の再建や商業の発展にばかり意識を向けていたが、領地を守るための備えについては全く考えていなかった。

　外部の脅威に対抗するための防衛の知識がなければ、どれだけ頑張っても脆弱なままだ。

「なるほど、ガレスさんの言う通りだ。けど、俺は戦闘の経験も知識もほとんどないんだ。何をどうすればいいのかも、正直よくわからなくて……」

　正直に告げると、ガレスは少し考え込むように腕を組み、それから大きな斧を地面に突き立てた。その表情は真剣そのもので、冒険者としての経験がにじみ出ていた。

「なら、俺が基礎から教えてやるさ。まずは、自分の領地を守るために必要なことを知っておくことが大事だ。防衛というのは何も武器を振り回すだけじゃない。どこから敵が攻めてくるか、どうやって早く察知するか……そうした準備が全てなんだ」

　ガレスの言葉に、ぼくは新たな視点を得たように感じた。防衛というと、ただ戦いに備えることだと考えていたが、どうやらそれだけではないようだ。

　ぼくは彼の言葉に耳を傾けながら、自分がこれから何を学ぶべきかを考え始めた。

「まず、領地周辺の地形をしっかりと理解しておけ。この村の入口や、森の中に通じる抜け道なんかも知っておくことだ。地形を把握すれば、どこが防衛に向いているかも見えてくる」

　ガレスはそう言いながら、周囲の地形を指差して説明を続けた。村の入口は一箇所に集中しているが、森からの抜け道は複数あり、何も対策を講じなければそこが侵入経路として利用される可能性が高いことに気づかされた。

　ぼくは驚きながらも、それをすぐに頭に刻み込んだ。

「それに、敵が来たときに早く知らせる手段を確保しておくのも大事だ。見張り台を建てたり、伝令を送るための手段を決めておけば、攻められたときにも迅速に対処できる」

　ガレスの話は次第に具体的な防衛の知識に及んでいき、その一つ一つが実践的な知恵に満ちていた。ぼくが防衛について考え始めてからほんの数時間で、これほど多くの要素を考慮しなければならないとは思いもよらなかった。

「そして、いざという時のためにお前自身も最低限の戦闘スキルを身に付けておくといい。戦えない領主では、領民たちも不安になるからな」

　そう言ってガレスは斧を手に取り、少し離れた場所で軽く振り回してみせた。その動きは流れるように滑らかで、力強さと共に正確さが感じられる。

　ぼくもいずれ、自分を守るためだけでなく、領地を守るための力が必要だろうと確信した。

「ガレスさん、もしよければ、俺にも戦い方を教えてもらえないかな？」

　ぼくがそう申し出ると、ガレスはにやりと笑い、斧を肩に担ぎ上げた。

「望むところだ。まずは基本中の基本、鍛錬から始めるぞ。防御の構え、間合いの取り方、武器の扱い方……どれも最初は難しいが、これから毎日続ける覚悟があるなら教えてやる」

　その力強い言葉に、ぼくも決意を新たにし、ガレスの指導を受けることにした。最初の一歩は基礎の基礎からで、構え方や足の運び方、そして斧や剣の握り方をひたすら練習することだった。

　鍛錬が進むにつれて、体は疲れ果てたが、それでも毎日少しずつ成長している実感があった。

　夕暮れが近づく頃、ガレスは訓練を終え、腕を組んでぼくを見下ろしながら言った。

「いいか、タカミ。防衛というのは、戦うための準備をすることだけじゃない。領地の人々が安心して暮らせるための支えでもあるんだ。お前が領主として立つ限り、守るという覚悟を忘れるんじゃないぞ」

　その言葉は深く、重みがあった。ぼくは防衛に関する知識と覚悟を教えてくれたガレスに感謝しつつ、心の中で自分に誓いを立てた。この地を豊かにするだけでなく、誰もが安全に暮らせる場所にしてみせる、と。

「ありがとう、ガレスさん。これからも学ばせてください」

　ぼくはそう言って彼に頭を下げた。ガレスは満足そうにうなずき、再び大きな笑顔を浮かべた。

　その日、ぼくは領地防衛の重要性と共に、守るための覚悟を胸に刻んだ。