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序章:転生と新たな始まり

第3話:領民たちとの初対面

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 荒れ果てた村の入口に足を踏み入れると、まるで時が止まったかのような静けさが辺りに満ちていた。村全体が疲れ切ったように沈み込んでいて、少し歩いただけでも、その雰囲気に圧倒されそうになる。

 家々は古びて崩れかけており、屋根はところどころに穴が空いている。地面は乾燥してひび割れ、道には雑草が伸び放題だ。

 何よりも印象的なのは、村人たちの表情だった。道端で作業をしている数人が、ぼくに気づいて顔を上げる。だがその顔には、歓迎の色は一切ない。

 むしろ、ぼくを警戒するような冷ややかな視線を向け、距離を取ってこちらを見ている。彼らの服は擦り切れ、肌は日に焼けて荒れており、生活の厳しさがありありと伝わってくる。

 喉がかすかに渇き、何をどう切り出せばいいのかわからずに立ち尽くす。けれど、こうしている間にも、ぼくを取り巻く村人たちの視線は鋭さを増していくように感じられた。

 何も話さずに帰るわけにはいかない。そう自分に言い聞かせ、ぼくは息を整えて声を出すことにした。

「みなさん、こんにちは。俺はこの領地の新しい領主、タカミです。皆さんの生活を少しでも良くしたいと……」

 言葉が空気に乗った瞬間、すぐに反応が返ってきた。一人の年配の女性が、鋭い目つきでぼくを睨みつけ、口を開く。

「新しい領主?そんなもの何人来たって私たちの暮らしは何も変わらない。いっそのこと放っておいてくれた方がいいくらいだよ」

 その言葉には、長年の苦しみと不満が詰まっているのがひしひしと伝わってくる。言葉を続けようとしたが、他の村人たちも彼女の意見にうなずき、じっとこちらを見つめている。

 彼らの瞳には、期待の欠片すらない。ぼくの存在が無意味であるかのような冷めた視線が突き刺さる。

「……それは本当に、申し訳ない」

 自然と口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。謝ってどうにかなる状況ではないのはわかっているが、それでも彼らの目の前で何も言わずにはいられなかった。

 自分がここに来たところで、彼らに何の変化ももたらせないのかもしれない。そうした無力感が、少しずつ胸に広がってくる。

 その時、ぼくの言葉を聞き流すようにして、別の男性が皮肉っぽく声を上げた。痩せこけた体に、顔には深い皺が刻まれている。

「領主様が何をしてくれるっていうんだ?これまで誰も私たちを救ってはくれなかったんだよ。もう期待する力なんて残っちゃいないさ」

 彼の言葉は冷淡で、かつ真実を突きつけている。彼らの信頼を得ることが、想像以上に難しいことを痛感する。貧しい生活に疲れ切った彼らの姿は、言葉ではどうにもならないものがある。

 ぼくの手では、彼らにとって必要な変化をもたらすことはできないのだろうか。

 しばらくの沈黙が場に漂った。その重い空気を破るかのように、ふと小さな手がぼくの服の端を引っ張る感触があった。振り返ると、幼い子供がぼくの服を掴んで見上げている。

 まだ五、六歳といったところだろうか。顔は薄汚れ、服もぼろぼろだが、目だけは澄んでいた。その小さな声が、ぼくの耳に届く。

「領主様……何か食べ物をくれるの?お腹が空いてるんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、胸に何かが突き刺さるような痛みを感じた。子供はぼくをただじっと見つめ、期待に満ちた目で答えを待っている。

 ぼくがここでできることは限られているが、目の前の子供に何もしてあげられないことが、何よりも悔しかった。

「ごめん……今はすぐに何かをあげられるわけじゃないんだ。でも、これからこの土地を少しずつ変えて、みんながもう少し楽に暮らせるようにしたいと思ってる」

 ぼくはその子供の頭にそっと手を置き、できるだけ優しい声で伝えた。自分でもその言葉がどれだけ無力なのかは理解している。けれど、何も言わないわけにはいかなかった。

 その子は少し残念そうな顔をしたものの、ぼくの手のぬくもりに少し安心したのか、静かに頷いてくれた。

 その様子を見守っていた他の村人たちは、再び冷たい視線をぼくに向けたが、今度は少しだけ目の奥に戸惑いが見えたようにも感じた。それでも、彼らの目には依然として信頼の色は浮かんでいない。

「領主様がここに来ても、何も変わらないんじゃないか」

「いつも期待だけ持たせておいて、結果は変わらない。それが領主のやり方さ」

 ぼくはその言葉に耳を傾け、静かに深呼吸をした。彼らの言葉は苦々しいが、その通りだ。言葉だけでは何も変わらない。ぼくがこの地に必要とされているなら、行動で示さなければならないのだと、改めて痛感した。

 ぼくは周りの村人たちに一歩近づき、決意を込めて話し始めた。

「確かに、言葉だけでは皆さんを助けられない。だから、まずは小さなことから行動を起こしたい。時間はかかるかもしれないが、少しずつでもこの領地を立て直す努力をしていく。どうか、そのための機会を少しだけでもいただけないだろうか」

 村人たちは無言でぼくを見つめ、そしてそれぞれ視線を落としていった。期待してくれているわけではないだろう。しかし、少なくともぼくの決意は届いたかもしれない。

 長い道のりになることを理解しながらも、ぼくはこの地でできる限りのことをすることを心に誓った。

 村を歩きながら、ぼくは決意を新たにした。信頼はすぐには築けない。

 それは彼らの暮らしを少しでも改善してからこそ、ようやく得られるものだろう。
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