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転校生
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その少年を見たとき、新田純の胸に浮かんだのは、確かに羨望だった。
「東京からやってきた早乙女葵君だ。みんな、仲良くするように」
9月1日、新学期の始まりの日。だらけきった始業式の後に教室にやってきた担任が呼び寄せたのは、ざわついた教室が静まり返るほどの、息を呑むような美少年だった。
田舎の学校によくある情報のルーズさで、誰が流したのか夏休みの途中から転校生が来るという噂は学校中を駆け巡っていた。男と聞く前は男女問わず様々な生徒がどんな容姿の転校生が来るのかと下世話な話題に花を咲かせたが、男の転校生と聞いてからはその噂はもっぱら女子の中にとどまっていた。あまりにも女子がその話題で持ちきりなもので、いけすかない東京もんがやって来ると言って、反感を募らせている男子はいたが、たいていの男は自分には関係のない話だと無関心を貫いていた。だが、教壇の上に立つ転校生のーー早乙女の美しさは、そんな男子の無関心を吹き飛ばす力を持っていた。
早乙女は非常に整った顔立ちをしていたが、特筆すべきはそれが男性的な格好よさではなく、女性的な可愛らしさであるということだろう。ぱっちりとした二重の大きな目はけぶるような睫毛に囲まれており、薔薇色の頬と紅でも引いたかのように赤い唇は艶々と濡れたように輝いていた。黒くさらさらの髪は肩のあたりで切りそろえられており、白い肌とのコントラストが美しい。男子にしては小さな背、華奢な骨格と中性的な髪型と相まって、一見すると少女が男装しているような危うい魅力を放っていた。
「せ、せんせー、そいつ本当に男か?」
静まりかえった教室の中、思わずといったように男子生徒の一人が言葉を発した。それを皮切りに、教室のそこかしこから「かわいい」だの「女の子にしか見えん」などという声が上がる。その歓声とも感嘆ともつかないような言葉を聞いた早乙女は、気分を害したかのように小さく顔を歪めたが、そんな表情ですら美しく、絵に描いたような可愛らしさを放っていた。
「静かに! 他の学年はもう授業がはじまっとるんだぞ!」
生徒の声は担任の静止もきかず、うるさいほどに大きくなっていたが、早乙女がその小さな唇を開き、何事かを話そうとすると、すぐにその声は小さくなった。その口が開かれ、言葉を発するのを教室中が固唾を飲んで見守っていた。
「男に決まってるでしょ。失礼なこと聞かないでよ」
彼の声は皆の想像よりもハスキーで、掠れてはいたが男にしては少し高めの声だった。変声期途中のような声は少年らしさを残してはいたが、紛れもなく男の声で、かすかにどよめきのようなものがクラスを駆け巡った。可愛らしい見た目とのギャップに喜ぶ人間もいたが、その言葉の鋭さに眉を顰める者もいた。
「純、あいつすげえ生意気だな」
新田の後ろに座る石上も苛立ちを感じたらしく、新田の背中をつついてそんなふうに囁いてくる。新田はそんな声に曖昧に相槌を打ちながら、教壇に立って真っ直ぐ前を見つめる早乙女から目を離せずにいた。
小学校から同じ顔触れしかいないような閉鎖的な高校で、良くも悪くも早乙女は異質な存在であり、受け入れられないというよりは明らかに浮いていた。物置から新しく運び込まれた古ぼけた机の前に座る早乙女は、見るからにその空間にはミスマッチで、机の方が申し訳なさそうにさえ見えた。1時間目の授業を受けながらも、皆が皆全然授業の内容には集中できておらず、ちらちらと後ろを振り返り、ノートを取る早乙女の様子を逐一確認していた。見ている側のこちらですら気がつくような話なのだから、見られている早乙女はたまったものではないだろう。1時間目の途中から彼はあからさまに不機嫌そうな顔をしており、終わる頃にはうんざりとした雰囲気を漂わせていた。
「早乙女くん、東京から来たんだよね。めっちゃお洒落だねえ」
1時間目終わりの休み時間、それでも果敢に話しかけに行った女子生徒たちを前に、早乙女は少しの間何とも言えない顔をして教材を片付ける手を止めたが、やがて小さく息を吐くと、にこりと笑って彼女たちへ対応をし始めた。
「そんなことないよ。別に普通だし」
男子や、女子の一部は興味がない風を装っていたが、その実、早乙女たちの会話に耳をそばだてているのは明確だった。その証拠に、早乙女が会話の中で自分を「ぼく」と言った瞬間に、一部の男子からからかいの声が投げかけられた。
「『ぼく』だってよォ」
早乙女の少し高めの声を揶揄するかのような裏声は、明らかに彼を嘲笑する意思を持っていた。しかしそれは早乙女の可愛らしい言い方とは似ても似つかず、そのミスマッチさにクラス中がくすくすと忍び笑いを漏らした。その男子グループがいけすかない東京の転校生に反感を持っていて、彼を貶める目的でそのように真似をしたのは間違いなかったが、彼らの中でそれはいじめというよりはイジリの範疇であり、笑って流せば仲間に入れてやろう、というそういう意味合いのこもった言葉でもあった。
早乙女はその言葉を聞いて、白い頬にさっと朱を昇らせ、ガタリと音を立てて椅子から立ち上がった。
「何がおかしいのさ!」
その猫のような大きな目をキッと吊り上げ、黒い瞳を青々と光らせて、早乙女は自分を笑った男子の方を睨みつけていた。驚いたのは彼らの方だろう。しかし、可愛らしい容姿の男に気圧されたことが悔しかったのか、先ほど早乙女を揶揄った男子生徒は、すぐにニヤニヤとした笑みを浮かべながら「だってよォ」と言葉を続ける。
「『ぼく』なんてカマくせえ言い方、普通しねえだろ。お前は女みたいだから、似合ってるけどよ」
果たしてその台詞は早乙女の逆鱗に触れてしまったようだった。赤く紅潮させていた頬がすっと白くなったかと思うと、早乙女は一層冷え冷えとした瞳で男子生徒を見つめ、その赤い唇を開いた。
「きみ、名前は何ていうの」
聞かれた男子生徒は面食らったような顔をしたが、答えないのも負けのような気がしたのだろう、「脇坂だけど…」と若干勢いをなくしたように答えた。いつもならもっと気の利いた対応ができる彼だが、表情をなくした早乙女はまるで人形のように美しく、その早乙女にじっと見つめられ、脇坂は普段の調子を失っていた。
早乙女はそれには構わず、小さく唇を舐めると、再びその口を開く。
「じゃあ、脇坂くん。凝り固まった田舎思想の君に教えてあげるけどね、『ぼく』っていう言葉はカマくさくも何ともなくて、極めて一般的な一人称なの。きみだってちゃんとしないといけない場所だったら『ぼく』って言うでしょ。…ああごめん」
早乙女はそこで一旦言葉を区切ると、にこりと天使のように愛らしい笑みを浮かべた。
「こんな辺鄙なところ、そんな改まった場所ないもんね。脇坂くんがそのことを知らなくてもしょうがないね、ごめんね」
痛烈な皮肉だった。そしてとことん田舎をーーこの土地を馬鹿にした発言だった。脇坂は一瞬呆気にとられたような顔をしたが、次第に耳まで赤くなり、「てめえっ」と素っ頓狂な大声をあげて立ち上がった。
早乙女は再びすっと表情をなくすと「ほらね」と低く鋭い声を上げた。
「きみだってこんな何の根拠もないイメージで馬鹿にされたら嫌でしょ。きみがしたのはそういうことだよ」
彼の言葉は不思議とすっと頭に血が上った者の胸にも入ってきた。脇坂は振り上げた拳の先を失って、腹立たしげに早乙女を睨みつけた。早乙女は苛立ったように「それに」と言葉を続ける。
「ぼくの見た目が女っぽいからって言って、ぼくのことを女やオカマ扱いするのはやめて。君たちの言う普通っていうのは、この学校のちっぽけな世界の中の普通であって、ぼくの知ってる『普通』では、人の容姿を揶揄ったり侮蔑の対象にするのは恥ずべきことだよ」
教室中は今や静まりかえっていた。早乙女の言葉は正しかったし、彼の神々しいまでの美しさはその正しさを振りかざすだけの力を持っていた。気まずい雰囲気に呑まれた教室の中で、新田は騒ぎには我関せずと窓にもたれて静観していたが、早乙女のその言葉を耳にして、思わず首を傾げた。
「女扱いされたくないんだったら、そのなよなよした話し方をやめればいいだろ?」
新田の声は決して大きくなかったが、静まりかえった教室の中では思いの外大きく響いた。独り言のつもりだった新田は教室中の視線が自分に向いたことに気まずく思いながら、肩をすくめて付け加えた。
「俺たちの『普通』じゃ、お前の喋り方はカマっぽいんだよ」
新田にしてみれば、別に早乙女を貶めてやろうと思って言った言葉ではなかった。ただ純粋に疑問であり、なんならアドバイスのつもりですらあった。しかし新田純という男は、早乙女とは別の意味でまた、その言葉に力を持った人間だった。
クラスで一二を争うほどの恵まれた長身に、モデルのように長い手脚は健康的に日に焼けていて、しなやかな筋肉がついているのがシャツの上からでもわかる。その上にのる顔は早乙女とは別の意味で整っており、男らしい、精悍な魅力を持っている。成績もよく、地主の息子である彼は、クラスの中心で騒いだり盛り上げたりするようなタイプではなかったが、誰もが信頼しており、相談に来るような男だった。
新田がその言葉を漏らした瞬間、気まずげであったクラスの雰囲気は、ザッと一斉に早乙女を非難する空気に変化した。新田はその雰囲気を察知して、不味いことを言ったと顔をしかめた。
「おい、お前ら何立ってるんだ。次は数学だぞ」
早乙女は何事かを言い返そうとしたが、次の授業をしに入ってきた教師に窘められて、諦めたように自分の席に座った。2時間目も1時間目と同様に、ちらちらと早乙女の方を伺うような視線は投げかけられていたが、それは先ほどよりも幾分険をはらんだものが増えていた。特に恥をかかされた形になった脇坂のグループは、いやらしい笑みを浮かべながらニヤニヤと何事かを相談していた。
教室中が異様な雰囲気に飲み込まれていた。その原因の一端となってしまった新田は、苦い思いを噛みしめながらノートを取り続けていた。
「東京からやってきた早乙女葵君だ。みんな、仲良くするように」
9月1日、新学期の始まりの日。だらけきった始業式の後に教室にやってきた担任が呼び寄せたのは、ざわついた教室が静まり返るほどの、息を呑むような美少年だった。
田舎の学校によくある情報のルーズさで、誰が流したのか夏休みの途中から転校生が来るという噂は学校中を駆け巡っていた。男と聞く前は男女問わず様々な生徒がどんな容姿の転校生が来るのかと下世話な話題に花を咲かせたが、男の転校生と聞いてからはその噂はもっぱら女子の中にとどまっていた。あまりにも女子がその話題で持ちきりなもので、いけすかない東京もんがやって来ると言って、反感を募らせている男子はいたが、たいていの男は自分には関係のない話だと無関心を貫いていた。だが、教壇の上に立つ転校生のーー早乙女の美しさは、そんな男子の無関心を吹き飛ばす力を持っていた。
早乙女は非常に整った顔立ちをしていたが、特筆すべきはそれが男性的な格好よさではなく、女性的な可愛らしさであるということだろう。ぱっちりとした二重の大きな目はけぶるような睫毛に囲まれており、薔薇色の頬と紅でも引いたかのように赤い唇は艶々と濡れたように輝いていた。黒くさらさらの髪は肩のあたりで切りそろえられており、白い肌とのコントラストが美しい。男子にしては小さな背、華奢な骨格と中性的な髪型と相まって、一見すると少女が男装しているような危うい魅力を放っていた。
「せ、せんせー、そいつ本当に男か?」
静まりかえった教室の中、思わずといったように男子生徒の一人が言葉を発した。それを皮切りに、教室のそこかしこから「かわいい」だの「女の子にしか見えん」などという声が上がる。その歓声とも感嘆ともつかないような言葉を聞いた早乙女は、気分を害したかのように小さく顔を歪めたが、そんな表情ですら美しく、絵に描いたような可愛らしさを放っていた。
「静かに! 他の学年はもう授業がはじまっとるんだぞ!」
生徒の声は担任の静止もきかず、うるさいほどに大きくなっていたが、早乙女がその小さな唇を開き、何事かを話そうとすると、すぐにその声は小さくなった。その口が開かれ、言葉を発するのを教室中が固唾を飲んで見守っていた。
「男に決まってるでしょ。失礼なこと聞かないでよ」
彼の声は皆の想像よりもハスキーで、掠れてはいたが男にしては少し高めの声だった。変声期途中のような声は少年らしさを残してはいたが、紛れもなく男の声で、かすかにどよめきのようなものがクラスを駆け巡った。可愛らしい見た目とのギャップに喜ぶ人間もいたが、その言葉の鋭さに眉を顰める者もいた。
「純、あいつすげえ生意気だな」
新田の後ろに座る石上も苛立ちを感じたらしく、新田の背中をつついてそんなふうに囁いてくる。新田はそんな声に曖昧に相槌を打ちながら、教壇に立って真っ直ぐ前を見つめる早乙女から目を離せずにいた。
小学校から同じ顔触れしかいないような閉鎖的な高校で、良くも悪くも早乙女は異質な存在であり、受け入れられないというよりは明らかに浮いていた。物置から新しく運び込まれた古ぼけた机の前に座る早乙女は、見るからにその空間にはミスマッチで、机の方が申し訳なさそうにさえ見えた。1時間目の授業を受けながらも、皆が皆全然授業の内容には集中できておらず、ちらちらと後ろを振り返り、ノートを取る早乙女の様子を逐一確認していた。見ている側のこちらですら気がつくような話なのだから、見られている早乙女はたまったものではないだろう。1時間目の途中から彼はあからさまに不機嫌そうな顔をしており、終わる頃にはうんざりとした雰囲気を漂わせていた。
「早乙女くん、東京から来たんだよね。めっちゃお洒落だねえ」
1時間目終わりの休み時間、それでも果敢に話しかけに行った女子生徒たちを前に、早乙女は少しの間何とも言えない顔をして教材を片付ける手を止めたが、やがて小さく息を吐くと、にこりと笑って彼女たちへ対応をし始めた。
「そんなことないよ。別に普通だし」
男子や、女子の一部は興味がない風を装っていたが、その実、早乙女たちの会話に耳をそばだてているのは明確だった。その証拠に、早乙女が会話の中で自分を「ぼく」と言った瞬間に、一部の男子からからかいの声が投げかけられた。
「『ぼく』だってよォ」
早乙女の少し高めの声を揶揄するかのような裏声は、明らかに彼を嘲笑する意思を持っていた。しかしそれは早乙女の可愛らしい言い方とは似ても似つかず、そのミスマッチさにクラス中がくすくすと忍び笑いを漏らした。その男子グループがいけすかない東京の転校生に反感を持っていて、彼を貶める目的でそのように真似をしたのは間違いなかったが、彼らの中でそれはいじめというよりはイジリの範疇であり、笑って流せば仲間に入れてやろう、というそういう意味合いのこもった言葉でもあった。
早乙女はその言葉を聞いて、白い頬にさっと朱を昇らせ、ガタリと音を立てて椅子から立ち上がった。
「何がおかしいのさ!」
その猫のような大きな目をキッと吊り上げ、黒い瞳を青々と光らせて、早乙女は自分を笑った男子の方を睨みつけていた。驚いたのは彼らの方だろう。しかし、可愛らしい容姿の男に気圧されたことが悔しかったのか、先ほど早乙女を揶揄った男子生徒は、すぐにニヤニヤとした笑みを浮かべながら「だってよォ」と言葉を続ける。
「『ぼく』なんてカマくせえ言い方、普通しねえだろ。お前は女みたいだから、似合ってるけどよ」
果たしてその台詞は早乙女の逆鱗に触れてしまったようだった。赤く紅潮させていた頬がすっと白くなったかと思うと、早乙女は一層冷え冷えとした瞳で男子生徒を見つめ、その赤い唇を開いた。
「きみ、名前は何ていうの」
聞かれた男子生徒は面食らったような顔をしたが、答えないのも負けのような気がしたのだろう、「脇坂だけど…」と若干勢いをなくしたように答えた。いつもならもっと気の利いた対応ができる彼だが、表情をなくした早乙女はまるで人形のように美しく、その早乙女にじっと見つめられ、脇坂は普段の調子を失っていた。
早乙女はそれには構わず、小さく唇を舐めると、再びその口を開く。
「じゃあ、脇坂くん。凝り固まった田舎思想の君に教えてあげるけどね、『ぼく』っていう言葉はカマくさくも何ともなくて、極めて一般的な一人称なの。きみだってちゃんとしないといけない場所だったら『ぼく』って言うでしょ。…ああごめん」
早乙女はそこで一旦言葉を区切ると、にこりと天使のように愛らしい笑みを浮かべた。
「こんな辺鄙なところ、そんな改まった場所ないもんね。脇坂くんがそのことを知らなくてもしょうがないね、ごめんね」
痛烈な皮肉だった。そしてとことん田舎をーーこの土地を馬鹿にした発言だった。脇坂は一瞬呆気にとられたような顔をしたが、次第に耳まで赤くなり、「てめえっ」と素っ頓狂な大声をあげて立ち上がった。
早乙女は再びすっと表情をなくすと「ほらね」と低く鋭い声を上げた。
「きみだってこんな何の根拠もないイメージで馬鹿にされたら嫌でしょ。きみがしたのはそういうことだよ」
彼の言葉は不思議とすっと頭に血が上った者の胸にも入ってきた。脇坂は振り上げた拳の先を失って、腹立たしげに早乙女を睨みつけた。早乙女は苛立ったように「それに」と言葉を続ける。
「ぼくの見た目が女っぽいからって言って、ぼくのことを女やオカマ扱いするのはやめて。君たちの言う普通っていうのは、この学校のちっぽけな世界の中の普通であって、ぼくの知ってる『普通』では、人の容姿を揶揄ったり侮蔑の対象にするのは恥ずべきことだよ」
教室中は今や静まりかえっていた。早乙女の言葉は正しかったし、彼の神々しいまでの美しさはその正しさを振りかざすだけの力を持っていた。気まずい雰囲気に呑まれた教室の中で、新田は騒ぎには我関せずと窓にもたれて静観していたが、早乙女のその言葉を耳にして、思わず首を傾げた。
「女扱いされたくないんだったら、そのなよなよした話し方をやめればいいだろ?」
新田の声は決して大きくなかったが、静まりかえった教室の中では思いの外大きく響いた。独り言のつもりだった新田は教室中の視線が自分に向いたことに気まずく思いながら、肩をすくめて付け加えた。
「俺たちの『普通』じゃ、お前の喋り方はカマっぽいんだよ」
新田にしてみれば、別に早乙女を貶めてやろうと思って言った言葉ではなかった。ただ純粋に疑問であり、なんならアドバイスのつもりですらあった。しかし新田純という男は、早乙女とは別の意味でまた、その言葉に力を持った人間だった。
クラスで一二を争うほどの恵まれた長身に、モデルのように長い手脚は健康的に日に焼けていて、しなやかな筋肉がついているのがシャツの上からでもわかる。その上にのる顔は早乙女とは別の意味で整っており、男らしい、精悍な魅力を持っている。成績もよく、地主の息子である彼は、クラスの中心で騒いだり盛り上げたりするようなタイプではなかったが、誰もが信頼しており、相談に来るような男だった。
新田がその言葉を漏らした瞬間、気まずげであったクラスの雰囲気は、ザッと一斉に早乙女を非難する空気に変化した。新田はその雰囲気を察知して、不味いことを言ったと顔をしかめた。
「おい、お前ら何立ってるんだ。次は数学だぞ」
早乙女は何事かを言い返そうとしたが、次の授業をしに入ってきた教師に窘められて、諦めたように自分の席に座った。2時間目も1時間目と同様に、ちらちらと早乙女の方を伺うような視線は投げかけられていたが、それは先ほどよりも幾分険をはらんだものが増えていた。特に恥をかかされた形になった脇坂のグループは、いやらしい笑みを浮かべながらニヤニヤと何事かを相談していた。
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