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第5章
第307話
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オレ達は何度も甦るヴリトラを根気良く殺していく。
アジ・ダハーカとは違い、傷は傷として残るヴリトラを倒すこと自体は、アジ・ダハーカを形成していた存在力の大半を奪い尽くした今のオレ達には容易だった。
兄の神刀がヴリトラの首を刎ね飛ばし……亜衣の薙刀が頭部を真っ二つに割り裂く。
沙奈良ちゃんやカタリナの大魔法は、圧巻の一語に尽きる。
そのどれもが、いわゆるオーバーキルとさえ言える威力だったのは間違いない。
エネアとトリアの喚び出した精霊の王達は、酷く効率的にヴリトラを滅した。
トムもニンフの姉妹が苦手にしている火の精霊王を召喚するとともに、様々な武器を巧みに使いこなしてヴリトラを散々に翻弄している。
マチルダに至っては今や自らの爪牙のみでも、ヴリトラを細切れにしてのけるまでになっていた。
クリストフォルスは援護に徹していたが、魔法で倒すことが出来る相手だと分かってからは、シルバードラゴンの背から遠慮無く強力な魔法を放ち、ヴリトラ討伐に参加している。
相変わらず姿は見せたくない様だが……。
手を変え品を変えオレ達はヴリトラを何度も倒していくが、その強大さに比して奪える力の量は不自然なまでに少なく感じる。
復活も一瞬で行われるためキリが無い。
恐らくは、この復活の能力自体がクセ者なのだと考えられる。
奪う前に復活に使われているとか、そういう理屈なのだろうか?
アジ・ダハーカのそれと、ヴリトラのそれでは大きく異なりながらも、結局その『不死性』は損なわれていない。
こうなったら戦い方そのものを変えるしか無いだろう。
「皆、ちょっと良いか!? もう大して脅威でも無いし、戦いながら聞いてくれ!」
真っ先に駆け寄って来たのは亜衣だった。
ちょうど兄とマチルダ、トムが前衛に居るため、オレと一緒で手が空いているタイミングだったのだ。
「どうしたの? 何か思い付いた?」
「まぁね。今のままじゃ、いつになったら本当の意味で終わるか分からないだろ?」
「ヒデ、さっき呼んだか?」
亜衣と話していたら、兄がいつの間にか転移して来ていた。
兄が相手していたヴリトラは……復活した瞬間、クリストフォルスの操るシルバードラゴンのブレスを浴びて凍り付いている。
魔法で攻撃していた皆も、エネア達が喚び出した精霊王にその場を任せて近寄って来た。
トムとマチルダも、自分の戦っていた相手をキッチリ倒してから、駆け寄って来る。
『お待たせしましたニャ』
『話って、なぁに?』
「師匠は来ないわよ。話し合いの結果だけ教えてくれってさ」
「了解。まぁ簡単に言うと……だ。アレ、時間稼ぎだろ?」
「そうですね。私も同じように感じていました。付け加えて言うならば、私達の消耗を待っているようにも思えます。ポーション類とヒデさんの能力のおかげで、そちらは全く上手くいっていませんけど……」
確かに普通なら、ヴリトラを倒せるレベルの魔法を使い続けたり、ヴリトラを倒すべく武器を振るっていれば、次第に消耗しきって徐々に劣勢に追い込まれていくことだろう。
沙奈良ちゃんの見立ても恐らくは正しい。
しかし……
「問題は何で時間を稼ぐ必要が有るのかと、アレの存在意義との関連性よね。ヒデの言う通り、より上位の存在を復活させるためなのだとしたら今の状況は決して良い状況とは言えなくなってしまう」
「気付いている? 徐々にこの空間内の魔素が濃くなって来ている。私達の喚び寄せた精霊の王達も、その存在が段々とハッキリとしているのよ。いつ実体化してもおかしく無いぐらいに……」
「師匠も同じことを心配していたわ。そして相変わらずヤツの領域は、ゆっくりと拡がっている」
悪神の復活。
それこそが目的なのだとしたら、今の状況はまさにヤツの思うツボということになる。
「だからさ……ちょっとだけ戦い方を変えて欲しいんだ。ヴリトラから存在力を大きく奪えているタイミングは、ヤツを殺した瞬間よりむしろ大怪我を負わせた瞬間なんだよ」
『そうだったんだ! 私達はヒデから間接的に力が送られて来ているから、そこまで分からなかったよ』
『ウニャ。それニャらば一気に倒すよりも、じわじわといたぶる方が良いんですニャー。実は我輩、そういうの得意ですニャ』
トムの話が本当ならケット・シーも猫と同じく獲物を油断無く、じっくり弱らせていく習性のようなものが有ることになるのか。
トムなら威力のデカ過ぎない武器が豊富だ。
適役だろう。
「……ってことは、オレの出番は暫く無しか?」
「いや、兄ちゃんも一応は使えるだろ? マギスティール。アレでヴリトラっていうより周辺魔素を薄くするのに協力して欲しい」
「了解。ここまで来て地味な役回りだけどな」
「お義兄ちゃん、ずっとハデだったからちょうど良いんじゃない? 私もマギスティール?」
「そうだな。悪いけど頼むよ」
「ぜんぜん悪くないよ~。任せて」
「マチルダもマギスティール……いや、人狼化を解いて、弓でじっくり戦ってくれ」
『うん! その方が嬉しいかも』
「カタリナと沙奈良ちゃんはヴリトラ本体にマギスティール。それからカタリナは、何か適当にリビングドールでも作って戦わせてくれると助かる」
「分かりました」
「了解。それならもってこいのが有るわ」
「エネアとトリア、それからトムは悪いんだけど、いったん精霊王達を帰還させて欲しい。エネアとトリアはヴリトラに回復魔法を使ってくれ」
「回復魔法……貴方も意地が悪いわね」
「姉さん、でもかなり効率的なのは間違いないわよ」
「それはそうだけど……何となく嫌な役回りね」
「それから、トムは徹底的にアイツらいたぶってやれ。頼むぞ?」
『お任せ下さいニャ!』
「あ、そうだ。カタリナ、クリストフォルスにはブレス攻撃に専念するように言ってくれ。動きを止めておけば、万が一が無くなるしな」
「それもそうね。伝えておくわ」
「よし、それじゃあ皆……頼んだよ」
それぞれ了解の意を示して、自分の為すべきことに取り掛かる仲間達。
その姿は非常に頼もしかった。
◆
結果的に、この作戦変更はヴリトラの泣き所を正確に捉えていたようだ。
アジ・ダハーカから奪った力が有る以上、そもそも苦戦らしい苦戦はしようも無かったワケだが、それでもあのまま漫然と戦っていたら最悪の事態も有り得たかもしれない。
今までは強くなるために奪って来たが、今回の相手は奪うことでしか倒せなかった。
だからこそ奪い尽くす。
エネアの回復魔法も虚しく、マチルダの矢で最初のヴリトラが倒れた時、この推論が間違っていなかったことが証明された。
復活して来ない。
正確に言うならば、復活を遂げるだけの力がヴリトラには既に残されていなかったようだ。
残るヴリトラも、ほどなくして姿を消した。
同時にカタリナのガーゴイルが観測していた、例のドーム状の障壁が潰える。
潰えたのはそれだけでは無かった。
悪神アンラ・マンユが復活する可能性も同じく潰えたのだ。
……取り敢えず今のところは。
全てが終わった時、時刻はちょうど深夜0時になろうとしていた。
途中からすっかりそれどころでは無くなっていたが、この激闘のきっかけになったスタンピードも終わろうとしている。
「……終わった、ね。ヒデちゃん、帰ろ?」
「うん……そうだな。終わりだ。帰ろうか」
気付けばいつの間にか、周囲に皆が集まっていた。
……護りきったんだな。
皆の嬉しげな……誇らしげな顔を見ているうち、ようやくそんな実感が湧いて来た。
アジ・ダハーカとは違い、傷は傷として残るヴリトラを倒すこと自体は、アジ・ダハーカを形成していた存在力の大半を奪い尽くした今のオレ達には容易だった。
兄の神刀がヴリトラの首を刎ね飛ばし……亜衣の薙刀が頭部を真っ二つに割り裂く。
沙奈良ちゃんやカタリナの大魔法は、圧巻の一語に尽きる。
そのどれもが、いわゆるオーバーキルとさえ言える威力だったのは間違いない。
エネアとトリアの喚び出した精霊の王達は、酷く効率的にヴリトラを滅した。
トムもニンフの姉妹が苦手にしている火の精霊王を召喚するとともに、様々な武器を巧みに使いこなしてヴリトラを散々に翻弄している。
マチルダに至っては今や自らの爪牙のみでも、ヴリトラを細切れにしてのけるまでになっていた。
クリストフォルスは援護に徹していたが、魔法で倒すことが出来る相手だと分かってからは、シルバードラゴンの背から遠慮無く強力な魔法を放ち、ヴリトラ討伐に参加している。
相変わらず姿は見せたくない様だが……。
手を変え品を変えオレ達はヴリトラを何度も倒していくが、その強大さに比して奪える力の量は不自然なまでに少なく感じる。
復活も一瞬で行われるためキリが無い。
恐らくは、この復活の能力自体がクセ者なのだと考えられる。
奪う前に復活に使われているとか、そういう理屈なのだろうか?
アジ・ダハーカのそれと、ヴリトラのそれでは大きく異なりながらも、結局その『不死性』は損なわれていない。
こうなったら戦い方そのものを変えるしか無いだろう。
「皆、ちょっと良いか!? もう大して脅威でも無いし、戦いながら聞いてくれ!」
真っ先に駆け寄って来たのは亜衣だった。
ちょうど兄とマチルダ、トムが前衛に居るため、オレと一緒で手が空いているタイミングだったのだ。
「どうしたの? 何か思い付いた?」
「まぁね。今のままじゃ、いつになったら本当の意味で終わるか分からないだろ?」
「ヒデ、さっき呼んだか?」
亜衣と話していたら、兄がいつの間にか転移して来ていた。
兄が相手していたヴリトラは……復活した瞬間、クリストフォルスの操るシルバードラゴンのブレスを浴びて凍り付いている。
魔法で攻撃していた皆も、エネア達が喚び出した精霊王にその場を任せて近寄って来た。
トムとマチルダも、自分の戦っていた相手をキッチリ倒してから、駆け寄って来る。
『お待たせしましたニャ』
『話って、なぁに?』
「師匠は来ないわよ。話し合いの結果だけ教えてくれってさ」
「了解。まぁ簡単に言うと……だ。アレ、時間稼ぎだろ?」
「そうですね。私も同じように感じていました。付け加えて言うならば、私達の消耗を待っているようにも思えます。ポーション類とヒデさんの能力のおかげで、そちらは全く上手くいっていませんけど……」
確かに普通なら、ヴリトラを倒せるレベルの魔法を使い続けたり、ヴリトラを倒すべく武器を振るっていれば、次第に消耗しきって徐々に劣勢に追い込まれていくことだろう。
沙奈良ちゃんの見立ても恐らくは正しい。
しかし……
「問題は何で時間を稼ぐ必要が有るのかと、アレの存在意義との関連性よね。ヒデの言う通り、より上位の存在を復活させるためなのだとしたら今の状況は決して良い状況とは言えなくなってしまう」
「気付いている? 徐々にこの空間内の魔素が濃くなって来ている。私達の喚び寄せた精霊の王達も、その存在が段々とハッキリとしているのよ。いつ実体化してもおかしく無いぐらいに……」
「師匠も同じことを心配していたわ。そして相変わらずヤツの領域は、ゆっくりと拡がっている」
悪神の復活。
それこそが目的なのだとしたら、今の状況はまさにヤツの思うツボということになる。
「だからさ……ちょっとだけ戦い方を変えて欲しいんだ。ヴリトラから存在力を大きく奪えているタイミングは、ヤツを殺した瞬間よりむしろ大怪我を負わせた瞬間なんだよ」
『そうだったんだ! 私達はヒデから間接的に力が送られて来ているから、そこまで分からなかったよ』
『ウニャ。それニャらば一気に倒すよりも、じわじわといたぶる方が良いんですニャー。実は我輩、そういうの得意ですニャ』
トムの話が本当ならケット・シーも猫と同じく獲物を油断無く、じっくり弱らせていく習性のようなものが有ることになるのか。
トムなら威力のデカ過ぎない武器が豊富だ。
適役だろう。
「……ってことは、オレの出番は暫く無しか?」
「いや、兄ちゃんも一応は使えるだろ? マギスティール。アレでヴリトラっていうより周辺魔素を薄くするのに協力して欲しい」
「了解。ここまで来て地味な役回りだけどな」
「お義兄ちゃん、ずっとハデだったからちょうど良いんじゃない? 私もマギスティール?」
「そうだな。悪いけど頼むよ」
「ぜんぜん悪くないよ~。任せて」
「マチルダもマギスティール……いや、人狼化を解いて、弓でじっくり戦ってくれ」
『うん! その方が嬉しいかも』
「カタリナと沙奈良ちゃんはヴリトラ本体にマギスティール。それからカタリナは、何か適当にリビングドールでも作って戦わせてくれると助かる」
「分かりました」
「了解。それならもってこいのが有るわ」
「エネアとトリア、それからトムは悪いんだけど、いったん精霊王達を帰還させて欲しい。エネアとトリアはヴリトラに回復魔法を使ってくれ」
「回復魔法……貴方も意地が悪いわね」
「姉さん、でもかなり効率的なのは間違いないわよ」
「それはそうだけど……何となく嫌な役回りね」
「それから、トムは徹底的にアイツらいたぶってやれ。頼むぞ?」
『お任せ下さいニャ!』
「あ、そうだ。カタリナ、クリストフォルスにはブレス攻撃に専念するように言ってくれ。動きを止めておけば、万が一が無くなるしな」
「それもそうね。伝えておくわ」
「よし、それじゃあ皆……頼んだよ」
それぞれ了解の意を示して、自分の為すべきことに取り掛かる仲間達。
その姿は非常に頼もしかった。
◆
結果的に、この作戦変更はヴリトラの泣き所を正確に捉えていたようだ。
アジ・ダハーカから奪った力が有る以上、そもそも苦戦らしい苦戦はしようも無かったワケだが、それでもあのまま漫然と戦っていたら最悪の事態も有り得たかもしれない。
今までは強くなるために奪って来たが、今回の相手は奪うことでしか倒せなかった。
だからこそ奪い尽くす。
エネアの回復魔法も虚しく、マチルダの矢で最初のヴリトラが倒れた時、この推論が間違っていなかったことが証明された。
復活して来ない。
正確に言うならば、復活を遂げるだけの力がヴリトラには既に残されていなかったようだ。
残るヴリトラも、ほどなくして姿を消した。
同時にカタリナのガーゴイルが観測していた、例のドーム状の障壁が潰える。
潰えたのはそれだけでは無かった。
悪神アンラ・マンユが復活する可能性も同じく潰えたのだ。
……取り敢えず今のところは。
全てが終わった時、時刻はちょうど深夜0時になろうとしていた。
途中からすっかりそれどころでは無くなっていたが、この激闘のきっかけになったスタンピードも終わろうとしている。
「……終わった、ね。ヒデちゃん、帰ろ?」
「うん……そうだな。終わりだ。帰ろうか」
気付けばいつの間にか、周囲に皆が集まっていた。
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