上 下
305 / 312
第5章

第302話

しおりを挟む
 にいち早く気付いたのは、周辺空域にガーゴイルを配し、アジ・ダハーカの領域がどれほど拡張されているのかを監視していたカタリナだった。

「ヒデ、師匠が援軍を送ってくれたみたいよ!」

 ちょうどカタリナと兄の近くに転移して来たオレとトム。
 カタリナが指差す方向を《視》ると、確かに物凄いスピードで飛んで来るモノがいた。
 例のシルバードラゴンを模したリビングドールだ。

「援軍は有難いんだけどシルバードラゴンクラスじゃ、この戦いに参加しても……って、あれ? カタリナ、見えたか?」

「えぇ、見えたわ。まさかの援軍よね」

 シルバードラゴンの背にしがみついている(?)巨大なスライム。
 そのスライムの内部に、褐色の肌を持つ人形遣いの姿をオレ達は確認していた。
 クリストフォルス本人で間違いないだろう。
 クリストフォルスのことだから、本人を模したリビングドールということは無いだろう。
 ダークエルフの幼児の姿を持つクリストフォルスは、オレからすれば非常に容姿に恵まれているようにしか見えないのだが、本人は自らのその姿を忌み嫌っている。
 恐らくはバンパイアというアンデッドと化した自らを好きになれないとか、そういうことなのだとは思うが本当にそうなのかはクリストフォルス本人以外には分からない。
 いずれにせよ、そんなクリストフォルスが好き好んで、自らの姿を模した人形を創るとは考えにくいのだ。

『ウニャ! それにしてもアレ、速すぎませんかニャー?』

「本当だな。ヒデ、カタリナ。本当にクリストフォルス本人が来てるのか?」

「うん、多分あれは本人だと思う」

「師匠本人で確定よ。じゃないと、あんな速度は出ない」

 さすがは一番弟子。
 オレ達の知らない何かを、カタリナはクリストフォルス本人から聞いているのだろう。
 それが、あのシルバードラゴンを模したリビングドールの速度の秘密ということらしい。

 見る見る間に戦闘空域に到達したクリストフォルスの操るドラゴンは、アジ・ダハーカに向けてブレスを放った。
 いつか見たシルバードラゴンのそれよりも、遥かに強力なブレスなのだろう。
 見た目には同じように見えるのだが、驚異的な防御力、魔法抵抗力を誇る筈のアジ・ダハーカに立派に通用している。
 アジ・ダハーカの三つ首が全て凍るか硬直してしまっているのが遠目にも分かった。

 ドラゴンのブレスとは、多分に魔法的な能力なのだと聞いたことが有る。
 たしかカタリナから探索中の休憩時に聞いたのだと思うが、それに依れば咆哮も飛行もブレスも、そうしたドラゴンらしい能力の全てが魔力によって支えられているのだという。
 シルバードラゴン本来のブレスは冷凍ブレスか麻痺ブレスの筈だが、クリストフォルスの人形は一味も二味も違うらしい。
 一度のブレスで同時に両方の効果を発揮したようなのは、恐らくはそのあたりが関係しているのだろう。
 シルバードラゴンの飛行速度が飛躍的に上昇し、ブレスの威力や効果が桁違いになっているのも、人形遣いクリストフォルスが自らの操る人形の魔法を、自らが行動を共にする事で増幅なり何なりしているとしたら、決して有り得ない現象では無い。

 シルバードラゴンを模したリビングドールは、飛行の勢いそのままに動きを止めたアジ・ダハーカに体当たりをかました。
 それで凍りついた左右の首は崩れ落ち、残った中央の麻痺した首にクリストフォルスの人形竜が噛み付いている。
 次の瞬間には、獲物に喰らい付いたワニのように自らの身体を回転させ、最後の首も瞬く間に噛みちぎってのけた。
 ……デスロール。
 ワニのそれでも恐ろしいのに、ドラゴンのデスロールとは、味方ながらえげつないことをするものだ。

 しかし、これが千載一遇の好機であることは間違いない。
 兄は独自に転移を繰り返して接近していったが、カタリナとトムは心得たものでオレの近くに寄ってきた。
 そのまま全員で転移し、アジ・ダハーカに攻撃を加える。
 兄も追い付いて来た。
 飛べる範囲が違うからね……兄ちゃんも一緒に飛べば良かったのに。
 まぁ、兄の戦闘センスの高さゆえだろう。
 考えるより先にチャンスと見て身体が動いてしまったのだとは思う。
 沙奈良ちゃんにしても、トリアにしても離れた場所から魔法で攻撃を始めているし、エネアとマチルダは比較的アジ・ダハーカの近くに居たので既にオレ達と合流して傷口から這い出て来た眷族の魔物達を次々と葬っている。
 クリストフォルスの操るシルバードラゴンは、傷口へ絶えずブレスを浴びせ掛けているようだ。
 再生が先ほどよりも明らかに遅い。

 ……なるほどな。

 冷凍ブレスが効いているのか、麻痺ブレスが効いているのかはハッキリしないが、再生すべく活動している細胞が冷凍ないし麻痺して動きを止めれば、その分だけ再生が遅くなってしまうのは道理というものだ。
 傷口を焼くことで細胞そのものを殺すことも確かに有効だったが、それとて焼ききれない無事な細胞まで活動を停止したわけではないから、焼く力よりも再生する力が上回った場合は再生が止まらなかったということなのだろう。

 ◆

 結局、先ほどよりもかなり長時間、このチャンスタイムは続いた。
 尾を何度も根元から斬り落とした亜衣や、翼を斬り落とし続けた兄や沙奈良ちゃん。
 胴体に魔法で特大の穴を幾つも穿ったカタリナ。
 そのおかげでオレが相手にした漆黒のモンスター達も非常に強力な連中が多かったが、エネアとトリアの援護を受けてどうにか殺し尽くし、奪い尽くすことに成功。
 トムとマチルダはオレの援護をしながら、オレの手が回らない分の眷族狩りで、何なら最も忙しく動き回ってくれていた。
 クリストフォルスが齎した好機を最大限に生かしきれたと思う。

 これならば…………

※※301話と302話の投稿順を間違えてしまいました。

大変申し訳ありません。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。 35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。 彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。 ……でも世の中そううまくはいかない。 この世界、問題がとんでもなく深刻です。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...