ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる

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第5章

第296話

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『主様、我輩達も作戦を把握しましたニャー!』

『最初はカタリナが仕掛けるって!』

 打ち合わせを終えたらしいトムとマチルダが、そう叫びながら駆け寄って来た。

「了解! じゃあ……兄ちゃん、亜衣、そろそろ全力でいこう」

「あぁ、もう充分だろ」

「そうだね。さっきから、ちょっと気の毒な感じだし……」

 実際、先ほどから敵はまともに役割を果たせていない。
 クモの化身の表情にも、心なしか諦めの表情が浮かんでいるように見える。
 オレ達前衛が適度に傷付けることで、クモ女の傷口から魔物が現れる……次の瞬間には後衛から魔法が飛んで、あっという間に消え失せるという展開。
 繰り返し、繰り返し、繰り返し……。
 さすがに少し同情したくなるぐらいだ。
 もちろん、それを繰り返すことでオレ達は確実に強くなっているのだから、いくら気の毒に思えても中断することは出来ない。
 打ち合わせが終わる前に倒してしまいそうで少しハラハラした程、既に力の差が生じている。
 亜衣の薙刀も、兄の刀も、最早クモの化身の斬撃耐性を大して苦にしていない。
 後衛の魔法も通用するようになってきた。

 あとはセーブしていた力を開放して、敵の再生能力以上のダメージを与え続ければ……理論上は不死身の筈の蛇龍の側近も、ついには終焉の時を迎えることになる。

 殺したのではない。
 奪い尽くしたのだ。
 蛇王以上に蛇龍の因子を強く植え付けられたクモだったが、最後は人間の形すら維持することが出来ずに、クモとして消えていった。
 他の眷族達と、大した違いの無い最期。
 しかし、おかげでこの後の戦いが少しは楽になる筈だった。

 クモ女が消え失せたことを確認したらしいカタリナが、アジ・ダハーカに向かって魔法を放つ。
 初手は敢えてのマギスティール……魔力強奪魔法。
 蛇王の反応を見ていたオレからすれば想定の範囲内ではあったが、アジ・ダハーカもこの魔法を酷く嫌悪しているようだ。
 その巨体でそんなに速く動けるのかと言いたくなるほど俊敏に回避し、反撃と言わんばかりに出鱈目な量のファイアボールを放ってくる。
 兄以外の全員と転移したオレは、悠々とこれを回避。
 アジ・ダハーカが拡げたドーム状の障壁の外れまで一気に飛んだ。
 そして、やはり着弾の寸前で転移した兄が、アジ・ダハーカの長過ぎるほど長大な尾の先端を見事に斬り落とした。
 今は尾から生まれた巨大なカメと戦っていることを【遠隔視】で確認している。

 これは、いわゆる瀬踏み……小手調べだ。

「うん、やっぱりマギスティールは封印だな。じっくり倒そう」

「……残念ね。もし、コレが通用したなら少しは楽に戦えた筈なのに。じゃあ、あとは頼むわよ」

「あぁ、とりあえずは引き受けた」

『主様、やはり我輩だけでもお連れ下さいニャ!』

「トム、気持ちは分かるけど、ヒデを困らせちゃ駄目よ。アイが一番辛いんだから……」

「エネアさんの言う通りですよ? さぁ、私達は邪魔です。先に行きましょう」

「そうね。私は信じてるから、特に何も言わないわ。後で……ね」

『トリアだけじゃない。私も信じてる。ヒデ、待ってるよ?』

「あぁ、少しだけ待っててくれ」

 次々とその場を後にする仲間達。
 行き先はオレがついさっきばかりの『子ダンジョン』だ。
 ダンジョンは外からの攻撃では決して壊せない。
 その代わり内部に侵入して来られたら、子ダンジョン程度では大して防衛側が有利にはならないが、アジ・ダハーカ本体はあの巨体だ。
 眷族程度なら全く相手にもならないし、蛇王やクモ女クラスの配下は、そうポンポン生み出せるものでもないだろう。
 一時的な避難所として、シェルター代わりに子ダンジョンを使う。
 これはさすがに盲点だったが、極めて有効な策なのは間違いない。

 オレと兄とが転移を駆使して戦い、アジ・ダハーカから徐々に力を奪う。
 力の差がある程度埋まったら、改めて全員で戦うというプランだ。
 これが本当に上手くいくかどうかは、まだ未知数。
 しかし……今現在のアジ・ダハーカの状態をいる限りでは、思っていたより成功確率が高そうだ。

「ヒデちゃん、無理はしないでね?」

「もちろん……って、オレが言っても説得力が無いかな?」

「あははは……そうだね~。誰よりも説得力が無いかも」

「まぁ、もし本格的に無理そうならまた別の作戦を考えるさ。何しろ、アレを放置したら今までの全てが水の泡だ。絶対にオレ達が止めないと……だろ?」

「うん、それは分かってる。分かってるけど、それでも無理し過ぎはダメ。ヒデちゃん無しじゃ多分、勝てないもん」

「……そうかもね。分かった、約束する。絶対にまた後で会おう。皆と一緒に戦おう」

「うん!」

 ようやく笑ってくれた亜衣。
 その屈託の無い笑顔は、オレが愛してやまない息子のそれに良く似ていた。
 ……結局のところ、亜衣のこの笑顔にオレは惚れたんだよなぁ。
 一瞬だけ亜衣の華奢な身体を優しく抱き締め、それからそっと離す。

「じゃ、行ってくるな。兄ちゃん、今のところ上手くやってるけど、さすがにいつまでもは無理そうだ」

「うん、皆と一緒に待ってるね。いってらっしゃ~い」

 亜衣に手を振り、転移で戦場に舞い戻る。
 ちょうど先ほどのカメが倒れるところだった。
 あの兄が珍しく必死の形相をしている。

 …………待たせ過ぎちゃったかな?
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