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第5章
第286話
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「ヒデ、大丈夫か!?」
「兄ちゃん!? どうしてここに?」
全く迂闊という他は無いのだが、焦れた蛇王が攻勢を強めたタイミングであったためか、兄の接近に気付かなかった。
オレの真横に転移して来た兄は、お得意の奇襲で蛇王の首を刎ね飛ばそうとして左肩の蛇に阻まれ、しかし見事に蛇の胴体の中ほどから上下に両断してのけている。
「説明は戦いながらする。今、どんな状況だ?」
「それも戦いながらだね。ありがとう、来てくれて」
兄が斬り飛ばした蛇の上半分は、そのまま漆黒のワイバーンへと変異し、上空をグルグルと飛行している。
そして、斬った筈の蛇は既に元通りだ。
「カタリナは?」
「オレをここに案内してすぐ、亜衣ちゃんのところに飛んで行ったぞ。あっちは、あっちで大変らしい。こっちほどじゃないみたいだけどな」
亜衣も強敵に……心配だが、兄(というよりはカタリナ)が亜衣のところよりこちらを危険視したのならば、どうにか切り抜けてくれると信じよう。
「カタリナのガーゴイルが、アジ・ダハーカを発見したってことかな? それで兄ちゃんをここに?」
「そんなとこだな……ってか、こいつ。サウザンドスペルとかっていうドラゴンなんじゃないのか?」
「こっちの世界だとアジ・ダハーカ……って、それは何でも良いか。傷付けると、ああいう真っ黒い手下が出てくる。こっちを地道に倒す。力を奪う。その繰り返し。あっちでマチルダ達が戦ってるのも、そう」
「手下は斬れば死ぬのか?」
「うん」
「なら、どうとでもなるな。あのデカブツが親玉だろ? カタリナが、アレなるべく刺激すんなってよ」
「カタリナが……? 分かった。何かワケ有りなんだろうけど」
こうして話しながらも、兄は次々と蛇王の四肢や、蛇そのものを斬りつけ、傷口や血液から這い出てきた眷族をも屠っていく。
それでいて、全く返り血は浴びない。
オレの説明を待たずして、眷族の持つ毒についても理解しているようだ。
オレは咄嗟の判断で援護に回り、蛇王の横合いから速射性能が高く、ギリギリ蛇王にダメージを与えられる魔法だったり、傷を負わせられずとも蛇王の嫌がりそうな(マギスティールや拘束系)魔法を次々に放つ。
兄に蛇王の攻撃魔法が向かわぬように……。
「それより、カズはどうやってここに入って来たの? かなり強固な障壁が張られていた筈よ」
ここまでは少し離れたところで黙って話を聞いていたトリアだったが、蛇王が兄の猛攻に辟易したためか後方へ飛びのいたタイミングで、口を挟んで来た。
言われてみれば確かに……。
「あぁ、アレな。アレ、一通なんだよ。あ、一通って言われても分かんないか。外からは素通り出来るってことな。人も物も」
「カタリナが知ってたってことかしら? 他には何か聞いてない?」
「待っててくれってさ」
「……待つ? 何を?」
「そりゃ、援軍だろ。それまでアレを不用意に怒らせるなってよ」
「なるほど、ね。分かったわ。信じる。……と言うよりは、それしか無いもの」
トリアの言う通りだ。
実際、兄の参戦で蛇王との戦いはオレ達が優位な状況へと一気に変じた。
飛びのいた蛇王も、武器戦闘では不利と見たのか眷族の魔物の陰に隠れて魔法を乱射しているが、壁役の筈のモンスター達は兄に次々と仕留められているし、肝心の魔法戦でもオレとトリアの前に明らかに決め手を欠いている。
しかし、それもアジ・ダハーカが本格的に参戦して来たら、一気に逆転されるのは疑いようも無かった。
……様子見?
いや、どちらかと言えば興味が無いのか?
あるいは、この場に於いてアジ・ダハーカだけは、選別の判定という目的に寄与していない存在なのかもしれない。
蛇王は……イレギュラー?
あれ程の化け物が、亜神とは言え管理者の下の一守護者というのは、いくらなんでも無理が有る。
アジ・ダハーカに至っては言うまでも無いだろう。
今まで散々、神にも比肩し得るモンスターだとか半神だとか、神の末裔とされる巨人族だとかと戦って来たが、オレの記憶さえ正しければアジ・ダハーカは、そうした範疇からさえも逸脱する。
何しろ、伝説に残っているアジ・ダハーカの喧嘩相手は神そのものだったり、いわゆる勇者と謳われる英雄だったりするわけで、そんな化け物が唯々諾々と世界救済のための試練に力を貸すだろうか?
だとするなら……
「兄ちゃん、トリア、ちょっとわざとペースダウンしようか。このままのペースでいくとアレが出てきかねない」
「何か思い付いたな。ん、分かったぞ。蛇人間を、このまま泳がすってことで良いか?」
「……なるほど。待っててくれっていうカタリナの意志にも沿えるものね」
察しが良くて助かる。
どうやって賄っているのかは分からないが、いつ尽きるとも判然としない蛇王の膨大な魔力。
これを最大限に利用しようと思う。
これは言うなれば『ボーナスステージ』だ。
奪えば奪うほどに強くなれるオレの特性をフル活用するのに、蛇王ほど都合の良いスパーリングパートナーは居ない。
無限湧きのレベル上げスポット扱いしてやる。
『主様ー! こっちは終わりましたニャ!』
『すぐそっち行くね! って、カズが居るじゃない! 何で!?』
……マチルダ達にも協力して貰わないとな。
トムはともかく、マチルダはしっかり言い聞かせないと、アジ・ダハーカに矢を射掛けないとも限らない。
こうして思わぬ兄の参戦により、にわかに長期戦の様相へと戦局は推移したのだった。
「兄ちゃん!? どうしてここに?」
全く迂闊という他は無いのだが、焦れた蛇王が攻勢を強めたタイミングであったためか、兄の接近に気付かなかった。
オレの真横に転移して来た兄は、お得意の奇襲で蛇王の首を刎ね飛ばそうとして左肩の蛇に阻まれ、しかし見事に蛇の胴体の中ほどから上下に両断してのけている。
「説明は戦いながらする。今、どんな状況だ?」
「それも戦いながらだね。ありがとう、来てくれて」
兄が斬り飛ばした蛇の上半分は、そのまま漆黒のワイバーンへと変異し、上空をグルグルと飛行している。
そして、斬った筈の蛇は既に元通りだ。
「カタリナは?」
「オレをここに案内してすぐ、亜衣ちゃんのところに飛んで行ったぞ。あっちは、あっちで大変らしい。こっちほどじゃないみたいだけどな」
亜衣も強敵に……心配だが、兄(というよりはカタリナ)が亜衣のところよりこちらを危険視したのならば、どうにか切り抜けてくれると信じよう。
「カタリナのガーゴイルが、アジ・ダハーカを発見したってことかな? それで兄ちゃんをここに?」
「そんなとこだな……ってか、こいつ。サウザンドスペルとかっていうドラゴンなんじゃないのか?」
「こっちの世界だとアジ・ダハーカ……って、それは何でも良いか。傷付けると、ああいう真っ黒い手下が出てくる。こっちを地道に倒す。力を奪う。その繰り返し。あっちでマチルダ達が戦ってるのも、そう」
「手下は斬れば死ぬのか?」
「うん」
「なら、どうとでもなるな。あのデカブツが親玉だろ? カタリナが、アレなるべく刺激すんなってよ」
「カタリナが……? 分かった。何かワケ有りなんだろうけど」
こうして話しながらも、兄は次々と蛇王の四肢や、蛇そのものを斬りつけ、傷口や血液から這い出てきた眷族をも屠っていく。
それでいて、全く返り血は浴びない。
オレの説明を待たずして、眷族の持つ毒についても理解しているようだ。
オレは咄嗟の判断で援護に回り、蛇王の横合いから速射性能が高く、ギリギリ蛇王にダメージを与えられる魔法だったり、傷を負わせられずとも蛇王の嫌がりそうな(マギスティールや拘束系)魔法を次々に放つ。
兄に蛇王の攻撃魔法が向かわぬように……。
「それより、カズはどうやってここに入って来たの? かなり強固な障壁が張られていた筈よ」
ここまでは少し離れたところで黙って話を聞いていたトリアだったが、蛇王が兄の猛攻に辟易したためか後方へ飛びのいたタイミングで、口を挟んで来た。
言われてみれば確かに……。
「あぁ、アレな。アレ、一通なんだよ。あ、一通って言われても分かんないか。外からは素通り出来るってことな。人も物も」
「カタリナが知ってたってことかしら? 他には何か聞いてない?」
「待っててくれってさ」
「……待つ? 何を?」
「そりゃ、援軍だろ。それまでアレを不用意に怒らせるなってよ」
「なるほど、ね。分かったわ。信じる。……と言うよりは、それしか無いもの」
トリアの言う通りだ。
実際、兄の参戦で蛇王との戦いはオレ達が優位な状況へと一気に変じた。
飛びのいた蛇王も、武器戦闘では不利と見たのか眷族の魔物の陰に隠れて魔法を乱射しているが、壁役の筈のモンスター達は兄に次々と仕留められているし、肝心の魔法戦でもオレとトリアの前に明らかに決め手を欠いている。
しかし、それもアジ・ダハーカが本格的に参戦して来たら、一気に逆転されるのは疑いようも無かった。
……様子見?
いや、どちらかと言えば興味が無いのか?
あるいは、この場に於いてアジ・ダハーカだけは、選別の判定という目的に寄与していない存在なのかもしれない。
蛇王は……イレギュラー?
あれ程の化け物が、亜神とは言え管理者の下の一守護者というのは、いくらなんでも無理が有る。
アジ・ダハーカに至っては言うまでも無いだろう。
今まで散々、神にも比肩し得るモンスターだとか半神だとか、神の末裔とされる巨人族だとかと戦って来たが、オレの記憶さえ正しければアジ・ダハーカは、そうした範疇からさえも逸脱する。
何しろ、伝説に残っているアジ・ダハーカの喧嘩相手は神そのものだったり、いわゆる勇者と謳われる英雄だったりするわけで、そんな化け物が唯々諾々と世界救済のための試練に力を貸すだろうか?
だとするなら……
「兄ちゃん、トリア、ちょっとわざとペースダウンしようか。このままのペースでいくとアレが出てきかねない」
「何か思い付いたな。ん、分かったぞ。蛇人間を、このまま泳がすってことで良いか?」
「……なるほど。待っててくれっていうカタリナの意志にも沿えるものね」
察しが良くて助かる。
どうやって賄っているのかは分からないが、いつ尽きるとも判然としない蛇王の膨大な魔力。
これを最大限に利用しようと思う。
これは言うなれば『ボーナスステージ』だ。
奪えば奪うほどに強くなれるオレの特性をフル活用するのに、蛇王ほど都合の良いスパーリングパートナーは居ない。
無限湧きのレベル上げスポット扱いしてやる。
『主様ー! こっちは終わりましたニャ!』
『すぐそっち行くね! って、カズが居るじゃない! 何で!?』
……マチルダ達にも協力して貰わないとな。
トムはともかく、マチルダはしっかり言い聞かせないと、アジ・ダハーカに矢を射掛けないとも限らない。
こうして思わぬ兄の参戦により、にわかに長期戦の様相へと戦局は推移したのだった。
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