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第5章
第274話
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「ダークエルフのドールマスター? ねぇ……もしかして、見た目は小さな男の子だった?」
普段通り、それぞれのチームごとに成果報告を交わしていた時のこと……青葉城址ダンジョンの守護者についてオレが話していたら、それまでは聞き役に徹していたカタリナが興奮気味に席を立って問い掛けてきた。
「あ、あぁ。カタリナ、何か知ってるのか? 正直、俯きがちで性別不詳って感じだったけど、幼い子供の姿をしていたのは間違いない」
『ウニャ! 我輩は、女の子だと思ってましたのニャー』
「うん、私も~」
トム、亜衣には女の子に見えていたらしい。
トリアは口を開いていないが黙って頷いている。
あれ、何となく男の子だと思ってたのってオレだけだったのか?
「確かに女の子っていう説もあるけれど……それにしては伝わっている名前が男性的なのよね。人形遣いクリストフォルス……もし女性ならクリスティアナとかクリスティーナっていう名前になる筈じゃない?」
「有名な人なの? 私、知らないなぁ」
「うーん、マチルダは知らないかもね。賢者というよりは、隠者として伝わっているもの。私みたいに【創成魔法】に興味を持ったら必ず目にする名前なのだけど……」
「なるほど、その道では有名だけど……っていう名前なのか。住む世界は違っても、同じようなことは、どちらにも有るもんなんだな」
一般的な知名度は無くとも、その業界では有名……兄が言うように、確かにこちらの世界でも割と良く有る話だ。
「私も耳にしたことが有るわね。それにしても……彼が活躍したのって、ずいぶん昔の話じゃない?」
エネアが口を開いた。
トリアも頷いているところを見ると、それなり以上に名前が通った存在なのだろうか?
だとしたら、兄やオレの感想は見当外れということになるが……マチルダも、トムも相変わらずピンと来ていないようだし、何とも判断に困るところだ。
「幸か不幸か……人形遣いクリストフォルスは、幼い頃に真祖級の吸血鬼に見初められて、下僕にされたという話よ。しかも力を蓄えた後に反逆して、主を消滅させ自らが真祖に成り代わったと伝わっているわ」
「なるほど……それで醜い、醜い連呼していたのね。容姿は極めて整っていたのに、自分を醜いと言い張るから、不思議に思っていたのよ」
「だよね。物凄く綺麗な顔立ちだったよ」
『我輩にはエルフの美醜は良く分かりませんけどニャー。不死者となった身の上を不本意に思っているとすれば、あながち間違いでも無いのかもしれませんニャ』
クリストフォルスを実際に目にした3人も思い思いに感想を述べる。
トムの言う『不死者となったことが不本意』っていうのは、確かに有りそうな話だ。
それにクリストフォルスの見た目が幼い子供の姿のまま固定されている理由も、幼い頃にバンパイアとなったからということなら頷ける。
「あぁ……私も会いたかったなぁ。ヒデ、私を彼に会わせてくれない? 何なら目隠しして連れて行ってくれても構わないわ。とにかく彼に教えを乞いたいの」
「うーん……誰にも姿を見せたくないって言ってたからなぁ。かなり難しいかもしれないぞ? 会話自体は管理者権限の拡大で、ダンジョンのマスタールーム同士なら、遠隔でも出来るようになったけど……」
「何それ、初耳よ!?」
「いや、だって初めて話したし……」
「「「「ヒデ……」」」」
「ヒデちゃん……」
『主様……』
「「ヒデさん……」」
何で皆そこで一斉に同じように、呆れたような、諦めたような反応を示すのか…………解せぬ。
◆
結局、夜も遅いというのにカタリナにせっつかれたオレは、最寄りのダンジョンの管理者用の居室(略称マスタールーム)から、クリストフォルスに【念話】を繋ぐ破目になってしまった。
カタリナの熱意に押された(圧された……の方がニュアンスとしては正しいかもしれない)クリストフォルスは、自らの姿を隠した状態ならば、カタリナへ自分の技術を伝えても良いという言質を与えてしまい、カタリナは暫くクリストフォルスのもとに通うことになる。
漏れ聞いた話の内容は、ゴーレムやリビングドールの作製に関して門外漢のオレには何が何やらサッパリ分からなかったが、どうやらカタリナが今までに常識だと思い込んでいたセオリーがかなり無駄の多いもので技術的には間違いが多く、クリストフォルスに言わせれば『魔力の無駄遣い』以外の何物でも無いのだそうだ。
それにしてはカタリナが最近まで仮のボディとして使っていた、カタリナ本人に生き写しのリビングドールは精巧な出来だったように思うのだが……クリストフォルスの手に掛かれば、あれ以上のモノが容易く出来上がるのだろうなということはオレにも何となく分かった。
カタリナの技量が上がれば、どうしても数的な不利を強いられそうな対スタンピードの防衛戦において、かなりのアドバンテージになりそうだ。
カタリナとの交流を通してクリストフォルスも手を貸す気になってくれれば、頼もしいことは間違い無いだろうが、今はそこまでのことは望むまい。
もちろん、あわよくば……という気持ちが全く無いと言えば嘘になってしまうかもしれないが、嫌がっている幼子を戦いに駆り出すのは、何だか違う気がしてもいる。
たとえ中身がとっくに幼子と呼べない年齢で有っても、だ。
カタリナが明日から探索に同行してくれなくなるのは痛い。
痛いが、既に山場は越えていることだし残りの攻略予定のダンジョンは、他のメンバーに頑張ってもらうことにしよう。
しかし……すっかり2人が意気投合して話し込んでしまっているのだが、コレいつ帰れるのだろうか?
あぁ、睡魔が…………
普段通り、それぞれのチームごとに成果報告を交わしていた時のこと……青葉城址ダンジョンの守護者についてオレが話していたら、それまでは聞き役に徹していたカタリナが興奮気味に席を立って問い掛けてきた。
「あ、あぁ。カタリナ、何か知ってるのか? 正直、俯きがちで性別不詳って感じだったけど、幼い子供の姿をしていたのは間違いない」
『ウニャ! 我輩は、女の子だと思ってましたのニャー』
「うん、私も~」
トム、亜衣には女の子に見えていたらしい。
トリアは口を開いていないが黙って頷いている。
あれ、何となく男の子だと思ってたのってオレだけだったのか?
「確かに女の子っていう説もあるけれど……それにしては伝わっている名前が男性的なのよね。人形遣いクリストフォルス……もし女性ならクリスティアナとかクリスティーナっていう名前になる筈じゃない?」
「有名な人なの? 私、知らないなぁ」
「うーん、マチルダは知らないかもね。賢者というよりは、隠者として伝わっているもの。私みたいに【創成魔法】に興味を持ったら必ず目にする名前なのだけど……」
「なるほど、その道では有名だけど……っていう名前なのか。住む世界は違っても、同じようなことは、どちらにも有るもんなんだな」
一般的な知名度は無くとも、その業界では有名……兄が言うように、確かにこちらの世界でも割と良く有る話だ。
「私も耳にしたことが有るわね。それにしても……彼が活躍したのって、ずいぶん昔の話じゃない?」
エネアが口を開いた。
トリアも頷いているところを見ると、それなり以上に名前が通った存在なのだろうか?
だとしたら、兄やオレの感想は見当外れということになるが……マチルダも、トムも相変わらずピンと来ていないようだし、何とも判断に困るところだ。
「幸か不幸か……人形遣いクリストフォルスは、幼い頃に真祖級の吸血鬼に見初められて、下僕にされたという話よ。しかも力を蓄えた後に反逆して、主を消滅させ自らが真祖に成り代わったと伝わっているわ」
「なるほど……それで醜い、醜い連呼していたのね。容姿は極めて整っていたのに、自分を醜いと言い張るから、不思議に思っていたのよ」
「だよね。物凄く綺麗な顔立ちだったよ」
『我輩にはエルフの美醜は良く分かりませんけどニャー。不死者となった身の上を不本意に思っているとすれば、あながち間違いでも無いのかもしれませんニャ』
クリストフォルスを実際に目にした3人も思い思いに感想を述べる。
トムの言う『不死者となったことが不本意』っていうのは、確かに有りそうな話だ。
それにクリストフォルスの見た目が幼い子供の姿のまま固定されている理由も、幼い頃にバンパイアとなったからということなら頷ける。
「あぁ……私も会いたかったなぁ。ヒデ、私を彼に会わせてくれない? 何なら目隠しして連れて行ってくれても構わないわ。とにかく彼に教えを乞いたいの」
「うーん……誰にも姿を見せたくないって言ってたからなぁ。かなり難しいかもしれないぞ? 会話自体は管理者権限の拡大で、ダンジョンのマスタールーム同士なら、遠隔でも出来るようになったけど……」
「何それ、初耳よ!?」
「いや、だって初めて話したし……」
「「「「ヒデ……」」」」
「ヒデちゃん……」
『主様……』
「「ヒデさん……」」
何で皆そこで一斉に同じように、呆れたような、諦めたような反応を示すのか…………解せぬ。
◆
結局、夜も遅いというのにカタリナにせっつかれたオレは、最寄りのダンジョンの管理者用の居室(略称マスタールーム)から、クリストフォルスに【念話】を繋ぐ破目になってしまった。
カタリナの熱意に押された(圧された……の方がニュアンスとしては正しいかもしれない)クリストフォルスは、自らの姿を隠した状態ならば、カタリナへ自分の技術を伝えても良いという言質を与えてしまい、カタリナは暫くクリストフォルスのもとに通うことになる。
漏れ聞いた話の内容は、ゴーレムやリビングドールの作製に関して門外漢のオレには何が何やらサッパリ分からなかったが、どうやらカタリナが今までに常識だと思い込んでいたセオリーがかなり無駄の多いもので技術的には間違いが多く、クリストフォルスに言わせれば『魔力の無駄遣い』以外の何物でも無いのだそうだ。
それにしてはカタリナが最近まで仮のボディとして使っていた、カタリナ本人に生き写しのリビングドールは精巧な出来だったように思うのだが……クリストフォルスの手に掛かれば、あれ以上のモノが容易く出来上がるのだろうなということはオレにも何となく分かった。
カタリナの技量が上がれば、どうしても数的な不利を強いられそうな対スタンピードの防衛戦において、かなりのアドバンテージになりそうだ。
カタリナとの交流を通してクリストフォルスも手を貸す気になってくれれば、頼もしいことは間違い無いだろうが、今はそこまでのことは望むまい。
もちろん、あわよくば……という気持ちが全く無いと言えば嘘になってしまうかもしれないが、嫌がっている幼子を戦いに駆り出すのは、何だか違う気がしてもいる。
たとえ中身がとっくに幼子と呼べない年齢で有っても、だ。
カタリナが明日から探索に同行してくれなくなるのは痛い。
痛いが、既に山場は越えていることだし残りの攻略予定のダンジョンは、他のメンバーに頑張ってもらうことにしよう。
しかし……すっかり2人が意気投合して話し込んでしまっているのだが、コレいつ帰れるのだろうか?
あぁ、睡魔が…………
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