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第5章

第250話

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 結局のところ【解析者】のレベルが上がった恩恵というものはオレだけでは無く、オレの周りの皆の状況をもガラリと一変させてしまったようだ。
 カタリナの例はその最たるものだが、トムのシッポが増えたり、兄のスキルが変化したり……同時に全員が劇的に強くなれたことだって、本来なら驚くべきことだろう。
 そしてそれは、何も戦闘面に限ったことでは無かった。

 柏木さんの新作が……ちょっと本格的にヤバい。

 魔石からマジックアイテムのアクセサリーを作り出す技術を確立したのだ。
 基本的なデザインは指輪。
 指に填めると、魔石の落とし主……つまりは、その魔石をドロップしたモンスターの全能力の半分程度を持ち主に付与出来る。
 それがドラゴンの指輪ならドラゴンの半分程度の強さを即時付与……と、言いたいところだが魔石のサイズ的に、ドラゴンや巨人の魔石は指輪に加工するのが無理らしい。
 しかし……例えば、オーガの腕力の半分でも一般の人が最初から得られてしまうなら、どんな武器や防具でも重くて扱えないなんてことは無くなるだろうし、レッサーデーモンや下位天使クラスの半分の魔力が最初から得られてしまうなら、全くの素人でも魔法の杖を持たせれば一人前の魔術師クラスにはなれてしまうことになる。
 オレ達にとっても馬鹿に出来ない強化アイテムとなるのは間違いないだろう。
 残念ながら、この指輪の効力は重複しないというが、他の種類のマジックアイテムとは併用が可能だ。
 今は腕輪タイプのものが作れないか試しているらしいから、そうなったらいよいよチート自衛団の出来上がりだろう。
 指輪の台座にミスリルを使うらしいが、ミスリルなら今は入手が困難とまでは言えなくなっているから、どんどん作ってもらうことにした。

 それからオレの【調剤】。
 今までも作れていたポーションの上位互換は勿論、いよいよ作れるモノの種類が増えてきた。
 今のところ1日1本という服用制限付きだが、各種ドーピング剤まで作ることが出来るようになったのだ。
 解毒ポーションなどでは対応出来ない各種疾病の治療薬が作れるようになったのも大きい。
 高血圧や高脂血症、高尿酸値症(悪化すれば痛風)など……病院が休業したことで、そろそろ日常的に服用していた薬のストックが無くなっている人はかなり多かった。
 中には材料に今の世の中では手に入りにくい物(純水や生薬など)が含まれていた薬もあったが、大半はダンジョンから手に入れられるもので代用可能だったり、魔法で作り出す手段も有ったためあまり苦にならない。
 スキル使用に伴う魔力消費も、全く問題にならない範囲だ。
 そして……地味に最も嬉しかったのが、魔力回復ポーションだろう。
 まだ低級らしいが、それでも入手手段が他に無いのだからそれだけでも凄いことだと思うし、何より素晴らしいのは割合で回復してくれる点だ。
 保有魔力の1割……これが多いか少ないかは別にして、10本飲めば誰でも全回復が可能ということになる。
 ……まぁ、ちょっと水っ腹になるのは避けられそうに無いが。

 閑話休題それはそれとして……

 一夜明けた今日、オレ達は選抜部隊を編成して最もダンジョン周辺の危険度が高い地域に、モンスターの間引きに来ている。

 そう、仙台駅周辺エリアだ。

 メンバーはオレ、兄、妻、マチルダ、エネア。

 昨日、モンスターの間引きを終えた青葉城址ダンジョン周辺には、こちらに来ていないメンバーが強化のため向かっている。
 昨日オレと同行していたカタリナ、トリア、トムは、ドラゴン討伐を経験したことで他の仲間より一歩リードしたような恰好になっているため、護衛役として向こうに行ってもらうことにした。
 リポップしているだろうモンスターだけでも、他の地域とは比べ物にならない強さだし、イレギュラーのことを考えたら過剰戦力とも言えないだろう。
 いまだドラゴン討伐未経験な父と右京君、それから飛行タイプのドラゴンや、巨人の討伐は未経験な沙奈良ちゃんのことを考えると、むしろ少し不安なぐらいだ。

 今回もまずは安全地帯から、ダンジョンの領域内にいるモンスターを狩っていくことになる。
 さっそく現れたのはポイズンジャイアント。
 体表は紫の皮膚で覆われていて、パッと見では巨大なゾンビのような外見だが、そう見えるのは自らの猛毒で皮膚がただれているだけの話で、別に本当にアンデッドなわけではないらしい。
 とある国の最難関ダンジョンのラスボスだったらしいが、携行ミサイルなどの軍用兵器を雨霰と浴びせてもなかなか倒せなかったというから、相当な難敵だろう。
 しかも、返り血を浴びただけでも即死してしまうような猛毒を、自分から積極的に霧状のブレスとして放つという話だ。
 昨日は現れなかった種類の巨人だから、カテゴリー的には巨人系モンスターの中でも上位に位置するのだろう。
 さすがにアレに接近するのは御免だ。

「ポイズンジャイアントだね。攻撃手段はとにかく毒。毒爪、毒牙、おまけに猛毒ブレス有り。エネア、風向きのコントロールに集中してくれ。他の皆で魔法攻撃。返り血も即死級の猛毒だから接近戦は絶対に無しで」

「……了解」
「は~い」
「了解っ」
「分かったわ」

 ちょっと兄は残念そうだったが、さすがに相手が悪すぎる。
 兄に【瞬転移】を見せてもらうのは別のモンスターと戦う時にしよう。

 ポイズンジャイアントはオレ達が接近して来ないと分かると、早速ブレスで攻撃を仕掛けてきた。
 聞くと見るとは大違い。
 かなり指向性の高いブレスだったが、確かに霧状でもあった。
 エネアの行使した風の精霊魔法で何とか食い止めているが、無警戒に近寄っていたらあっという間にブレスを食らって全滅していたかもしれない。
 オレもどうせなら攻撃手段として風の魔法を使おう。

 今日のメインはオレ以外がジャイアントスレイヤー、ドラゴンスレイヤーになることだ。

 兄の魔法も暫く見ない間にかなりの水準に達していた。
 どうやらポイズンジャイアントの見た目で判断したのだろうが、兄は炎の魔法を選んだようだ。
 兄の性格的に火の属性魔法は相性が良いのか、特に火が弱点というわけでも無い筈のポイズンジャイアントにも非常に効いている。

 マチルダも特に魔法が得意な印象は無いが、弓矢と組み合わせて巧みに敵を攻撃していた。
 エンチャントウェポンと同じく、短時間の付与魔法といったところなのだろうが、基本的には使い捨てになる矢に魔法を掛けるあたりが、なかなか贅沢に見える。
 光魔法を選んだらしいが、マチルダもポイズンジャイアントの見た目に引きずられたかな?
 ポイズンジャイアントの右目を、第一射で潰してのけた手並みは見事なものだった。

 妻は例の銀光を薙刀の先から飛ばすことまで出来るようになったようだ。
 無属性魔力波の応用のようだが……妻のことだから『試したら出来ちゃった』とか、あっさり口にしそうで怖いものがある。
 誰よりも早くポイズンジャイアントの左腕を斬り飛ばしたのは、妻の魔法だった。

 結果的には完勝。

 途中からオレはエネアと一緒にブレスの抑え込みに集中したが、魔法にも高い抵抗力を持っているように見えたポイズンジャイアント相手に3人の魔法が充分に通用していたのは、かなりの収穫だ。

 次の獲物は……アレか。

 オレの見上げた先には、銀色の鱗を持った巨大なドラゴンが急速に迫りつつあった。
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