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第4章
第239話
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これほど厄介な相手だとは思わなかった。
正直な感想だ。
この、リッチという名前で知られているアンデッドの魔導師が、生前の記憶を保持したまま自らの意思でこの姿になったタイプなのは、先ほどの短い会話からも窺い知ることが出来た。
純粋なモンスターとして、無から創り出されたタイプのリッチなら、ある意味では話が単純なのだろう。
恐らくは闇属性を主体に属性魔法がメインの攻撃手段だったと思う。
しかし生前の記憶が有るということは、そうしたイメージからかけ離れた攻撃手段を持っていても、なんら不自然では無いということにもなる。
死霊術とでも言うのだろうか?
ゾンビや、ゴーストに限らず様々なアンデッドモンスターがヤツの足元から飛び出しては、オレ達に襲い掛かって来た。
召喚術も修めていたのだろうか?
天使、悪魔、ワイバーン、コッカトライス……厄介なモンスターを次々に喚び出しては使役する。
創成魔法にも長けていたのだろうか?
ゴーレム、ギャザー、リビングソード、ブロッブ……ポンポン産み出していた。
魔法の並列行使能力は抜群だ。
次々と自らを守るモンスターを喚び出し、産み出しオレ達にけしかけて来ながらも、リッチの攻撃魔法は止む気配すら無い。
長大な氷柱が舞い、巨大な炎球が飛び交い、地は割れ、風は吹き荒ぶ。
閃光の刃……暗黒の槌。
ありとあらゆる魔法を使いこなし、苛烈な攻撃を仕掛けて来る。
ちょっと前のオレでは確実に手に余る相手だったことだろう。
事実、トムは既に後方に退き援護に徹している。
もちろんオレが下がらせたわけだが……。
トムの援護を受けながら、ダンジョンの規模の割にはかなり広い守護者の間を縦横に駆け回り、回避と攻撃を繰り返す。
中には躱しようの無い魔法も確かに有ったが、魔法への抵抗力というものは、やはり理外の力らしい。
最後までオレが大した傷を負うことは無かった。
『きっ、貴様……バケモノか? 何故、倒れぬ? 何故、儂が滅することにならねばならぬのだ!?』
正真正銘のバケモノに、バケモノ呼ばわりされたく無いなぁ……。
さすがに、ちょっと傷付く。
まぁ、お互いにバケモノってことだよな。
認めたくは無いが。
「努力したからな、オレ。勝てるかどうか微妙な敵から逃げることもしなかった。常に挑んできたよ。乗り越えて、また壁に当たって、今度は飛び越えて……とっくに普通じゃなくなって……でもさ、仕方ないだろう? そうしなきゃ護れそうに無かったんだから」
『……護るだと? 何をだ? まさか世界などと言うでは無かろうな? とっくにこちらの世界はダメになっておろうに』
…………よく喋ることだ。
最早ひび割れ、崩れかけた頭蓋骨しか残っていないクセに。
魔力も殆ど空っぽ。
【危機察知】も既に反応していないほど明確な死にかけなのに、減らず口は止まらない。
よほど納得がいかないらしい。
「家族だよ。オレは夫だし、息子だし、弟だし、父親なんだ。そんなオレが一番に護るのは家族に決まってるだろ?」
『解せぬ! 自らよりも優先するものが家族だと? そんなものを護るために、そこまでの力を蓄えただと!? そんな世迷い言をほざくでッ…………』
──ぐしゃり。
……いいかげん、うるさい。
聞かれたから答えてやってただけなのに、図に乗りやがって。
そんなものじゃない。
たまらなく大切なものだ。
バケモノにでも何でもなってやる。
……それで護れるなら。
◆
リッチの既に朽ちかけていた頭骨を踏み潰した瞬間から【解析者】が次々に脳内アナウンスを鳴らし続けているが、今はそれすらどうでも良かった。
……コイツ、本当にどこから来たんだ?
守護者権限を奪取したことで閲覧が可能になった配置することの出来るモンスターのリストの中には、リッチの名前は無い。
念のため、その他の呼び名(ノーライフキングだとか……)を探してみても、やはり見付からないのだ。
アラクネという、下半身が蜘蛛で上半身が人間の女性という特徴を持ったモンスターの名前は有るが、リッチやそれを思わせるモンスターの名前はどこにも見付からない。
しかも、アラクネ?
……倒した覚えが無いぞ?
アラクネは、さすがに他のモンスターと見間違えるような印象の薄いモンスターでは無い。
ハーピーやラミアと並んで有名なモンスターだろうし、さすがに見たら忘れないだろう。
「トム、今日アラクネって見た?」
『アラクネですかニャ? 少なくとも迷宮の中には居なかったですニャー。外で戦った魔物達の中にも含まれていなかった筈ですニャ』
「だよなぁ。でも、このダンジョンに配置可能なモンスターの中で、他に守護者権限を持てそうなのが居ないんだよ」
『ウニャ? 先ほどの偉ぶったリッチーが守護者だったのではないのですかニャ?』
「あぁ、配置可能なモンスターのリストにリッチの名前は無い。別名での登録も無さそうだ。トムも見てくれるか?」
『承りましたニャー』
……トムが閲覧している間も引き続き考えてみるが、これはやはりおかしい。
今までにこんなことは1回も無かった。
エネアの本体であるアルセイデスや、カタリナと同じ高位レイス、レッサードラゴンと同格とまで言われているデュラハンさえ、同一ダンジョンに限定すればだが、膨大な量の魔素と引き換えに配置可能だったのだ。
さすがにトリアの本体のナイアデスは膨大な……では済ませられない量の魔素が必要だが、トリアの居た観音像のダンジョンならば配置すること自体は不可能では無いらしかった。
ちなみに縁もゆかりもないダンジョンに、このクラスのモンスターを配置することはまだ出来ない。
『……無いようですニャー。そもそも他の名前は全て我輩の知っている魔物のものですニャ。さすがに混同しようが無いのですニャ』
やっぱりか。
……となるとアラクネに聞くしかない。
単なるアラクネではなく、リッチに守護者権限を奪われたのだろう本人(?)に。
…………喚び出してみるか。
正直な感想だ。
この、リッチという名前で知られているアンデッドの魔導師が、生前の記憶を保持したまま自らの意思でこの姿になったタイプなのは、先ほどの短い会話からも窺い知ることが出来た。
純粋なモンスターとして、無から創り出されたタイプのリッチなら、ある意味では話が単純なのだろう。
恐らくは闇属性を主体に属性魔法がメインの攻撃手段だったと思う。
しかし生前の記憶が有るということは、そうしたイメージからかけ離れた攻撃手段を持っていても、なんら不自然では無いということにもなる。
死霊術とでも言うのだろうか?
ゾンビや、ゴーストに限らず様々なアンデッドモンスターがヤツの足元から飛び出しては、オレ達に襲い掛かって来た。
召喚術も修めていたのだろうか?
天使、悪魔、ワイバーン、コッカトライス……厄介なモンスターを次々に喚び出しては使役する。
創成魔法にも長けていたのだろうか?
ゴーレム、ギャザー、リビングソード、ブロッブ……ポンポン産み出していた。
魔法の並列行使能力は抜群だ。
次々と自らを守るモンスターを喚び出し、産み出しオレ達にけしかけて来ながらも、リッチの攻撃魔法は止む気配すら無い。
長大な氷柱が舞い、巨大な炎球が飛び交い、地は割れ、風は吹き荒ぶ。
閃光の刃……暗黒の槌。
ありとあらゆる魔法を使いこなし、苛烈な攻撃を仕掛けて来る。
ちょっと前のオレでは確実に手に余る相手だったことだろう。
事実、トムは既に後方に退き援護に徹している。
もちろんオレが下がらせたわけだが……。
トムの援護を受けながら、ダンジョンの規模の割にはかなり広い守護者の間を縦横に駆け回り、回避と攻撃を繰り返す。
中には躱しようの無い魔法も確かに有ったが、魔法への抵抗力というものは、やはり理外の力らしい。
最後までオレが大した傷を負うことは無かった。
『きっ、貴様……バケモノか? 何故、倒れぬ? 何故、儂が滅することにならねばならぬのだ!?』
正真正銘のバケモノに、バケモノ呼ばわりされたく無いなぁ……。
さすがに、ちょっと傷付く。
まぁ、お互いにバケモノってことだよな。
認めたくは無いが。
「努力したからな、オレ。勝てるかどうか微妙な敵から逃げることもしなかった。常に挑んできたよ。乗り越えて、また壁に当たって、今度は飛び越えて……とっくに普通じゃなくなって……でもさ、仕方ないだろう? そうしなきゃ護れそうに無かったんだから」
『……護るだと? 何をだ? まさか世界などと言うでは無かろうな? とっくにこちらの世界はダメになっておろうに』
…………よく喋ることだ。
最早ひび割れ、崩れかけた頭蓋骨しか残っていないクセに。
魔力も殆ど空っぽ。
【危機察知】も既に反応していないほど明確な死にかけなのに、減らず口は止まらない。
よほど納得がいかないらしい。
「家族だよ。オレは夫だし、息子だし、弟だし、父親なんだ。そんなオレが一番に護るのは家族に決まってるだろ?」
『解せぬ! 自らよりも優先するものが家族だと? そんなものを護るために、そこまでの力を蓄えただと!? そんな世迷い言をほざくでッ…………』
──ぐしゃり。
……いいかげん、うるさい。
聞かれたから答えてやってただけなのに、図に乗りやがって。
そんなものじゃない。
たまらなく大切なものだ。
バケモノにでも何でもなってやる。
……それで護れるなら。
◆
リッチの既に朽ちかけていた頭骨を踏み潰した瞬間から【解析者】が次々に脳内アナウンスを鳴らし続けているが、今はそれすらどうでも良かった。
……コイツ、本当にどこから来たんだ?
守護者権限を奪取したことで閲覧が可能になった配置することの出来るモンスターのリストの中には、リッチの名前は無い。
念のため、その他の呼び名(ノーライフキングだとか……)を探してみても、やはり見付からないのだ。
アラクネという、下半身が蜘蛛で上半身が人間の女性という特徴を持ったモンスターの名前は有るが、リッチやそれを思わせるモンスターの名前はどこにも見付からない。
しかも、アラクネ?
……倒した覚えが無いぞ?
アラクネは、さすがに他のモンスターと見間違えるような印象の薄いモンスターでは無い。
ハーピーやラミアと並んで有名なモンスターだろうし、さすがに見たら忘れないだろう。
「トム、今日アラクネって見た?」
『アラクネですかニャ? 少なくとも迷宮の中には居なかったですニャー。外で戦った魔物達の中にも含まれていなかった筈ですニャ』
「だよなぁ。でも、このダンジョンに配置可能なモンスターの中で、他に守護者権限を持てそうなのが居ないんだよ」
『ウニャ? 先ほどの偉ぶったリッチーが守護者だったのではないのですかニャ?』
「あぁ、配置可能なモンスターのリストにリッチの名前は無い。別名での登録も無さそうだ。トムも見てくれるか?」
『承りましたニャー』
……トムが閲覧している間も引き続き考えてみるが、これはやはりおかしい。
今までにこんなことは1回も無かった。
エネアの本体であるアルセイデスや、カタリナと同じ高位レイス、レッサードラゴンと同格とまで言われているデュラハンさえ、同一ダンジョンに限定すればだが、膨大な量の魔素と引き換えに配置可能だったのだ。
さすがにトリアの本体のナイアデスは膨大な……では済ませられない量の魔素が必要だが、トリアの居た観音像のダンジョンならば配置すること自体は不可能では無いらしかった。
ちなみに縁もゆかりもないダンジョンに、このクラスのモンスターを配置することはまだ出来ない。
『……無いようですニャー。そもそも他の名前は全て我輩の知っている魔物のものですニャ。さすがに混同しようが無いのですニャ』
やっぱりか。
……となるとアラクネに聞くしかない。
単なるアラクネではなく、リッチに守護者権限を奪われたのだろう本人(?)に。
…………喚び出してみるか。
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