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第4章

第237話

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 まだまだ顔色の悪い右京君。
 すっかり縮んでしまったエネア。
 空間庫の中身を洗いざらい放出してしまったトム。

 よくもまぁここまで……と言いたくなるほど、オレ達パーティの継戦能力は著しく減退していた。

 グリフォンのドロップアイテムらしき濃緑の魔石とともに、トムの武器や雑貨も空から落ちて来たが、せっかくトムが風の精霊魔法で優しく軟着陸させたというのに引き続き使用に耐え得る物は、ほんの一握りといったところだ。
 落下による破損では無い。
 高速飛行中のグリフォンが纏っていた風の鎧に弾き返されたことが原因で、トムの武器の大半がダメになってしまったという方が正しいだろう。

 エネアは魔力をオレに譲渡した結果、今は空っぽに近い状態なうえ、武器での戦闘は全く期待出来ない。
 本来はそこそこ長弓が使えるらしいが、それも大人の姿なら……だ。
 幼女になってしまったエネアでは、まともに扱えないだろう。

 右京君は、防具こそグリフォンの翼撃によってズタズタに引き裂かれてしまったものも多かったが、武器などは無事だ。
 それでも死にかけていたぐらいだし、体調が優れないのは間違いない。
 自前の魔力も先ほどの掃討戦途中でほぼ無くなり、途中から例の外付けの付属パーツで魔力不足を補いながら戦っていたぐらいだ。
 しかもパーツの予備も心許ないらしい。

 オレは幾らか心臓の鼓動がうるさくなっているぐらいで身体そのものはピンピンしているし、何ならグリフォンの存在力もあらかた奪ったわけだから、むしろ戦闘前より戦力的には充実している。

 そこで……いったん【転移魔法】で退却し、改めて今日のうちにオレが単独でダンジョン攻略に挑むことにした。
 せっかくダンジョン周辺のモンスターを狩り尽くしたのにここで完全に撤退しては最悪の場合は元の木阿弥になってしまう可能性すら有るからだ。

 ◆

 エネアは本体と合流するため、ド田舎ダンジョンへ。
 右京君は彼の自宅へ。
 トムも武器の補充のため、右京君と一緒に柏木さん宅へ。
 それぞれの後ろ姿を見送りながら、空腹を覚えたオレも自宅へ。

 ちょうど昼過ぎ。
 どうせどこかで昼食を摂るのなら、少しの間だけでも息子の顔が見たかったのだ。

 あいにく母や息子達は昼食を済ませてしまっていたが、息子が積み木を並べて遊ぶのを見ながら食べる弁当は、普段ダンジョンの片隅でチャチャっと済ませてしまうものとは比較にもならないぐらい美味く感じた。
 息子のお気に入りの積み木はパンの顔を持つヒーローと、その仲間やライバル(?)達の笑顔がカラフルに描かれたものだ。
 息子なりに彼らの関係性をそれなりに把握しているらしく、いつも同じ並びにしている。
 パンのチームとバイ菌のチームとそれ以外。
 犬のキャラクターも、しっかりパンのチームとして認識しているようだ。
 ちなみに積まない。
 ひたすら並べる。
 並べ終わったら、お引っ越し。
 違う場所に同じ順番で並べることを繰り返す。

 食事を終え、息子の邪魔をしないように注意しながら身支度を整える。
 積み木並べ職人さんは、オレが積み木に勝手に触れると悲しそうな顔をするのだ。
 ……と、トムが戻って来た。
 息子の背中に寄り添うように寝ているエマ(飼い猫)に一礼すると、こちらに早足で向かって来る。

『主様、お待たせしましたニャ! 準備万端、整いましたのですニャー』

「は? トムも行くのか?」

『ウニ! 何を仰いますかニャー? 我輩はご一緒するに決まっているのですニャ!』

 ぷんすか……猫の表情なんてさすがに分からないがトムのは良く分かる。
 どうやら本気で同行するつもりらしい。

「いや、だって……武器は揃ったのか?」

『あの御仁は極めて優秀なのですニャー。もう、あらかた揃いましたニャ。既に作ってあった物も多かったのですニャー』

 どうも試作品なども含めて、トムの扱える物は根こそぎ持って来たようだ。
 後で柏木さんには、お礼とお詫びをしなきゃな。
 まぁ、無理を言って全て作らせたわけでは無いらしいだけマシかもしれないが……。

「分かった。トム、一緒に行こう。援護もだけど隠し部屋が有ったらよろしくな」

『ウニャ。了解致しましたニャー』

 気付いたら息子がじっとオレ達を見ていた。
 ネコと喋る父親……あまり教育には良くないような気もする。

 ◆

 ダンジョン周辺にリポップしていたモンスターの数は極めて少なく、それもあっという間に殲滅してのけたオレ達は、その勢いのまま手始めに侵入したダンジョンをも瞬く間に踏破していた。

 そう、踏破だ。

 守護者の間らしき最終層のボス部屋に居たのは、何やら貴族趣味な装備品に身を包まれたトロルメイジとその取り巻きらしいトロルやオーガ達だったのだが、残念ながらコイツらは守護者では無いらしかった。
 そもそも【交渉】自体が出来ないまま戦闘に突入したため、いつもの身代わりモンスターだと判断したうえで討伐。
 いつもならその直後に現れる本物の守護者と、改めて【交渉】しようという腹積もりだったわけだが、これが見事に空振りに終わったのだ。
 待てど暮らせど本物の守護者が出てくる気配が無かった。
 つまり、このダンジョンは既に他の守護者によって【侵攻】を受け、本来の守護者は死亡していると見て間違いないようだ。

 一応、踏破報酬としていつもと違う背表紙の色のスキルブックも得たことだし、かなりの数のモンスターも狩った。
 それらのモンスターから得た戦利品も馬鹿にならない量だし、質もそこそこの水準。
 それに、トムの発見した隠し部屋に有った宝箱から久しぶりに大力(たいりき)シリーズの防具も手に入った。
 ケトルハット(いわゆるヤカン帽)のような形状の兜で、腕力に乏しい人には持ってこいの性能だ。
 マジックアイテムの兜は入手しにくい部類の防具なので貴重品だったりもする。

 決して踏破が無駄だったとは思わないが、また厄介ごとの匂いがし始めたのも否定出来ない。

 近隣のダンジョンを呑み込んで成長し続けている守護者が、残り4つのダンジョンのどれかに……いる。
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