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第4章

第228話

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 アダマントの杭剣を柏木さんに見せると、鍛冶師の血が疼き始めでもしたのか、早速そのまま作業部屋へと向かってしまった。
 待つこと暫し……。
 しばらくして戻ってきた柏木さんの手には、先ほどまでと何ら変わらぬ杭剣の姿が有った。

「すまない、まだコレは私の手に負えない代物のようだ。分解や素材化はおろか、加工や強化すら出来ない。コレはまだ宗像君が持っていて欲しい」

 そう言った柏木さんの顔には、申し訳なさよりも隠しきれない悔しさが滲んでいる。
 実際、柏木さんで手に負えないなら他にどうするアテも無い。
 しばらくはオレが所有し、また投擲武器としてでも使うしか無いだろう。

「分かりました。こちらこそ急ですいません」

「いや、君に謝られてしまうと私も立つ瀬が無いよ。単純に私の力不足だ。それはそうと……また新しい技術を編み出したんだ。君達には必要性が乏しいが、戦う力の不充分な人達には極めて有用だと思う。これを見てくれるかい?」

 そう言って柏木さんがオレに見せてくれたのは、拳銃タイプの無属性砲。
 いや……これは前の物と、僅かに形状が違うような?

「気付いてくれたかな? いわゆるサプレッサーと呼ばれる物にヒントを得て、銃口を覆うように付加部品を取り付けてみたんだ。とは言うものの、ヒントにしたのは形状だけで目的は全く別物だけどね。これは消音や発射光の隠蔽が目的なのでは無くて、動力源となる魔力を使用者本人からではなく、この部品の素材に練り込んだ粉末状の魔石から得る仕組みになっているんだよ」

「なるほど……つまり?」

「理論上、モンスターとの戦闘経験の無い女性やお年寄りが使っても、かなり戦える筈だ。本来の銃の強みに近いものが有ると思うよ。これなら造るまでの時間は大して掛からないし、それなりの数で良いならすぐに揃えられる。……必要だよね? 抱え込んだ人数も増えたことだし」

 ……確かに。
 すぐにでもモンスターと戦える人数を増やさなければならないとは、ちょうどオレも思っていたところだ。
 日々の食料確保はもちろん、物資の確保に赴く上田さん達の護衛にも自衛団の面々の手が割かれてしまっている。
 このうえ、新しく受け入れた避難民の中からモンスターと戦うのに適した人材を選び出し、さらには独り立ち出来る程度に教導する作業にまで多くの労力が掛かるようになってしまえば、たちまちキャパシティをオーバーしてしまうことになるだろう。
 兄や妻を前線から外すのは無理でも、父や柏木兄妹にはその辺りの助力を乞う必要性が有るかもしれないとさえ考えていたところだった。
 これがあれば、そうした負担は一気に減る筈だ。

「柏木さん、ありがとうございます。これさえあれば、かなり楽になると思います。いつからこれを?」

「思い付いたのは一昨日のことだよ。完成したのは昨日の夜で、実用試験は右京に頼んで今日の早朝のうちにしてもらっている。今朝までに造り終えた物に関しては、もう佐藤さんに渡してあるよ。これは、ついさっき作った分だね」

 右京君、人知れず早起きしてたのか。
 寝不足でないと良いけど……。
 あれ?
 カタリナが借りて来たのって、右京君の分の無属性砲じゃなかったっけ?
 まぁ、今の右京君なら無属性砲が無くとも、充分に戦えるだけの実力は備わっている筈だから大丈夫か。

 ◆

 その後も柏木さんと、改造して貰ったオレの槍について話しているところに、沙奈良ちゃんとエネアが帰って来た。
 右京君の姿が見えないので行方を尋ねると、避難民の護衛で温泉街まで同行しているらしい。
 沙奈良ちゃん達が帰って来たということは、妻達も帰って来ている筈で、いつまでもここにお邪魔しているわけにもいかなくなった。
 挨拶を交わし、柏木さん宅を辞す。

「ただいま」

「お帰りなさい。聞いたよ~? また無茶したんだってね」

 ……カタリナから聞いたのか。
 まぁ、たしかに無茶と言えば無茶だったかもしれない。

「他に良いアイディアも浮かばなくてね。それに、あの悪魔は少し変だった。あんなところにいる筈の無いクラスのモンスターだったし、何だか今のうちに倒しておかないと駄目な気がしたんだ」

「そっか。ヒデちゃんがそう思ったんなら、きっとそうなんだろうね。でも……あんまり無理しちゃヤだよ?」

「……うん」

 妻のこの顔には勝てない。
 怒られるより、よほど堪える。

「お帰り~! アイとばっかり話さないでよ。ねぇ! この子、凄いんだってね?」

 そう言うマチルダの胸にはトムが抱かれている。

『く……苦しいのですニャ! ちょっと離して欲しいですニャー』

「マチルダ、トムを離してやってくれ。それじゃ息が出来ないよ」

「あっ! ごめんね、ネコちゃん」

『ブハッ! 助かりましたニャ、主様。お帰りなさいませですニャー』

 マチルダの胸から解放されたトムは一目散にその場を離れ、たまたまなのか、故意なのか……ソファーで香箱を組んで座っている飼い猫のエマのところまで逃げていった。

「ただいま、トム。エマには同居を認めて貰えたみたいだな」

『それはもう、バッチリですニャ! 姐さんの寛大さには感服致しましたニャー』

「今度はネコちゃんとばっかり。少しは私も構ってよ~」

「あはは……悪い、悪い。マチルダもお疲れ様。そっちは問題無かったか?」

「うん、数自体は多かったけどね。こっちも大人数だったし、何とでもなるよ」

 兄と父はまだ帰宅していないようだ。
 右京君と同じく、避難民達の護衛と諸々の手配の手伝いを兼ねて、温泉街まで同行しているのだろう。

「あ、そう言えば……こっちにも不自然に強いのが居たんだよ。お兄ちゃんが、あっという間に真っ二つにしてたけどね」

「あぁ、そうらしいね。こっちチームは見つけられなかったけど」

 オレに向かって突進して来た息子を抱き上げている間に、マチルダと妻が話していた内容は決して聞き流してはいけない類いのものだった。

「それ、どんな魔物?」

 聞き返すカタリナの顔にも、困惑と驚きの色が見える。

「えー、エネア何て言ってたかなぁ? たしか……グレなんとか? 見た目は大きな鳥なんだけど、他の生き物の顔が身体中に沢山あって魔法も使うの。でも、なんだか飛べないみたいだったよ」

「グリルス! そんな魔物があの辺りに!?」

 カタリナは酷く驚いているようだが、残念ながらオレの知らないモンスターだ。
 特徴だけを聞いていると、キマイラ(合成魔獣)のようにも思えるが……。

 いずれにせよ、またオレの知らないうちに世界のが変えられつつあるのかもしれなかった。
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