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第4章
第224話
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先ほどの会話のイメージが染み付いてしまったせいか、最初は頼りなく感じたトムだったが、何と言うべきか……非常に器用だ。
オレの【ロード】スキルの影響下に入ることは、むしろ彼にとっては歓迎すべき事柄らしく、その提案は二つ返事で了承された。
あちらから来た者達が言うところの『位階』とやらが上がったらしく、トムは小躍りして喜んでいたことだし、結果的にはトムを『配下』にして良かったのだろう。
今はトムのたっての提案でダンジョンを逆行しているのだが、驚いたことにトムは事も無げに『ケット・シーの爪跡』を見付けてみせる。
しかも、そう階層数の多い方では無いこのダンジョンで既に2つも発見していて、トリアもカタリナもすっかり呆れ顔だ。
『あ、ここにも有りましたニャ!』
……これで3つ目だ。
これまでの2つは片方が、いわゆるモンスターハウス。
しかも、本来このダンジョンに出現しないタイプのモンスターが大量に居た。
一つ目小僧に唐傘オバケ、木の葉天狗に河童に一反木綿。
モンスターハウスというよりは、お化け屋敷と言った方が適切だったかもしれない。
数こそ多かったが、今のオレ達なら大して苦労する相手でも無かったし、その中の1体……ろくろ首がスキルブックを落としてくれたので、見付けてもらった甲斐は有ったというものだ。
もう片方は金銀財宝。
今の世の中で、こうした物に価値が有るのかは疑問だが、上田さん達に託して物資回収の際に置いてくる対価として使って貰えば良いかな。
そして3つ目の隠し部屋。
【遠隔視】で内部を確認すると、不壊の筈のダンジョンの床に突き刺さっている黒々とした長剣が視みえた。
いや……長剣というよりは、杭と言った方が適切な表現だろうか?
持ち手の部分なんかが西洋剣と同様の形状なので、剣に見えただけかもしれない。
開けるかどうかを目顔で問い掛けて来るカタリナに頷き返し、隠し部屋の扉を開いてもらう。
トムが何となく得意気な雰囲気を出しているので、屈んでアゴの下を撫でてやると、ゴロゴロと普通の猫のような音を出して目を細めている。
……むぅ、可愛いじゃないか。
「ねぇ、いつまで撫でてるの?」
「あ、悪い。つい……」
「それにしても迷宮の隠し部屋が、こんなにあちこちに有るものだとはね。ケット・シーにこんな能力が有るなんて初めて知ったわよ」
『ニャ! ケット・シーなら誰でも見付けられるというものでも無いのですニャ! 我が一族の秘奥なのですニャ!』
ぷんすか……しているのか?
見た目が完全に猫なので分かりにくいが、先ほどまでゴロゴロ言っていた喉が、何の音もしなくなってしまっていた。
「トム、ありがとうな。それにしても……ダンジョンの床に突き刺さっているなんて。この剣というか杭の材質は何だろうな?」
「アダマント……不条理の金属とされているものでしょうね。何の魔力も感じないのに、こうして迷宮の石床を穿っているからには、他の物だとは思えない。私も初めて見るのだけれど……」
トリアが信じられない物を見るような目で、杭を見ている。
アダマント?
小説などで目にするアダマンタイトっていうヤツとは、また別物なのだろうか?
「これがアダマンタイト!? えーと、アダマントってのは古い言葉なのよ。私達の世界でも実際に目にする機会に恵まれる人なんて、まず居ないの。神話の時代の伝説で語られているだけで実在はしないものと思われていたわ」
「カタリナ……その言い方だと、まるで私がお婆ちゃんみたいでしょ? アダマントは硬いという意味の古語。アダマンタイトは硬い石という意味の古語。本来どちらも同じ物を指す言葉なのよ。魔力や、魔法の影響を全く受けないとされている金属で、だからこそ不条理の金属とも言われている。迷宮に穴を穿つなんて、謂われの通り不条理も良いところね」
『ふーん、お姉さん達は物知りなのですニャ。我輩、まったく知りませんでしたニャ』
ペロペロと顔を洗いながら相槌を打つトム。
……あ、顔を洗い終わったのに、舌をしまい忘れてるじゃないか。
まぁ、とにかく凄そうなことだけは、オレにも分かった。
可能なら持ち帰って柏木さんに用途を相談してみよう。
もしかしたらオレには抜けないのじゃないのかとか少しばかり心配になってしまったが、そのようなことは無く、酷くアッサリと抜けた。
『空間庫』に仕舞う前に、コレでダンジョンに穴を開けられるのか実験してみることにしたのだが、さすがにそう簡単にはいかないようだ。
それでも微かに傷を付けることには成功したわけで……誰がここに突き刺したのかは置いておくとしても、この杭状の剣がとんでもない代物なのは間違い無かった。
ダンジョンでの出来事だし……ここに刺さっていた理由や、誰が刺したのかを考えても、どうせ答えなんか出やしない。
◆
その後のモンスターとの戦闘でも、トムは非常に器用に立ち回っていた。
先ほどのモンスターハウス(お化け屋敷)での乱戦では活かしきれていなかった俊敏性を遺憾なく発揮し、それでいて可愛らしい見た目とは裏腹に勇敢に前に出て戦う。
トムに攻撃されたモンスターが不意の痛みに怒り狂いながらも、『判定対象』ではないトムを攻撃することが出来ないせいか、次々に無防備な姿勢をオレ達の前に晒すのだ。
まさに翻弄。
スローイングナイフやショートソードはともかく、チャクラムや鎖鎌のような形状の武器まで自在に使いこなすし、それらの武器を次々に虚空で出し入れしていることから、トムが『空間庫』持ちらしいのが窺い知れた。
それでいて精霊魔法の使い方も非常に上手い。
魔法の威力はトリアやエネアに到底及ばないようだが、どの魔法を使えばモンスターがバランスを崩したり、注意を逸らしたりしてしまうのか、そのタイミングとコツを熟知しているかのように見える。
トム……思わぬ拾い物だったかもしれない。
オレの【ロード】スキルの影響下に入ることは、むしろ彼にとっては歓迎すべき事柄らしく、その提案は二つ返事で了承された。
あちらから来た者達が言うところの『位階』とやらが上がったらしく、トムは小躍りして喜んでいたことだし、結果的にはトムを『配下』にして良かったのだろう。
今はトムのたっての提案でダンジョンを逆行しているのだが、驚いたことにトムは事も無げに『ケット・シーの爪跡』を見付けてみせる。
しかも、そう階層数の多い方では無いこのダンジョンで既に2つも発見していて、トリアもカタリナもすっかり呆れ顔だ。
『あ、ここにも有りましたニャ!』
……これで3つ目だ。
これまでの2つは片方が、いわゆるモンスターハウス。
しかも、本来このダンジョンに出現しないタイプのモンスターが大量に居た。
一つ目小僧に唐傘オバケ、木の葉天狗に河童に一反木綿。
モンスターハウスというよりは、お化け屋敷と言った方が適切だったかもしれない。
数こそ多かったが、今のオレ達なら大して苦労する相手でも無かったし、その中の1体……ろくろ首がスキルブックを落としてくれたので、見付けてもらった甲斐は有ったというものだ。
もう片方は金銀財宝。
今の世の中で、こうした物に価値が有るのかは疑問だが、上田さん達に託して物資回収の際に置いてくる対価として使って貰えば良いかな。
そして3つ目の隠し部屋。
【遠隔視】で内部を確認すると、不壊の筈のダンジョンの床に突き刺さっている黒々とした長剣が視みえた。
いや……長剣というよりは、杭と言った方が適切な表現だろうか?
持ち手の部分なんかが西洋剣と同様の形状なので、剣に見えただけかもしれない。
開けるかどうかを目顔で問い掛けて来るカタリナに頷き返し、隠し部屋の扉を開いてもらう。
トムが何となく得意気な雰囲気を出しているので、屈んでアゴの下を撫でてやると、ゴロゴロと普通の猫のような音を出して目を細めている。
……むぅ、可愛いじゃないか。
「ねぇ、いつまで撫でてるの?」
「あ、悪い。つい……」
「それにしても迷宮の隠し部屋が、こんなにあちこちに有るものだとはね。ケット・シーにこんな能力が有るなんて初めて知ったわよ」
『ニャ! ケット・シーなら誰でも見付けられるというものでも無いのですニャ! 我が一族の秘奥なのですニャ!』
ぷんすか……しているのか?
見た目が完全に猫なので分かりにくいが、先ほどまでゴロゴロ言っていた喉が、何の音もしなくなってしまっていた。
「トム、ありがとうな。それにしても……ダンジョンの床に突き刺さっているなんて。この剣というか杭の材質は何だろうな?」
「アダマント……不条理の金属とされているものでしょうね。何の魔力も感じないのに、こうして迷宮の石床を穿っているからには、他の物だとは思えない。私も初めて見るのだけれど……」
トリアが信じられない物を見るような目で、杭を見ている。
アダマント?
小説などで目にするアダマンタイトっていうヤツとは、また別物なのだろうか?
「これがアダマンタイト!? えーと、アダマントってのは古い言葉なのよ。私達の世界でも実際に目にする機会に恵まれる人なんて、まず居ないの。神話の時代の伝説で語られているだけで実在はしないものと思われていたわ」
「カタリナ……その言い方だと、まるで私がお婆ちゃんみたいでしょ? アダマントは硬いという意味の古語。アダマンタイトは硬い石という意味の古語。本来どちらも同じ物を指す言葉なのよ。魔力や、魔法の影響を全く受けないとされている金属で、だからこそ不条理の金属とも言われている。迷宮に穴を穿つなんて、謂われの通り不条理も良いところね」
『ふーん、お姉さん達は物知りなのですニャ。我輩、まったく知りませんでしたニャ』
ペロペロと顔を洗いながら相槌を打つトム。
……あ、顔を洗い終わったのに、舌をしまい忘れてるじゃないか。
まぁ、とにかく凄そうなことだけは、オレにも分かった。
可能なら持ち帰って柏木さんに用途を相談してみよう。
もしかしたらオレには抜けないのじゃないのかとか少しばかり心配になってしまったが、そのようなことは無く、酷くアッサリと抜けた。
『空間庫』に仕舞う前に、コレでダンジョンに穴を開けられるのか実験してみることにしたのだが、さすがにそう簡単にはいかないようだ。
それでも微かに傷を付けることには成功したわけで……誰がここに突き刺したのかは置いておくとしても、この杭状の剣がとんでもない代物なのは間違い無かった。
ダンジョンでの出来事だし……ここに刺さっていた理由や、誰が刺したのかを考えても、どうせ答えなんか出やしない。
◆
その後のモンスターとの戦闘でも、トムは非常に器用に立ち回っていた。
先ほどのモンスターハウス(お化け屋敷)での乱戦では活かしきれていなかった俊敏性を遺憾なく発揮し、それでいて可愛らしい見た目とは裏腹に勇敢に前に出て戦う。
トムに攻撃されたモンスターが不意の痛みに怒り狂いながらも、『判定対象』ではないトムを攻撃することが出来ないせいか、次々に無防備な姿勢をオレ達の前に晒すのだ。
まさに翻弄。
スローイングナイフやショートソードはともかく、チャクラムや鎖鎌のような形状の武器まで自在に使いこなすし、それらの武器を次々に虚空で出し入れしていることから、トムが『空間庫』持ちらしいのが窺い知れた。
それでいて精霊魔法の使い方も非常に上手い。
魔法の威力はトリアやエネアに到底及ばないようだが、どの魔法を使えばモンスターがバランスを崩したり、注意を逸らしたりしてしまうのか、そのタイミングとコツを熟知しているかのように見える。
トム……思わぬ拾い物だったかもしれない。
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