上 下
212 / 312
第4章

第210話

しおりを挟む
 濡れた衣服をようやく着替えたオレは、攻略を終えたばかりの高台のダンジョンの各種設定を素早く変えて、次の行き先候補を【遠隔視】で偵察しているところだ。

 残念ながら近隣で目ぼしいダンジョンは、これが最後だった。
 あとはダンジョンの規模や周辺地域の発展度の問題で、多くの魔素が得られそうなダンジョンは無い。
 いや……有るには有るのだが、それは例の仙台駅周辺のダンジョンだったり、青葉城址のダンジョンで、それはドラゴンや巨人を普通に倒せる者しか、とても近寄れないような地域に存在するダンジョンということで、つまりは初めから対象外なのだ。

 一定以下の規模のダンジョンは、これからも兄がどんどん攻略してくれる筈なので、今後のオレの行動は遠征がメインということになる。
 車で移動するには危険な地域が邪魔になってしまい、行き来するのが難しいところに有るものの、規模や周辺地域の発展度のバランスが良いところについても、実は幾つか心当たりが有った。
 そしてそうした地域への移動手段は【転移魔法】が担うことになる。
【転移魔法】で移動することが出来るのは、あくまでオレが行ったことの有る場所に限られるが、幸い世の中がなる以前のオレの仕事はハウスメーカーの営業マン。
 仙台市内に限らず宮城県内の住宅地なら、かなりの割合で訪れた経験が有った。
 もちろん目当てのダンジョンが、そうした住宅地は近くに無い場合も多いが、多少の距離なら普通に走って向かえば良いし、乗り捨てられたまま放置されている車を一時的に使わせてもらう手もある。

 これは共にスタンピードの防衛戦を戦った警官隊の1人から聞いた話だが、こうした災害発生時に限り、乗り捨てられた車を動かすことは法的にも認められているらしい。
 もちろん、今となっては法を守ることにどれだけの意味が有るのかは判断の難しいところだが、積極的に違法行為に手を染めたいわけでも無いのだ。
 利用させて貰った車は、なるべく元の位置に返すように心掛けるつもりではいるが、それが難しい状況の際は勘弁して貰うしかないとも思う。

 ──閑話休題それはそれとして……

 現在オレが【遠隔視】で偵察しているダンジョン化した巨大な観音像が立っているエリアは、やはりスタンピードの防衛には失敗していたようで、かなりの数のモンスターが徘徊していた。
 今度はゴースト系のモンスターも普通に居るようだし、今オレ達の居るダンジョンのような妙な出来事は起こらないとは思う。
 それ以外のアンデッドモンスターの数も多いが、ワイバーンやトロルの上位種も居るし、コッカトライスやギャザーなど単純な強さ以上に厄介な特殊能力を持ったモンスターの姿も有る。
 兄やカタリナはともかく、妻やマチルダでは万が一が怖い。
 やはりここはオレ達が向かうべきだろう。

 そう決心したことをエネアに伝え了承を得たオレは、すぐさま【転移魔法】を使用し元はコンビニだった建物の駐車場へと飛んだ。
 目の前の交差点には正面衝突した後に炎上したらしい乗用車が2台、そのまま残されているが、それ以外には特に目立つ物は無かった。
 交通量の多い道路だったが、もちろん走る車はいない。
 代わりにこちらに向かって走り寄って来たのは、本来かなりレアなモンスターの筈のワーキャットが2体……どうやらマチルダのように理性が残っていたりはしなさそうだ。

 今さらワーキャットぐらいでは、どうということも無いのだが、むしろ問題は後続のトロルや空から高速で飛来するワイバーンの方かもしれない。
 もちろん偶然の為せる業だろうが、トロルとワイバーンの到達は、このままいけば同じぐらいのタイミングになりそうだった。
 そう判断したオレはワーキャットを瞬時に排除して、そのまま空へと視線を向ける。
 それを見ていたエネアはトロルの移動を妨害するように、精霊魔法で土塊の手を伸ばす。
 トロルを転倒させるまでには至らなかったが、上手く移動を遅らせてくれた。
 エネアの援護は地味に見えるかもしれない。
 しかし、そのおかげでオレはワイバーンの相手に専念することが出来たし、ワイバーンが消えた後にノコノコやって来たトロルも問題なく倒すことが出来た。
 最初の山場を結果的に難なく切り抜けたオレ達は、その後も暫くその場に留まり、後から後から殺到して来たモンスターを次々と屠り、白い光へと還していく。
 明らかにオレとエネアの連携は向上していた。
 デュラハン戦、ホムンクルス戦を経て、お互いにお互いの理解が深まったことが良い方に作用している。

 ◆

 何度か場所を移しながら、周辺のモンスターの掃討に一定の目処が着いたと判断したオレは、ついに気味が悪いぐらい真っ白なままの観音像の前まで辿り着いていた。
 どういう意図で建造されたものなのか、詳しい事情は知らなかったが、どうやら寺の境内に建てられたものだったらしい。
 実際に近付くまで知らなかったのは、少しばかり迂闊だったかもしれない。
【遠隔視】であらかじめ観ておくことも可能だったわけだし……。

 まぁ、今さら気にしても仕方ないか。
 境内地内に待ち構えていたモンスターも既に倒し終わった後だ。
 ダンジョン内部の探索に移ろう。
 以前は中にエレベーターが有って、展望台も兼ねていたらしいが……まぁ、ダンジョン化してしまった時点で、そんな便利なものは失われてしまっている筈だ。

 身体能力が急激に伸びた今となっては、もはや苦にならない筈なのに、そびえ立つ観音像を見上げるオレの心は少しばかり憂鬱になっていた。
 今からこれを登るのか……と。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。 35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。 彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。 ……でも世の中そううまくはいかない。 この世界、問題がとんでもなく深刻です。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...