194 / 312
第4章
第192話
しおりを挟む
結論から言えば柏木さんに無事、サイクロプスから得た【神々の鍜冶師】のスキルブックを使って貰うことが出来た。
単眼の粗暴な巨人……おそらく一般的なイメージのサイクロプスとは、そんなモンスターだと思う。
しかし、ギリシャ神話に登場するサイクロプスは、鍜冶ばかりでなく、建築や造船にも造詣が深く、鍜冶の神と伝わるヘパイストスに仕え、ゼウスの雷霆や、ポセイドンのトライデント、アポロンの弓、アテネの鎧……これらを作製した匠の半神なのだ。
実際に戦った感想からすると、それらの偉業も疑わしく思える戦闘スタイルだったが、実際それを裏付けるスキルブックを得られたからには、最大限に有効活用させて貰うべきだろう。
それはさておき……新たなスキルを得た柏木さんは、それによって出来ることが増えたからと言って、オレの槍を預かると奥の自室に入って行き……そして、すぐに戻って来た。
この間、5分も経っていない。
沙奈良ちゃんの用意してくれた紅茶を、オレは飲み終わってさえいなかった。
それなのに……オレの槍は、この短時間で見違えるような変化を遂げている。
まずは切断されたきり放置されていた石突き部分が綺麗に整えられていた。
しかも金属板で補強するのでは無く、柄の素材となっている神使樹を磨きあげた、鋭利な先端面を構築している。
もともとオレが依頼していた両側面の月牙は、片側がバルディッシュのようなシャープな斧頭に。
そして、もう片側はイメージ通りの月牙になっていた。
これなら敵のサイズやウェイトに合わせて、使い分けることが出来そうだ。
それらの改造よりもオレの眼を惹いたのが、完全に別モノになってしまったかの様な穂先の刃の鋭利さだった。
明らかに貫通力が上がっているだろう。
「柏木さん……これ」
「色々と勝手をして悪かったね。イメージが次々と湧いて来るし、今までとは作業速度が段違いだ。そして宗像君も何となく察しているようだけど、純粋な強化もさせて貰ったよ。恐らく比較にならないぐらい槍としての刺突力が改善された筈だ。気に入らないようなら、すぐにでも戻せるが……どうだろうか?」
「気に入らない筈は有りません! ありがとうございます」
思わず大きな声が出てしまった。
元に戻されたりしたら困る。
先ほどは見た目の変化にばかり気を取られていたが、重量もかなり増加していた。
これは芯材にファハンの金砕棒から取った魔鉛も加わっているようだ。
最近、以前とは比べるべくも無いぐらい、オレの腕力が上がっているせいで、槍が軽すぎるように感じていた。
今オレの手元にある槍は、何というべきか……とてもしっくりくる仕上がりになっている。
「気に入ってくれたようで何よりだ。あぁ、忘れるところだったが、前に頼まれた投擲用の武器も出来ている。余計なことかもしれないとは思ったのだが、こちらも改めて強化させて貰ったからね?」
そう言って、柏木さんはミスリルで作られたスローイングナイフやチャクラムを、次々に自前のライトインベントリーから取り出し、テーブルの上に置いていく。
こちらも想定していた物より明らかに性能が良さそうだ。
何というか……キラキラと輝いて見える。
恐らく相当な魔力が込められているのだろう。
『強化』と先ほどから柏木さんが口にしているが、それこそがこの魔力の煌めきのタネなのかもしれない。
だとすれば……
「柏木さん、不躾なお願いながら私の兄の刀も同様に強化して頂くことは可能でしょうか?」
「あらたまって何を言うのかと思えば……もちろんだよ。後で寄るように言ってくれるかな?」
「ありがとうございます。きっと喜ぶと思います。あ、そうだ! 柏木さん、コレ使って下さい」
「これは……凄い量の素材だね。スクロールもこんなに。本当に良いのかい?」
「もちろんです。足りなければ、いくらでも言って下さい。お金でお支払いっていうわけにも、今はいきませんし」
「何だか悪いなぁ。そもそも、君の持ってきたスキルブックのおかげなのに……」
「それでも、です。これからもよろしくお願いします」
「それこそ、こちらこそだね。そう言えば時間は大丈夫なのかい? 右京と沙奈良は行ってしまったようだけど」
◆
柏木さんに言われて気付いたから良かったものの、妻達と約束していた時間は目前に迫っており、結局オレは慌てて柏木さんの元を後にすることになってしまった。
車を自宅の玄関前に回すと、ちょうど皆が家を出てきたところで、まさにギリギリといったところだったらしい。
見送りに出てきた母の腕に抱かれている息子がオレの顔を見て……にぱぁっと笑ってくれた。
そう言えば最近は、じっくりと息子と向き合うことが出来ていなかった気がする。
もう少し状況が落ち着いたら……そう思いながらも、中々オレ達を取り巻く環境は変わる気配が無かったのだ。
いや……そうとばかりも言っていられないな。
もっと強くなろう。
人の枠からはみ出すことも、必要以上には恐れまい。
何者にも脅かされることの無い平和を……それを実現する力を必ず手に入れなくては。
兄や妻と今日の行動予定について必要事項を話しながらも、一方でオレはそんなことを考えていた。
単眼の粗暴な巨人……おそらく一般的なイメージのサイクロプスとは、そんなモンスターだと思う。
しかし、ギリシャ神話に登場するサイクロプスは、鍜冶ばかりでなく、建築や造船にも造詣が深く、鍜冶の神と伝わるヘパイストスに仕え、ゼウスの雷霆や、ポセイドンのトライデント、アポロンの弓、アテネの鎧……これらを作製した匠の半神なのだ。
実際に戦った感想からすると、それらの偉業も疑わしく思える戦闘スタイルだったが、実際それを裏付けるスキルブックを得られたからには、最大限に有効活用させて貰うべきだろう。
それはさておき……新たなスキルを得た柏木さんは、それによって出来ることが増えたからと言って、オレの槍を預かると奥の自室に入って行き……そして、すぐに戻って来た。
この間、5分も経っていない。
沙奈良ちゃんの用意してくれた紅茶を、オレは飲み終わってさえいなかった。
それなのに……オレの槍は、この短時間で見違えるような変化を遂げている。
まずは切断されたきり放置されていた石突き部分が綺麗に整えられていた。
しかも金属板で補強するのでは無く、柄の素材となっている神使樹を磨きあげた、鋭利な先端面を構築している。
もともとオレが依頼していた両側面の月牙は、片側がバルディッシュのようなシャープな斧頭に。
そして、もう片側はイメージ通りの月牙になっていた。
これなら敵のサイズやウェイトに合わせて、使い分けることが出来そうだ。
それらの改造よりもオレの眼を惹いたのが、完全に別モノになってしまったかの様な穂先の刃の鋭利さだった。
明らかに貫通力が上がっているだろう。
「柏木さん……これ」
「色々と勝手をして悪かったね。イメージが次々と湧いて来るし、今までとは作業速度が段違いだ。そして宗像君も何となく察しているようだけど、純粋な強化もさせて貰ったよ。恐らく比較にならないぐらい槍としての刺突力が改善された筈だ。気に入らないようなら、すぐにでも戻せるが……どうだろうか?」
「気に入らない筈は有りません! ありがとうございます」
思わず大きな声が出てしまった。
元に戻されたりしたら困る。
先ほどは見た目の変化にばかり気を取られていたが、重量もかなり増加していた。
これは芯材にファハンの金砕棒から取った魔鉛も加わっているようだ。
最近、以前とは比べるべくも無いぐらい、オレの腕力が上がっているせいで、槍が軽すぎるように感じていた。
今オレの手元にある槍は、何というべきか……とてもしっくりくる仕上がりになっている。
「気に入ってくれたようで何よりだ。あぁ、忘れるところだったが、前に頼まれた投擲用の武器も出来ている。余計なことかもしれないとは思ったのだが、こちらも改めて強化させて貰ったからね?」
そう言って、柏木さんはミスリルで作られたスローイングナイフやチャクラムを、次々に自前のライトインベントリーから取り出し、テーブルの上に置いていく。
こちらも想定していた物より明らかに性能が良さそうだ。
何というか……キラキラと輝いて見える。
恐らく相当な魔力が込められているのだろう。
『強化』と先ほどから柏木さんが口にしているが、それこそがこの魔力の煌めきのタネなのかもしれない。
だとすれば……
「柏木さん、不躾なお願いながら私の兄の刀も同様に強化して頂くことは可能でしょうか?」
「あらたまって何を言うのかと思えば……もちろんだよ。後で寄るように言ってくれるかな?」
「ありがとうございます。きっと喜ぶと思います。あ、そうだ! 柏木さん、コレ使って下さい」
「これは……凄い量の素材だね。スクロールもこんなに。本当に良いのかい?」
「もちろんです。足りなければ、いくらでも言って下さい。お金でお支払いっていうわけにも、今はいきませんし」
「何だか悪いなぁ。そもそも、君の持ってきたスキルブックのおかげなのに……」
「それでも、です。これからもよろしくお願いします」
「それこそ、こちらこそだね。そう言えば時間は大丈夫なのかい? 右京と沙奈良は行ってしまったようだけど」
◆
柏木さんに言われて気付いたから良かったものの、妻達と約束していた時間は目前に迫っており、結局オレは慌てて柏木さんの元を後にすることになってしまった。
車を自宅の玄関前に回すと、ちょうど皆が家を出てきたところで、まさにギリギリといったところだったらしい。
見送りに出てきた母の腕に抱かれている息子がオレの顔を見て……にぱぁっと笑ってくれた。
そう言えば最近は、じっくりと息子と向き合うことが出来ていなかった気がする。
もう少し状況が落ち着いたら……そう思いながらも、中々オレ達を取り巻く環境は変わる気配が無かったのだ。
いや……そうとばかりも言っていられないな。
もっと強くなろう。
人の枠からはみ出すことも、必要以上には恐れまい。
何者にも脅かされることの無い平和を……それを実現する力を必ず手に入れなくては。
兄や妻と今日の行動予定について必要事項を話しながらも、一方でオレはそんなことを考えていた。
1
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる