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第3章
第157話
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湖に浮かぶ小島の神殿らしき建物に入るとすぐ、まるで自ら【転移魔法】を使った時と同様に、身体が浮かび上がっていくかのような感覚に襲われた。
次の瞬間、オレはローマのコロッセオのような造りの闘技場の中央に転移していて、否応なしに階層ボスとの戦闘を行わなくてはならない状況に置かれている。
オレの対戦相手……つまり第7層の階層ボスは、どうやら目の前にいる機械人形のようだ。
形状は一応人型をしているのだが、腕は左右に4本ずつの合計8本。
それぞれの腕に異なる武器を持っている。
足は2本だが足首の部分を囲むように配置された多数の円筒状の機械を見る限り、ジェット噴射のような機能で飛んで来そうな気配だ。
頭部はギリシャ神話の女神像を思わせる整った造形で、そのまま石膏像のような色合いなので、機械のパーツが剥き出しな首から下とまるで合っていない。
そのアンバランスさが非常に気味悪く見える。
こうしたモンスターの発見例は、オレの知る限り今までには無いが、それでも撤退をさせてくれるつもりは無いようだし、どのみち戦わざるを得ない。
あるいは【転移魔法】なら撤退することも可能だったかもしれないが、オレが初めて見る敵を観察している間に、どうやら撤退のチャンスは失われてしまったようだ。
……機械の女神が襲い掛かって来た。
途端に湧き上がる歓声。
先ほどまで誰も居なかった筈の観客席は、いつの間にか満員御礼だった。
そちらに一瞬、オレの意識が向いた瞬間に既に対戦相手は目前まで迫っている。
その速さは今までに見たことも無いほどで、とてつもなく速く見えた天使やモーザ・ドゥーのスピードをも、軽く上回る速さだった。
そして8本の腕から繰り出される連撃。
斧が、鎚が、鎌が、剣が次々とオレの急所を狙う。
何とか気付いてバックステップで躱したが、今度は槍が、ボウガンから放たれたボルトが、電気を帯びた鞭が、更には銃弾が追いかけて来る。
繰り出される槍を、自らの持つ槍で弾いたついでに物騒な鞭を打ち落とし、ボルトと銃弾は真横に【跳躍】を繰り返すことで何とか回避したが、今度は機械の女神そのものが追いすがって来た。
何とか反撃の糸口を掴もうと、その苛烈な攻撃を何とか躱し、とにかく駆け回り、時には不様に転がってまで、仕切り直そうと試みる。
しかし、オレとヤツの間に明確な速度の差が有るわけでもなく、なかなか引き離せないまま、ひたすらオレが防戦一方の状態が続いた。
腹立たしいことに、オレをこの窮地に追い込んだ観客の歓声はヒートアップしていく一方で、今や大気を揺らすばかりの大歓声となっている。
壁際まで追い詰められた際などは、興奮した観客の汚い唾液が背後から飛んできたほどだ。
さすがにイラっと来て、何とか壁際から脱した際にそちらを睨みつけてやったが、それでむしろ驚いたのはオレの方だった。
……顔が無い。
目も鼻も口も無い無貌の観客達がそこには犇めいていた。
じゃあどうやって唾液を飛ばしたり歓声を発したりしているのか……などと考えている余裕はすぐに無くなる。
のっぺらぼう達に驚き、思わず唖然としてしまったオレの面前に、鋭く迫る槍の穂先が有ったのだ。
慌てて転がって回避し、意識を対戦相手に無理やり向け直す。
たとえ観客達が亡者だろうと、得体の知れないナニかだろうと、とにかく目前の相手を倒してしまえば関係は無いのだ。
ここまで防戦一方のオレだったが、それでも何とか戦えているのは、今までの戦いの経験によるものが大きい。
初めのゴブリンから今日の夕方に倒した悪魔まで……無駄になった戦いなど、ただの一戦も無いだろう。
逆に言えば、少しでも怠けたり、怯んで逃げたことがあったら、今この時まで生きて立っていられた可能性は限りなく低い。
8本の腕から繰り出される、それぞれ間合いの違う武器での攻撃は確かに脅威だが、これまでの戦いで得られた教訓から、オレの反撃の時間帯が必ず訪れることを、この時のオレは既に確信していた。
どんなモンスターも、必ずクセのようなものがある。
起こり……とでも言うべきだろうか?
斧や鎚の攻撃は、必ず振り上げてから行われる。
刀や鎌にはそれが無いが、よくよく見ると振るわれる直前に僅かに握る手の力が強くなっているように見えた。
槍の攻撃動作は手に取るように分かる。
これはオレ自身、槍を得物にしているからだろう。
銃とボウガンは分かりにくいようでいて、実は最も分かりやすい。
これらの兵器の扱いに熟練している者なら決してそんなことは無いのだろうが、機械の女神は射撃前に必ずトリガーに指を掛けるし、射撃を行わない時には、引き金から指を離しているのだ。
誤射を避けるためなのかもしれないが、何でそんなことを気にする必要が有るのかまでは分からない。
問題は鞭だった。
どうやらこの女神像、最も習熟している武器が、この電気を纏った鞭のようだ。
起こりは何となく分かるのだが、そこからの軌道が変則的で、鞭に関してだけはかなり余裕を持って躱さないと、とても避けきれそうになかった。
そして……鞭ばかりを気にしていると、他の武器の攻撃の予兆を見逃してしまいそうになる。
もちろん、これまで無為に防戦一方だったわけでは無い。
これらのクセを見抜くため、費やされた時間だった。
モーションを盗む……などといえば聞こえは良いかもしれないが、やっている方は必死だ。
どれ程力を貪り喰らって強くなったとしても、モンスターと比べてしまえば酷く脆弱な人間であることには変わりは無い。
それまでの攻防をどれだけ有利に進めていても、一瞬の油断であっという間に殺されてしまいかねないのだから……。
必死に目を凝らし、武器ごとに複数ある初動パターンの全てを把握することに全力を費やす。
集中……深く集中して、避け、躱し、回避して、また見て、覚えて、脳内にデータを蓄積していく。
……いつの間にかオレの耳には、闘技場を埋め尽くしている筈の無貌の観客達の声が、聞こえなくなっていった。
次の瞬間、オレはローマのコロッセオのような造りの闘技場の中央に転移していて、否応なしに階層ボスとの戦闘を行わなくてはならない状況に置かれている。
オレの対戦相手……つまり第7層の階層ボスは、どうやら目の前にいる機械人形のようだ。
形状は一応人型をしているのだが、腕は左右に4本ずつの合計8本。
それぞれの腕に異なる武器を持っている。
足は2本だが足首の部分を囲むように配置された多数の円筒状の機械を見る限り、ジェット噴射のような機能で飛んで来そうな気配だ。
頭部はギリシャ神話の女神像を思わせる整った造形で、そのまま石膏像のような色合いなので、機械のパーツが剥き出しな首から下とまるで合っていない。
そのアンバランスさが非常に気味悪く見える。
こうしたモンスターの発見例は、オレの知る限り今までには無いが、それでも撤退をさせてくれるつもりは無いようだし、どのみち戦わざるを得ない。
あるいは【転移魔法】なら撤退することも可能だったかもしれないが、オレが初めて見る敵を観察している間に、どうやら撤退のチャンスは失われてしまったようだ。
……機械の女神が襲い掛かって来た。
途端に湧き上がる歓声。
先ほどまで誰も居なかった筈の観客席は、いつの間にか満員御礼だった。
そちらに一瞬、オレの意識が向いた瞬間に既に対戦相手は目前まで迫っている。
その速さは今までに見たことも無いほどで、とてつもなく速く見えた天使やモーザ・ドゥーのスピードをも、軽く上回る速さだった。
そして8本の腕から繰り出される連撃。
斧が、鎚が、鎌が、剣が次々とオレの急所を狙う。
何とか気付いてバックステップで躱したが、今度は槍が、ボウガンから放たれたボルトが、電気を帯びた鞭が、更には銃弾が追いかけて来る。
繰り出される槍を、自らの持つ槍で弾いたついでに物騒な鞭を打ち落とし、ボルトと銃弾は真横に【跳躍】を繰り返すことで何とか回避したが、今度は機械の女神そのものが追いすがって来た。
何とか反撃の糸口を掴もうと、その苛烈な攻撃を何とか躱し、とにかく駆け回り、時には不様に転がってまで、仕切り直そうと試みる。
しかし、オレとヤツの間に明確な速度の差が有るわけでもなく、なかなか引き離せないまま、ひたすらオレが防戦一方の状態が続いた。
腹立たしいことに、オレをこの窮地に追い込んだ観客の歓声はヒートアップしていく一方で、今や大気を揺らすばかりの大歓声となっている。
壁際まで追い詰められた際などは、興奮した観客の汚い唾液が背後から飛んできたほどだ。
さすがにイラっと来て、何とか壁際から脱した際にそちらを睨みつけてやったが、それでむしろ驚いたのはオレの方だった。
……顔が無い。
目も鼻も口も無い無貌の観客達がそこには犇めいていた。
じゃあどうやって唾液を飛ばしたり歓声を発したりしているのか……などと考えている余裕はすぐに無くなる。
のっぺらぼう達に驚き、思わず唖然としてしまったオレの面前に、鋭く迫る槍の穂先が有ったのだ。
慌てて転がって回避し、意識を対戦相手に無理やり向け直す。
たとえ観客達が亡者だろうと、得体の知れないナニかだろうと、とにかく目前の相手を倒してしまえば関係は無いのだ。
ここまで防戦一方のオレだったが、それでも何とか戦えているのは、今までの戦いの経験によるものが大きい。
初めのゴブリンから今日の夕方に倒した悪魔まで……無駄になった戦いなど、ただの一戦も無いだろう。
逆に言えば、少しでも怠けたり、怯んで逃げたことがあったら、今この時まで生きて立っていられた可能性は限りなく低い。
8本の腕から繰り出される、それぞれ間合いの違う武器での攻撃は確かに脅威だが、これまでの戦いで得られた教訓から、オレの反撃の時間帯が必ず訪れることを、この時のオレは既に確信していた。
どんなモンスターも、必ずクセのようなものがある。
起こり……とでも言うべきだろうか?
斧や鎚の攻撃は、必ず振り上げてから行われる。
刀や鎌にはそれが無いが、よくよく見ると振るわれる直前に僅かに握る手の力が強くなっているように見えた。
槍の攻撃動作は手に取るように分かる。
これはオレ自身、槍を得物にしているからだろう。
銃とボウガンは分かりにくいようでいて、実は最も分かりやすい。
これらの兵器の扱いに熟練している者なら決してそんなことは無いのだろうが、機械の女神は射撃前に必ずトリガーに指を掛けるし、射撃を行わない時には、引き金から指を離しているのだ。
誤射を避けるためなのかもしれないが、何でそんなことを気にする必要が有るのかまでは分からない。
問題は鞭だった。
どうやらこの女神像、最も習熟している武器が、この電気を纏った鞭のようだ。
起こりは何となく分かるのだが、そこからの軌道が変則的で、鞭に関してだけはかなり余裕を持って躱さないと、とても避けきれそうになかった。
そして……鞭ばかりを気にしていると、他の武器の攻撃の予兆を見逃してしまいそうになる。
もちろん、これまで無為に防戦一方だったわけでは無い。
これらのクセを見抜くため、費やされた時間だった。
モーションを盗む……などといえば聞こえは良いかもしれないが、やっている方は必死だ。
どれ程力を貪り喰らって強くなったとしても、モンスターと比べてしまえば酷く脆弱な人間であることには変わりは無い。
それまでの攻防をどれだけ有利に進めていても、一瞬の油断であっという間に殺されてしまいかねないのだから……。
必死に目を凝らし、武器ごとに複数ある初動パターンの全てを把握することに全力を費やす。
集中……深く集中して、避け、躱し、回避して、また見て、覚えて、脳内にデータを蓄積していく。
……いつの間にかオレの耳には、闘技場を埋め尽くしている筈の無貌の観客達の声が、聞こえなくなっていった。
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