上 下
156 / 312
第3章

第155話

しおりを挟む
 その日の午後は、まずマチルダのところに顔を出して現状を確認した後は、第7層でひたすらモンスター狩りに勤しんだ。

 オレが毎日のようにマチルダのところを訪れるのは、何もマチルダへの同情ばかりが理由では無い。
 マチルダがダンジョン守護者という、第8層が完成したかどうか知り得る立場に居るからだ。
 同時にこれはマチルダにも言えないでいるが、彼女は新しい守護者が第8層に配置され次第、お役御免となり始末されてしまう可能性が高いため、少しでも早くそういった兆候が現れていないかを知るためでもある。
 全てオレの取り越し苦労で、マチルダがこのまま守護者を続けるのであれば、その管理権限で魔素使用の配分を全てダンジョン内のモンスター生成に割り振り、ダンジョン外へのモンスター出没を皆無にすることすら可能だ。
 今のところは第8層を作成している何者か……まぁ、ほぼ間違いなく例の自称亜神の少年だろうが、ヤツがこのダンジョン内外の魔素を第8層作成に集中運用しているため、マチルダの自由になる余剰魔素は無いらしかった。

 異常な程に広大な第7層……『環』・『半月』・『犬』・『牙』の各種金属板を守っていたエリアボスは、いまだにリポップしていないのか見当たらないが、オレがその存在力を喰らうべきモンスターは無数に存在している。
 探索を進めることを重視するあまり、速度優先で駆け抜けたため、各エリアとも討ち漏らしていたモンスターの数が多かったのだ。

 ざっと名前を挙げるだけでも……
 ロックイミテーターにはじまり、コッカトライス、オーガメイジ、ブラッディファルコン、ワードッグ、グラスクロコダイル、レッサーデーモン、リザードマン、インプ、ロックゴーレム、バーバラストレント、マウンドボア、ペネトレイションディアなど、非常に多岐にわたる。
 中にはトロルや、ジャイアントフロッグなど、この前は発見できなかった種類のモンスターも居て、オレを強化するための糧になってくれた。
 コッカトライスやトロルなどは、以前のオレなら即撤退を選んでいたほどの強敵の筈だが、ファハンや天使の後に対峙すると、さすがに物足りなく感じる。
 コイツらが先日のスタンピード時に出てきていたら、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていたのは明らかで、そういう意味では管理者たる自称亜神の少年の仕事の遅さには感謝しなければならないだろう。

 膨大な数のモンスターを狩りながらも、ここまでに消費した時間は非常に短いものだった。
 それだけ、リザードマンの大群や、ファハン、モーザ・ドゥー、天使を撃破したことで得られた力が、桁外れに大きかったということに他ならないだろう。

 昨日、モーザ・ドゥーと天使を撃破した草原の先には外国の墓地のようなエリアが存在し、そこには数多くのアンデッドモンスターが待ち構えていた。
 ゾンビやゴースト、スケルトンなどは序の口といったところだ。
 少し進むと、グールやタキシム、さらにはレイス、スペクターなど、より上位のアンデッドモンスターが数多く襲い掛かって来た。
 タキシムはゾンビにそっくりの外見だが、ゾンビと違うのは人間なみの知性を有する点で、墓石の陰に隠れて奇襲して来たり、直前まで普通のゾンビのをしたりと、非常に芸が細かいうえ、単純な強さも比較にならないモンスターだ。
 さすがにバンパイアやリッチなど、今のオレではどうにもならなそうなモンスターは現れなかったものの、魔法を使うスケルトンメイジや、レッサーバンパイアといった、その直接的に下位に属するモンスターが出現した時には、さすがに少し肝を冷やしてしまった。
 天使から奪った【光魔法】が無かったら、さすがにもう少し苦戦していたことだろう。
 ゾンビやグール、タキシムなど実体を持つアンデッドモンスターには【火魔法】もかなり有効だが、ゴーストやレイス、スペクターなど実体を持たないアンデッドモンスターには【光魔法】の方が、より有効なようだった。
 これはスケルトンメイジやレッサーバンパイアなどにも同じ傾向が見られる。

 墓地のエリアの終点になっているらしいダンジョンの壁が見えるところまで進んでいくと、そこには明らかに怪しい扉が有った。
 これまで散々、このダンジョン内で開けてきた小部屋の扉と見た目は同じだが、だからこそ怪しく思える。
 案の定と言うべきか、中には怪しげな祭壇と魔方陣とが有って、その上に佇む老婆から発せられるプレッシャーは、昨日の天使にも劣らないものだった。
 ……もちろん、見た目通りの老婆では有ろう筈も無い。
 オレの姿を見た老婆は、しわくちゃな顔をさらに皺だらけにしながら、醜悪な笑みを浮かべている。
 舌なめずりでもしそうなほどだ。

 油断なく鎗を構えると同時に、いつでも魔法を放てるように意識を集中する。
 そんなオレの様子を見た老婆は、気味の悪い笑みを浮かべたまま、黒い光に包まれていき……次の瞬間には醜悪なモンスターの姿へと変貌していた。
 腕はシャムシールのような曲刀へと変じ、背中からカラスのような翼を生やしている。
 顔と尻尾はワニのような形状だが、牛のような角を4本生やしていて、足は象のそれに似ているが爪だけが非常に長く、そして黒く染まっていた。
 レッサーデーモンにしては強そうだが、グレーターデーモンだとかアークデーモンなどと呼ぶには、力不足な存在に見える気がしないでもない。
 ちょうど中間……デーモンとかデビルとか呼ばれている存在だろうか?
 腕が曲刀のような形状をしているので、便宜的にブレードデビルとでもしておこう。

 ブレードデビルは、昨日までのオレであれば、非常に苦戦していたか、運が悪ければ負けていたかもしれないモンスターだった。
 オレがこの部屋に入ってきた時に開けた扉は、いつの間にか壁に変じて出られなくなっていたし、こうした狭い空間ではブレードデビルの両腕から繰り出される超速の連撃は、たとえ敏捷力でオレが上回っていたとしても回避が難しくなる筈だろうからなおさらだ。
 闇魔法もオレの知らないものを数多く使って来たし、そういう意味では危ない場面もあった。

 しかし……だ。
 所詮は昨日の天使と同程度か、少しばかり劣る程度の強さ。
 ある程度の負傷や、防具の損傷はあったものの、天使の存在力を丸ごと奪ったオレの敵では無かった。
 最後には両腕に加えて尻尾まで失った悪魔の身体を散々に突きまくって、白い光の渦に還すことに成功する。

 しかし……悪魔が消えた後に遺した宝箱の中身は、オレに大いに混乱を齎したのだった。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。 35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。 彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。 ……でも世の中そううまくはいかない。 この世界、問題がとんでもなく深刻です。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...