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第3章

第152話

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『スキル【光属性魔法】を自力習得しました』
『スキル【自己再生】を自力習得しました』
『スキル【属性魔法耐性】のレベルが上がりました』
『スキル【水属性魔法】のレベルが上がりました』
『スキル【長柄武器の心得】のレベルが上がりました』
『スキル【解析者】のレベルが上がりました』
『【解析者】既得派生スキル群がステージ2に昇格しました』

 こりゃまた豪勢な置き土産だ……などと思いながら【解析者】の脳内アナウンスを聞いていたものの、そんな暢気な内心とは裏腹にオレは必死で歯を食いしばって、流れ込んで来る膨大な力の激流に耐えなくてはならなかった。
 改めて思う。
 とんでもないのとばかり戦っているな、最近は……と。
 そして力の流入が終わると同時に膝から崩れ落ちてしまう。

 明らかに限界だった。
 精神的な疲弊も深刻だが、さすがに血液を失い過ぎたのだ。
 どうにか戦利品となる天使の遺した鎗と、宝箱に入っていた『犬』・『環』の金属板とを回収し終えたオレは、やっとの思いで【転移魔法】を発動させて、ひとまず帰路についた。

 ダンジョンを出て、駐車場に停めておいた車に乗ると……気が抜けたからなのか、腹の虫が盛大に鳴いた。
 まだ夕刻前だが、そういえば連戦に次ぐ連戦で昼食を食べていない。
 休憩が満足に取れるか分からなかったのも有って、今日は妻にお握りを握って貰っていたのだが、それすらも口にしていなかったのだ。
 しばし本能のまま食欲に身を任せると、普段のオレなら充分な量のお握りがあっという間に無くなってしまっていた。
 足りない……。
 恐らく身体は失った血液を補給したいと訴えているのだろう。

 帰り道、すっかり走る車のいなくなった道路を急いで車を走らせたオレは、家につくなり邪魔になる装備を乱雑に脱ぎ捨ててインベントリーにしまい、顔や手を洗うとまっすぐに台所に向かう。
 驚く家族の目も気にせず、炊飯器に残っていたご飯を平らげ、そのままリビングのソファーで眠ってしまった。

 ◆

「ヒデちゃん、大丈夫?」

 目を覚ますと驚くほど近くに、心配そうにオレの顔を覗き込んでいる妻の顔があった。
 どうやら妻に揺り起こされたらしい。

 妻の肩越しに見える窓の外は、既に暗くなり始めていた。
 母と義姉は何やら台所で料理をしている。
 父や、おチビ達の姿は見えない。
 眠るオレに気を利かせて、他の部屋で遊んでくれているのだろうか?
 兄は、まだ帰って来ていないようだ。

「あぁ、疲れただけだから……っと!」

 慌てて起き上がろうとして、いつの間にか掛けられていたらしい毛布を床に落としかける。
 外出していた妻に代わって、恐らくは母が掛けてくれたのだろう。
 対面する形で置かれているソファーの上で、飼い猫のエマがヘソを天に向けて寝ている。
 すっかり、こちらの家に慣れてくれたらしい。
 警戒心の欠片も見られない寝姿だ。

「なら良いけど……無理して、すぐに治せそうもない怪我とかしないでよ?」

「分かってるよ……あ、そういえば! 森脇さんって、今どこに居るんだっけ?」

 ダン協職員だった森脇さんは、スタンピードが発生したあの日……明らかに及び腰だったものの、何だかんだで最後までダンジョン前の防衛戦に参加し続け、終盤のカシャンボによる奇襲を受けて負傷していた。
 背後からの投石を受けて大怪我を負い、傷はポーションで塞がったものの、どうやら肩甲骨かどこかをやられたらしく、腕が上がらなくなっている。

「森脇さん? 森脇さんなら、柏木さんの住んでいる隣だから……ウチの2件隣だよ」

「そっか。夕飯は?」

「まだ掛かるかな。冷凍してたひき肉で煮込みハンバーグなんだって」

「なら、ちょっと森脇さんのところに行って来るよ。今なら魔法で治せるかもしれないんだ。夕飯までには戻れると思う」

 天使戦を経て水属性魔法のレベルが上がったことで、使える回復魔法も良いものになっている。
 中位ポーションでは骨折までは治せないが、この魔法ならあるいは……というみたいなものが働いていた。
 モーザ・ドゥーから奪った【直感】によるものかもしれない。

 森脇さんの住むという家を訪れたオレを迎えてくれたのは、意外な人物だった。
 ダン協の受付のお姉さんこと、倉木さんだ。
 しばし森脇さん、倉木さんと談笑する中で意外な事実が分かったのだが、それを聞くまでの間は、何だか妙なところにお邪魔してしまったのではないかと、変に緊張してしまった。
 倉木さんの本来の住まいは、仙台駅近くの花京院という地域にあるマンションで、さすがに今の状況では帰れない。
 森脇さんは負傷のこともあって、上田さんから早々にこの家を割り当てられたが、ご両親の介護の件などもあって今は独身。
 身の回りのことも満足に出来ない独り身の森脇さんと、帰るに帰れないやはり独身の倉木さん。
 割り当てられた明らかに家族向けの家。
 まぁ要するに、変な意味の無い同居人ということらしい。
 ……今のところは。
 お互い、さすがにちょっと意識はしていると思うのだが、それをオレが変に突っつくのも良くないだろう。
 要件を伝え、森脇さんの負傷した肩に新しく覚えた魔法を掛ける。
 すると……おっかなびっくりといった様子で肩を上げた森脇さんは、驚きに目を丸くしている。
 そのまま慎重に可動域を確かめていた森脇さんだが、どうやら動かすのに何の不自由も無いと分かってからは、思いきってブンブンと腕を振り回したり、背中で手を繋いだりして見せてくれた。
 ちゃんと効いてくれて良かった。
 何度も礼を言う森脇さんと倉木さんに頭を上げて貰い挨拶を済ませたオレは、森脇さん宅を後にする。

 背後に嬉しそうな2人の声を聞きながら……。
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