上 下
152 / 312
第3章

第151話

しおりを挟む
 もちろん単にバカスカとマギスティールを撃ち込んで……などという短絡的な話ではない。

 オレが目をつけたのは、魔力と魔素と存在力との相互関係。
 それから……魔力と自然回復と飛翔との相互関係だった。
 要は、短時間での持久戦を仕掛けるということだ。

 ……矛盾している?

 いや、全くもってそんなことは無い。
 ここまでの戦闘ペースは非常に緩やかなモノだった。
 それは、当然ながら互いに様子見が必要だったからということも有るのだが、もちろん理由はそれだけにとどまらない。
 魔法戦での不利を嫌ったオレは、とにもかくにも接近戦に持ち込むべく立ち回ったし、天使も不思議と遠距離での魔法戦よりも接近戦を好んでいるように見えた。
 もちろん、長槍の有利な間合いで戦いたがってはいたし、不利を悟ると諦め良く瞬時に上空へと飛び上がる。
 しかし上空からの魔法戦はそこそこに、また武器戦闘の間合いへと戻って来る。
 これはよほど自らの得物……つまりオリハルコンの槍に自信が有るのだと思っていたし、オレにとっても有難いことだったため、これまでは何とはなしにスルーしてしまっていた。
 結果として互いに攻め手を欠く内容になったし、いたずらに時間を消費する結果に繋がっていたのだ。
 それすらも、狡猾な天使の作戦なのではないかと邪推してしまっていた。
 わざわざモーザ・ドゥーとの死闘が終わったタイミングで飛来して来たのだから、時間とともにオレの体力その他の消耗をも狙ってのことではないのか、と。

 しかし……こう考えればどうだろう?

 ヤツの魔力はオレの考えるほど潤沢なものではないとすれば……?
 魔法戦、武器戦闘を問わず、戦っていれば必ず傷は負うことになる。
 オレはそれを魔法で癒やすが、天使は特に魔法を使った形跡は無いのに、自然と傷は塞がっていた。
 恐らくそうしたスキルを持っているのだろう。
 では、それはノーリスクだろうか?
 いや、そんなことは有り得ない。
 何かを磨り減らして、傷を塞いでいる筈だ。
 では何を……?
 これは考えるまでもない。

 魔力だ。

 あるいはヤツの存在力の源になっているものかもしれないが、それとて魔力か魔素のどちらかでしかないだろう。
 光属性魔法に回復魔法が無いとは思えない。
 ではなぜ魔法で即座に癒やすのでは無く、スキルで癒えるのを待っている?
 それは恐らく、その方がまだ消耗が少ないからだろう。

 何故ずっと飛んでいるのでは無く、基本的には地上に居るのか?
 空中では槍を振るうのに踏ん張りが効かないというのも、もちろん理由の一つでは有るのだろう。
 では、それだけか?
 飛んだままなら、魔法戦になるからではないのか?
 魔法戦を空中から行う……それが嫌なのではないのか?
 なぜ?
 ここまで考えが及べば、答えは非常に単純だ。
 飛ぶことそのものにも、魔力を使っているからだろう。
 魔法戦を嫌うのはそのためだ。
 魔力枯渇は即ち死に直結しかねないというのが、敵さんの事情に他ならない。

 つまり天使とは非常に強力なモンスターでは有るのだが、同時に非常に燃費の悪いモンスターでも有るのだと思う。

 そうと分かれば、ますます話は簡単だ。
 命中精度や属性相性、周辺の魔素枯渇など一切合切を考慮せず、ガンガン魔法を放ってやれば良い。
 オレの戦い方が変わったと見るや慌てて地上での接近戦に持ち込もうとする天使。
 オレは武器での戦闘の最中も、これまで以上に魔法を放つことにした。
 遠距離、近距離を問わず、他の魔法や鎗での攻撃を囮あるいは陽動に使ってでも、マギスティールだけは必中を期す。
 時にはこちらから跳躍して空中に呼び込むことすらしたが、これはさすがに危ない行動だった。
 この時ばかりは魔力の消耗を一切考慮していないかのように嬉々として空中戦に応じて来たし、天使の方が空中では数段上の戦闘力を持つのだということを、イヤというほど見せつけられてしまう。
 命の危機を感じたオレは、全力で闇魔法を乱射しギリギリのところで危ういところを逃れたが、もう二度と空中では戦うまいと心に誓わざるを得なかった。

 攻略の道筋を見つけても、天使が難敵であることに違いは無い。
 槍術と敏捷はオレが勝るが、得物の優位と膂力では敵に分がある。
 魔法の手数はオレが勝るようになったものの、相変わらず天使の方が魔法戦では優勢だ。
 光属性魔法は相当に厄介だし、魔法への抵抗力も敵の方が高い。
 回避が不十分で傷を負うことも増えてきた。
 肉を断たせても骨を断てたなら、それで良いのだが結果としては、こちらが肉を断たせてもあちらの肉は断てるかどうか。
 大袈裟に言うなら、肉すら断てていない状況だった。

 それでも……明らかに天使はオレの今の戦い方を嫌がっているように思える。
 その証拠に、先ほどから上空に飛び立つのを躊躇しているように見えた。
 距離が開けば待っているのは魔法戦。
 本来ならヤツに分がある筈なのに、それをしようとしない。

 どうやら推測は正鵠を射ていたようだ。

 そもそも存在するだけでも魔力を必要とするのが、目の前の天使に代表される非実体系モンスターなのだから、必要以上の魔力消費を嫌う傾向にはある。
 これはレッサーデーモンも、モーザ・ドゥーも同じだった。
 必要と有らば遠慮なく凶悪な魔法を放って来るが、基本的な攻撃スタイルは近接戦。
 天使もご多分に漏れず、基本スタイルは近接戦だ。

『スキル【槍術】のレベルが上がりました』

 そして【解析者】は何も倒した敵から力を奪うのが本質ではない。
 対峙する敵の戦い方から学び取る能力を引き上げ、さらに修練や実践によって技の磨かれる速度を早めることさえ平気でしてのけるのだ。
 むしろそちらのほうが本来的な能力といっても良い。
 何よりこうして、激戦の最中にすらスキルのレベルを上げてしまう。

 さしもの強敵も、急に一段と技の冴えを増したオレの突きは見事に受け損ねた。
 深々と天使の喉に突き立つ鎗。
 さすがにスキルで塞がるのを待てるような傷ではない。
 槍を手放し、片手でオレの鎗を引き抜こうとしながらも、魔法で傷を癒やすべくもう片方の手をかざす天使だったが、片手の相手に力負けするほどオレも柔ではない。
 さらに深く鎗を抉り込み、遠慮なく傷を拡大していく。
 堪りかねた天使が両手で鎗を引き抜こうとするのには下手に逆らわず、素直に鎗を抜かせてやったが天使が回復魔法を使う隙までは与えてやらない。
 ところ構わず滅多刺しにしてやる。
 いったん魔法を諦め、オレの鎗の届かぬ上空へ飛翔しようと視線を向けた天使を待っていたのは、ここ一番に温存していた闇魔法……グラビティ。
 この重力を操る魔法で稼げた時間は1秒にも満たない、ものの数瞬。
 しかし、決着には一瞬ですら充分な余裕だった。
 半分に欠けてしまった月牙が地に落とした首。
 あるいは追撃で胸の中心に空いた風穴。
 そのいずれかが天使の命脈を断ったのは間違いが無かった。

 精魂ともに尽き果てたオレ……なのに魔力だけは一向に枯渇の気配すら見せない。

 天使が白い光に包まれ消えていくのを見ながら、オレは自分がどこまで人の領域から外れていくのかということを、どうしても考えずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。 35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。 彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。 ……でも世の中そううまくはいかない。 この世界、問題がとんでもなく深刻です。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...