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第3章

第138話

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 湿地帯の洞窟をねぐらにしていたリザードマンの大群を撃破して『牙』の金属板を入手したオレだったが、いざ戻ろうかというところで不意に背後の壁から鳴り出した音に驚き、振り向いた。
 ──落盤!?
 だとすれば悪辣にも程がある罠だが、その心配は取り越し苦労に終わる。
 目の前の壁が奥に向かって崩れ、ポッカリと空洞化した道が出来たのだ。
 ……これ、通って大丈夫なヤツかな?

 ◆

 最初はおっかなびっくり……進行方向に光が見えてからは駆け足で、そのトンネルを一気に走り抜けた。
 ゲームやなんかだと、ボスを倒した後にショートカットで脱出できるルートが開放されるとかは割りとよく目にしていたものだが、いざ自分でそれを実際に体験すると、こんなにも不自然に見えるモノなんだなぁ……。

 確かに、かなり洞窟の中を歩き回った自覚はあるのだが、トンネルを抜けるとそこは既に湿地帯では無かった。
 特徴を強いていうなら草原……なのだが、草が一様に茶色く枯れていて、何やら良くないモノが隠れて居そうではある。
 草の長さも厄介だ。
 長いものはオレの顎あたりまで届くほどに長い。
 モンスターが潜んでいても、これでは視認しにくいだろう。
 もちろん【危機察知】スキルは、こうした場面でも有用では有るが……モンスターの中には、カシャンボやレッサーデーモンのように、酷く気配を希薄化させることに長けた連中もいるため、過信は危険に繋がってしまいかねない。

 草を掻き分け注意深く進んでいくと……予想に反してモンスターが上空から迫って来た。
 あれは……インプか!
 悪魔としてはレッサーデーモンより更に低級だが、あまり侮って良いモンスターでもない。
 小悪魔という呼称がピッタリくる、厭らしい魔法の使い手だ。
 疲労感を助長させて来たり、幻覚を見せて来たり、眠気を誘って来たり……厄介なヤツとして知られている。
 更に足元から音もなく迫って来たのは、アサシンスネーク……魔物と化した毒蛇の中でも、その毒の強烈さと隠密性とで探索者達に特に恐れられている黒い蛇だ。
 上空のインプに気を取られながらも、アサシンスネークに気付けたのは、完全に【危機察知】のおかげだった。
 おかげでインプを狙って発動しようとしていた魔法は結局、まともに放てなかったがヘビに噛み付かれるよりは、よほどマシというものだろう。
 まず鎗でヘビの頭を刺し貫き、インプの眠りの魔法をどうにか耐えることに成功したオレは、鉄球を投擲し小悪魔を撃ち落とすことが出来た。

 次々に襲いくるインプを倒しながら、アサシンスネークに常に注意するのは、精神的に非常に疲れる作業だったが、どうにか枯れ草のエリアを抜けると、今度は荒野のようなエリアに到達した。
 この階層……このダンジョンの元になった市民センターの敷地はおろか、下手をするとこのダンジョンが立っている盆地よりも広大なんじゃないだろうか?
 大小の岩がゴロゴロ転がっているのは、第7層スタート地点と良く似ていたが、こちらの方がより乾燥していて埃っぽいような気がするし、地面があちこち隆起していて丘の様になっている。
 どうやらループしているというわけでは無さそうだ。
 それに……今度の岩はどうやら、トカゲのようだ。
 ジャイアントリザードの亜種で、ロックリザードというヤツだろう。
 ロックリザードは、巧みに岩に擬態することと見た目以上の硬さがウリのモンスターだが、ミスリル製の刃を持つオレの鎗で倒せないほど硬い訳でもないし、さらには魔法にも弱かった。
 風魔法は相性的にイマイチだったが、火魔法や闇魔法には耐性がほぼ無いようだ。
 討伐手段を魔法主体にした途端、サクサクと倒せるようになってしまう。

 ロックイミテーターもちょくちょく混ざっていたが、それでも先ほどの枯れ草のエリアよりは快調に探索を進めていくことが出来た。
 戦闘よりむしろ面倒だったのは、地形のアップダウンが徐々に激しくなってきたことだろうか。
 高所は見晴らしが良いが、低い位置では死角になり得る場所も増えてきて、何らかのヒントを見落とさないように、時おり注意を払う必要がある。
 同じロックイミテーターやロックリザードでも、サイズが段々と大きくなってきたなぁ……などと思っていたら、ロックゴーレムも中に混ざり始めた。
 ロックゴーレムは巨体のクセに意外なほど素早く、そして硬いうえに魔法の効きも悪かった。
 それより何よりゴーレムはとにかくしぶといモンスターだ。
 ゴーレムとの戦闘経験のある探索者などは、動力源になっている魔法文字を消すとアッサリ倒せることが有るなどと話すことがよくある。
 オレもそれを雑誌で読んだり、テレビで見ていたりもしたので、額だとか胸だとか弱点の有りそうな場所を優先して攻撃してみたが、大半は足の裏だの股の間だのアゴの真下だのの分かりにくく、かつ狙いにくい場所に隠されていて、それ狙いで戦うこと自体が酷く効率の悪い作業なのだと思い知ってしまった。
 百聞は一見にしかず……とは、よくいったものなんだなぁ。

 これらのモンスターを倒しながら探索を続けることしばらく……丘の間で挟隘きょうあいな道を抜けた先に、は待ち構えていた。
 なるほど、なるほど……これは確かに『半月』だわ。
 見た瞬間、嫌でも理解してしまう強烈なインパクトを放つ外見。
 しかし外見に似合わず、放つ気配は強者そのもの……明らかに先ほど倒したリザードマンの王よりも強いだろう。

 力加減を間違えぬよう、恐る恐る片手で自らの頬を張り、気合いを入れ直す。
 さぁ……死闘だ。
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