ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる

文字の大きさ
上 下
130 / 312
第3章

第129話

しおりを挟む
「……おい」

「ははは……早速で済まないな」

 ◆

 結局、最寄りのダンジョンの探索自体は、スタンピード後のダンジョンがどうなっているかを知るため……という建前で、兄や妻の了承を得ることが出来た。
 ただ、兄にも即座に動いて貰いたい案件が有ったため、オレ達はこぞって筒井宅を訪問。
 父を筆頭に、母、妻、義姉、息子、甥っ子達を下見と称して早速、筒井の所有する別荘地へと案内するべく連れて来ていた。

「いや、了承したのはオレだから良いんだけどさ。早すぎじゃね?」

「まぁな。それだけ状況が微妙なんだよ」

「久しぶりね、筒井君。お世話になります」

「あ、おばさん……お久しぶりです。全然、アレです。税金対策で買っただけの無駄な物件なんで、是非とも有効活用してやって下さい」

 筒井は何故か、昔からウチの母に弱い。
 幼くして母を亡くし、先年は父も亡くしている筒井は、どこかウチの母に親しみ以上のものを持っているようだし、母も不憫に思ったからか何かと筒井の面倒を見てやっていた。
 オレに対する態度とは大違いではある。

 筒井への挨拶を無事(?)に終えたオレ達は、筒井から割り当てられた家の鍵を使い、概ね画一的な造りの別荘地の中でも、特に眺望が良く庭も広いその仮住まいに感嘆していた。

「家具まで付いてる……ヒデちゃん凄いね、ここ」

「キッチン広~い。あ、これ欲しかったヤツ!」

 妻も嬉しそうな顔をしているし、菓子作りが趣味の義姉もキッチンの充実ぶりには大喜びのようだ。
 両親は早速とばかりに広い庭に出て、孫達を遊ばせてニコニコしている。
 エマ(飼い猫)はスンスンあちこち匂いを嗅いで落ち着かない様子だが、じきに慣れてくれるだろう。
 本宅に何か有った時に備えて、筒井が目を付けていたという建物なだけあって、不備らしい不備は全くと言って良いほど無かった。
 これなら安心して行動が出来る。

 兄には今から温泉街のダンジョン方面と、仙台駅方面、青葉城址ダンジョン方面が、それぞれどうなっているかを調査して貰う。
 周囲が全てモンスターの領域になっているのか、それとも協力関係を築けるような有力なコミュニティが残っているのかで、今後の行動予定が大きく変わるからだ。

 オレは最寄りのダンジョンの内部調査……という建前で、出来たら第6層のボス部屋まで行ってみようと思う。
 やはり気になって仕方ないのだ。

 ◆

 ダンジョン前に到達。
 バリケード前で警備体制を敷いている警官隊の面々が何人か見える。
 残りはダン協内で休憩中といったところだろうか?

「宗像さん、こんにちは。ダンジョン内に入られるのですか?」

 亡くなった小田巡査長の恋人だった婦警さん……たしか菅谷巡査という筈だ。

「はい、あの後のダンジョンがどうなっているのか……これを知らないままというのは、やはり怖いものが有りますので」

「宗像さんなら大丈夫でしょうが……くれぐれも、お気をつけて」

「ありがとうございます。では……」

 引き留められる可能性も考慮していたが、思ったよりは簡単に通してくれた。
 余計な面倒が無くて何よりだ。

 ダンジョン内に入る。
 大量の海水が通過した筈だが、特に磯臭かったり床や空気が湿っていたりはしない。
 ……不思議なものだ。
 改めてダンジョンが理外の存在で有ることを強く認識させられる。

 一度もモンスターと遭遇しないまま、第1層のボス部屋に到達。
 ギガントビートルの姿すら無い。
 うーん、スタンピードでダンジョン内の魔素が枯れた……とかだろうか?
 調査は当然、継続だ。

 第2層も素通りになるかと思ったが、途中でクリーピング・クラッド(動くヘドロ)が1体だけ襲ってきた。
 火属性魔法では最弱の着火の魔法でアッサリ撃退。
 これは地味に便利だ。
 ボス部屋の中にヘルスコーピオンの姿は無かった。
 今のところ、ただの散歩だ。

 第3層では、ところどころでゼラチナス・キューブが出迎えてくれた。
 スタンピードに出てこなかったモンスターだからだろうか?
 ……となると、第2層で遭遇したクリーピング・クラッドも留守番してたクチかもしれない。
 ボス部屋に入るが案の定、そこにデスサイズは居なかった。

 第4層にも、いつもうるさい巨大なセミや、その他のモンスターの姿は無く、居るのはせいぜいがゼラチナス・キューブなどのスライム系モンスターぐらいだった。
 爬虫類系モンスターは僅かに1体、ジャイアントタートルが居たぐらい。
 これらのモンスターは、居残り組がほとんどなのだろう。
 僅かにジャイアントタートルにリポップした可能性があるが……カメだし、出遅れただけの可能性も高い。
 ボス部屋に新しい石距てながだこは現れておらず、ここまでを見る限りモンスターがスタンピード後に再出現した可能性というのは、限りなく低いように思われる。

 第5層には、そこそこの数のモンスターが居た。
 とは言うものの、レクレスシュリンプ(無謀エビ)、ホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)、スピニングスターフィッシュ(旋回ヒトデ)、ジャイアントシーキューカンバ(巨大ナマコ)らの数は少なく、レギオンシースレーター(軍隊フナムシ)や水夫風のゾンビ、海賊風スケルトンに至っては全く見ていない。
 多かったのは壁や天井に貼り付いて海水に流されなかったらしいバレットバーナクル(弾丸フジツボ)。
 まぁまぁ居た……というのが、ジャイアントハーミットクラブ(巨大ヤドカリ)、サイレントローパー(隠密イソギンチャク)あたりだ。
 やはりここでも、スタンピードの時に多く見掛けたモンスターほど、ダンジョン内部では数が少ない傾向に有るようだった。

 さて……問題はこの後だ。
 ボス部屋に待ち構えているフォートレスロブスター(要塞エビ)は、通常時と同じく1体なのか……それともスタンピードで出撃し損なった推定11体の大型バスの様なサイズのエビがズラリと並んで居るのか……?
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...