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第3章

第125話

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「秀敏君、朝早くから済まない。……実は、お寺さん困ったことになってたんだよ。それで鈴木さんの奥さんとも相談したんだが……」

 ◆

 焦っているのか、慌てているのか……。
 性急かつ、なかなか要領を得なかった佐藤さんの話を要約すると……

 昨日はあの後、旧市民センターがダンジョンへと変貌したため、新設された現在の市民センターの一室に、犠牲者達(警官、鈴木さん、星野さん一家)の遺体を移して仮の安置所としたそうだ。
 次に、星野さん一家の他にも犠牲になった近隣住民が居ないかの調査を警察が主導して始めた頃、佐藤さんが代表して最寄りのお寺に電話をしてみたが繋がらなかった。
 後で掛けなおすことにして、ひとまず犠牲になった鈴木さん宅を訪問し、ご家族に訃報を伝える。
 鈴木さんの奥様の希望で、安置所へ鈴木さんのご家族を送り届けたところで、だいぶ暗くなって来たため解散する運びとなったが、その前にお寺に電話を掛けてみたものの……またも繋がらない。
 おかしいとは思ったが、そういうことも有るだろうと思って、自宅へ戻り就寝。
 今朝、直接お寺に行ったところで、誰も居ないらしいことに気付いたのだという。
 いつもならガレージに堂々と停めてある筈の高級外車が2台とも無いことから、いつからかは分からないが恐らくお寺を放棄して避難したのでは無いだろうかということらしかった。
 単なる外出では無いと佐藤さんが判断した最たる理由は、住職が趣味で集めていた盆栽のうち、いつも自慢していた高額な物が無くなっていたからなのだとか……。
 判断材料として、それが正しいとは必ずしも言えないが、可能性としては確かに高まったようにも思える。
 ……で、佐藤さんが亡くなった鈴木さんの奥様や、星野さんの弟さん、上田さんらと相談した結果として、葬儀をウチの神社に頼みたいという話だった。

 …………確かに可能だろうけど、オレが返答出来る話でも無い。
 何でオレに話を持ってきたのか尋ねたところ、要するにオレの火魔法が火葬の代わりにならないかという期待かららしかった。
 確かに火葬場までの道中、かなりの人口密集地を通るし、そちらの方面は今や地獄の様相を呈しているという仙台駅周辺にも道が繋がっている。
 危なくて行けたものでは無いだろうし、仮に行けたとしても、すんなり火葬して貰える保証はどこにも無い。
 それならば……というところなのだろう。

 ……まずは父と兄に相談だな。

 ◆

 まだ起きて来ていなかった父と兄とを無理やりに起こし、事情を掻い摘んで説明した。

「結論から言えば可能です。今や神式の葬儀も、十全に出来るとは言えませんが。誠心誠意、務めさせて頂きましょう。なるべく早くお祀りしなければいけない状況でしょうし……」

 父は威儀を正して佐藤さんに向き合うと、開口一番そう力強く請け負う。
 先ほどまでヨダレを垂らして寝ていた人とは思えないほどの変わり身だ。

「おぉ……ありがとうございます。それでは僕はこれで失礼して、鈴木さんの奥さん達に話を通して来ますね。時間などの詳細は、決まり次第すぐに連絡させて頂きます」

 佐藤さんは見るからにホッとした様子を見せると、深々と一礼して慌ただしく帰っていった。

 まぁ、気持ちは分からないでも無い。
 普段こういう時に頼りになる上田さんが、責任を感じ過ぎて昨日から意気消沈しているし、お寺の住職がまさか檀家さん達に一言も無く逃げ出すとは思わないだろう。
 あの人の良さそうな住職さんよりは、遊び人と噂の跡継ぎ息子が絡んでいる気がするが……まぁ、この際それは別に何でもよい。
 実際問題、神社の神主は冠婚葬祭なら何でもこなせるし、住職さん達が居なくてもさほど困らないと言えば困らないのだ。
 問題は今後の墓地の管理だよなぁ……。
 あまりに疎そかにすれば、寺も墓地もアンデッドモンスターの巣窟になってしまいかねない。
 その辺りまで面倒を見ることになると、負担も激増してしまうだろう。
 このままモンスターが一切この付近に出てこなくなるならば、護持会とか言うお寺の檀家さん達が営む管理組合に委託してしまえばよいのだろうけど、このまま平和な世の中が戻るなどということは、いくら根が楽天的なオレでも夢想だに出来ない。
 結局はそれなりに戦う力の有る人の手を必要とする問題になりそうだ。

 問題と言えば……火葬場の代わりをオレが務めることも、実際に出来るかどうかはやってみないと分からないというのが正直なところだった。
 詳しくは知らないが大体1時間程度は火を絶やさず、しかもかなりの高温を保つ必要が有る筈だ。
 結局は火魔法を絶えず撃ち続けるしか無いのだろうが、仮にそれは出来たとしてもご遺体を載せる台車だとか骨壺だとか、そういった用意も何も無い。
 これは柏木さんに相談する必要が有りそうだ。

 ◆ ◆

 この日……鈴木さんをはじめ、星野さん一家、殉職した小田巡査長らの葬儀が行われた。

 神道の祝詞は、各人に全く違う文言(故人の来歴だとか趣味だとかを盛り込む)が必要となるため、ご遺族や関係者に聞き取りをして祝詞を書いて……という時間がどうしても必要となり、結局は夕方近くまで掛かって全てを終えたことになる。
 オレは柏木さんに台車の代わりとなる耐熱板や、金属製ながら骨壺の代わりとなる物を作って貰ってすぐに、火葬に取り掛かった。
 場所は大昔(このあたりの集落が仙台市に吸収される前の村時代)に使われていたという斎場跡地。
 ご遺体は、焼く前に兄が丁寧に祓ってくれた。
 魔力が持つのか、上手く焼けるのかは不安で仕方なかったが、どうにかこうにか役目を果たせて良かったと思う。
 あまりに連発したせいか、途中で【火魔法】をスキルとして正式に得たおかげで、魔力消費が緩和されたのも大きかったかもしれない。
 骨壺に収骨された後、順次ここから市民センターに移されて葬儀が行われたため、オレは近所で亡くなった誰の葬儀にも参列出来なかった。
 最後に回された小田巡査長の葬儀に玉串を捧げに行ったぐらいだ。
 どの葬儀も玉串、線香両方アリの独特の葬儀になったらしい。
 実に日本らしくて良いと思う。

 相変わらず、モンスターのの字も出ない。
 ダンジョンも閉鎖されたままだった。

 この日までは…………
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