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第3章
第119話
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津波……というには、押し寄せた波はささやかに過ぎるだろう。
しかしそれでも……状況は極めて悪かった。
バリケードを押し流すほどの勢いでも無かったのだが、そこら中が水浸しだ。
まさかダンジョンから海水ごとモンスターが運ばれてくるとは、誰だって思わないだろう。
水を得た魚(魚系モンスターは皆無だが……)のように縦横無尽に跳ね回る高速モンスターの数々に、まともに対応出来ているのは、父や妻を除けば、警官隊の一部と柏木兄妹ぐらいのもので、上田さんや森脇さんなども右往左往している。
特に厄介なのはバレットバーナクル(弾丸フジツボ)で、警官隊の1人……最初にワーラットを撃ち殺した若い警察官が、肩口を撃ち抜かれて重傷を負っている。
すぐにポーションを飲まされたことで一命は取りとめたものの、出血した血液までが戻ってくるわけではないので、彼は戦線を離脱してしまっていた。
当たりどころが悪かったら即死していただろうから、それでも運が良かったと言えるかもしれないのだが……。
ここで出し惜しみしていたら、犠牲者が出てしまうのは間違いない。
オレは迷わずワールウインドやウインドライトエッジを乱発し、風属性に弱い海棲生物系モンスターを次々に倒していく。
極めて効率的にモンスターの排除が出来てはいるが、いかんせん数が多いのと濁った海水が邪魔になって視認が遅れ、討ち洩らしがどうしても出ている。
今もホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)が間隙を縫って飛来し、派手な音を立ててバリケードに突き刺さってきたところだ。
危うくバリケードに隠れることに成功した上田さんが、顔を真っ青にしているのが見えた。
このままではマズい。
水面から出ているヤツらはまだしも、バレットバーナクルや、スピニングスターフィッシュ(旋回ヒトデ)のように、完全に水中から飛び出してくるヤツラは対処も撃破も極めて難易度が高い。
……あ、そうか。
水だ。
水を何とかしてしまえば良い。
警官隊のリーダーや上田さんに声を掛け作戦を伝えたオレは、今あまり役に立っているとは言い難い短鎗をバリケードに立て掛け、ライトインベントリーから紅玉の魔杖を取り出して【火魔法】を使うことにした。
魔杖の先端から射出されたのは、かなり大きな炎の弾丸……ファイアーボールとでも言うのだろうか?
いまだ自分のモノになっていないスキルなので詳細は分からないが、大人用のバスケットボールよりも更に大きな炎弾が、水面から顔を出していたジャイアントハーミットクラブ(巨大ヤドカリ)を焼いていく。
勢い余って水中に飛び込んだ炎の玉は、ジュウジュウと音を立てて海水を蒸発させながら消え失せる。
まだ……まだまだだ!
次々と撃ち出される炎弾……どうやら火属性魔法の効き目は風属性よりは良くないようで、レクレスシュリンプ(無謀エビ)や、ジャイアントシーキューカンバ(巨大ナマコ)などは一撃では死ななかったが、オレの狙いはそこには無い。
炎の弾丸が当たろうが外れようが、それでモンスターが死のうが死ぬまいがそんなことはお構い無しに、ろくに狙いもせず魔法を乱射していく。
濛々と立ち込める水蒸気が視界を極めて悪くしているが、それすらも構わない。
オレも魔法を放ちながら徐々に後退していたが、その判断は間違っていなかったかもしれない。
妻をはじめ防衛戦に参加していた人達には既に全員、取り敢えずは安全だろうダン協の建物まで下がって貰っているし、オレには【危機察知】に加えレッサーデーモンから奪った【気配隠蔽】まで有るのだ。
敵にはオレの位置がイマイチ把握出来ない筈だし、それでもオレに危険が迫れば【危機察知】が警報を鳴らす。
おかげで一方的に敵を追い詰めることが出来ている。
熱し続けた海水のせいか、明らかに周囲の気温が上昇しているほどだ。
魔法を放ちながら徐々に後退していたが、その判断は間違っていなかったかもしれない。
最初に立っていた位置だと蒸気だけでも火傷を負いそうだ。
これだけ連続して魔法を放てば目眩の一つも起こしそうなものだが、いまだにそんな気配は無い。
……【存在強奪】が仕事をしているのだろうか?
使っている魔力より、倒したモンスターから奪っている魔力の方が多いのかもしれない。
オレの腰の高さほどは有った筈の海水も、今や膝より低い位置ぐらいしか無い。
もちろんバリケードの隙間から漏れていったものも有るだろうが、凄い勢いで蒸発して湯気となって消えていった。
こうなると、充分な水量が無ければ効率的な跳躍が出来ないレクレスシュリンプは怖くないし、スピニングスターフィッシュにしても、視認が可能な水位だろう。
今は立ち込める湯気で、依然として視界が真っ白なのだが……。
バレットバーナクルが先ほどから飛んで来ないのは、熱に弱い特性でも有ったのだろうか?
……良い出汁が出ていそうではある。
魔力が枯渇しそうならここらで終わりにしようと思っていたが、まだまだ問題は無さそうだ。
この後に出てくるだろうフォートレスロブスター(要塞エビ)やゴーストなどに、海水が利することが無いとも言い切れない。
どうせならモンスターごと一掃してしまうつもりで、撃ちまくることにした。
◆
ゾロゾロと皆がダン協から出てくる。
妻や父などは、オレがドロップアイテムを拾う作業を手伝ってくれた。
それにしても、辺り一面が真っ白だ。
……海水ってそういえば、水分を飛ばせば塩だよなぁ。
ドロップアイテムでは無いにしても、集めておこうかね。
今後はこういった物すら、入手が困難になるだろう。
サラリーマンの語源は、貴重品で給与の代わりになり得た時代の塩だとも言うし……。
しかしそれでも……状況は極めて悪かった。
バリケードを押し流すほどの勢いでも無かったのだが、そこら中が水浸しだ。
まさかダンジョンから海水ごとモンスターが運ばれてくるとは、誰だって思わないだろう。
水を得た魚(魚系モンスターは皆無だが……)のように縦横無尽に跳ね回る高速モンスターの数々に、まともに対応出来ているのは、父や妻を除けば、警官隊の一部と柏木兄妹ぐらいのもので、上田さんや森脇さんなども右往左往している。
特に厄介なのはバレットバーナクル(弾丸フジツボ)で、警官隊の1人……最初にワーラットを撃ち殺した若い警察官が、肩口を撃ち抜かれて重傷を負っている。
すぐにポーションを飲まされたことで一命は取りとめたものの、出血した血液までが戻ってくるわけではないので、彼は戦線を離脱してしまっていた。
当たりどころが悪かったら即死していただろうから、それでも運が良かったと言えるかもしれないのだが……。
ここで出し惜しみしていたら、犠牲者が出てしまうのは間違いない。
オレは迷わずワールウインドやウインドライトエッジを乱発し、風属性に弱い海棲生物系モンスターを次々に倒していく。
極めて効率的にモンスターの排除が出来てはいるが、いかんせん数が多いのと濁った海水が邪魔になって視認が遅れ、討ち洩らしがどうしても出ている。
今もホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)が間隙を縫って飛来し、派手な音を立ててバリケードに突き刺さってきたところだ。
危うくバリケードに隠れることに成功した上田さんが、顔を真っ青にしているのが見えた。
このままではマズい。
水面から出ているヤツらはまだしも、バレットバーナクルや、スピニングスターフィッシュ(旋回ヒトデ)のように、完全に水中から飛び出してくるヤツラは対処も撃破も極めて難易度が高い。
……あ、そうか。
水だ。
水を何とかしてしまえば良い。
警官隊のリーダーや上田さんに声を掛け作戦を伝えたオレは、今あまり役に立っているとは言い難い短鎗をバリケードに立て掛け、ライトインベントリーから紅玉の魔杖を取り出して【火魔法】を使うことにした。
魔杖の先端から射出されたのは、かなり大きな炎の弾丸……ファイアーボールとでも言うのだろうか?
いまだ自分のモノになっていないスキルなので詳細は分からないが、大人用のバスケットボールよりも更に大きな炎弾が、水面から顔を出していたジャイアントハーミットクラブ(巨大ヤドカリ)を焼いていく。
勢い余って水中に飛び込んだ炎の玉は、ジュウジュウと音を立てて海水を蒸発させながら消え失せる。
まだ……まだまだだ!
次々と撃ち出される炎弾……どうやら火属性魔法の効き目は風属性よりは良くないようで、レクレスシュリンプ(無謀エビ)や、ジャイアントシーキューカンバ(巨大ナマコ)などは一撃では死ななかったが、オレの狙いはそこには無い。
炎の弾丸が当たろうが外れようが、それでモンスターが死のうが死ぬまいがそんなことはお構い無しに、ろくに狙いもせず魔法を乱射していく。
濛々と立ち込める水蒸気が視界を極めて悪くしているが、それすらも構わない。
オレも魔法を放ちながら徐々に後退していたが、その判断は間違っていなかったかもしれない。
妻をはじめ防衛戦に参加していた人達には既に全員、取り敢えずは安全だろうダン協の建物まで下がって貰っているし、オレには【危機察知】に加えレッサーデーモンから奪った【気配隠蔽】まで有るのだ。
敵にはオレの位置がイマイチ把握出来ない筈だし、それでもオレに危険が迫れば【危機察知】が警報を鳴らす。
おかげで一方的に敵を追い詰めることが出来ている。
熱し続けた海水のせいか、明らかに周囲の気温が上昇しているほどだ。
魔法を放ちながら徐々に後退していたが、その判断は間違っていなかったかもしれない。
最初に立っていた位置だと蒸気だけでも火傷を負いそうだ。
これだけ連続して魔法を放てば目眩の一つも起こしそうなものだが、いまだにそんな気配は無い。
……【存在強奪】が仕事をしているのだろうか?
使っている魔力より、倒したモンスターから奪っている魔力の方が多いのかもしれない。
オレの腰の高さほどは有った筈の海水も、今や膝より低い位置ぐらいしか無い。
もちろんバリケードの隙間から漏れていったものも有るだろうが、凄い勢いで蒸発して湯気となって消えていった。
こうなると、充分な水量が無ければ効率的な跳躍が出来ないレクレスシュリンプは怖くないし、スピニングスターフィッシュにしても、視認が可能な水位だろう。
今は立ち込める湯気で、依然として視界が真っ白なのだが……。
バレットバーナクルが先ほどから飛んで来ないのは、熱に弱い特性でも有ったのだろうか?
……良い出汁が出ていそうではある。
魔力が枯渇しそうならここらで終わりにしようと思っていたが、まだまだ問題は無さそうだ。
この後に出てくるだろうフォートレスロブスター(要塞エビ)やゴーストなどに、海水が利することが無いとも言い切れない。
どうせならモンスターごと一掃してしまうつもりで、撃ちまくることにした。
◆
ゾロゾロと皆がダン協から出てくる。
妻や父などは、オレがドロップアイテムを拾う作業を手伝ってくれた。
それにしても、辺り一面が真っ白だ。
……海水ってそういえば、水分を飛ばせば塩だよなぁ。
ドロップアイテムでは無いにしても、集めておこうかね。
今後はこういった物すら、入手が困難になるだろう。
サラリーマンの語源は、貴重品で給与の代わりになり得た時代の塩だとも言うし……。
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