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第3章
第116話
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結局のところ……後方の撹乱を許してしまえば、防衛陣全体の士気の低下を招く事が目に見えている。
一時的に父にバリケード前での先陣を譲る形でオレが戦列を離れ、異変の調査に乗り出すことにした。
火はやはり、星野さん宅から出ている。
もちろん消火を急ぐ必要は有るだろうが、まずはモンスターの排除が先だ。
幸いにして、煙こそ派手に上がっているものの火の勢いはそこまで強くは無いようだった。
この火災の原因となった筈のモンスターを倒してからでも、充分に消火は可能だろう。
星野さんや、彼の家族は無事だろうか?
何とか逃げ延びてくれていると良いのだが……。
もちろん、あまり現実的で無い願いなのは分かっているのだが、どうしても無事を祈らずにはいられない。
彼には幼い娘さんや、歳を取って楽隠居を始めたばかりのご両親も居るのだ。
奥さんも社交的な人で、星野さんより一回りは年下だった筈だ。
しかし……案の定と言うべきか、その淡い期待は、至極あっさりと裏切られることになった。
煙の中から意気揚々と小躍りしながら出てきたゴブリンの、粗末な槍の穂先に架けられた無念そうな男性の首……さすがに間違えようが無い。
……星野さんだ。
他のゴブリンも一様に返り血を浴び朱に染まっている。
恐らくは、ご家族も……。
最後に姿を現したゴブリンは、頭に派手な羽根飾りを被り、顔ばかりか身体中に白い顔料で化粧を施した奇妙な出で立ちをしていた。
ゴブリンシャーマン……?
ゴブリンが単に火を放った可能性も有るには有るが、この派手なゴブリンがシャーマンならば、コイツが魔法を使った結果として延焼した可能性の方が高いだろう。
しかし先ほど感じた、オーガをも上回るプレッシャーは既に感じない。
まさか……シャーマンでは無くてゴブリンサモナーだとでも言うのだろうか?
それならば理屈は通るが、はっきり言って勘弁して貰いたい。
ここは空気なんてモノは読まず、まずはコイツから倒そう。
鉄球を【投擲】し、派手に飾り立てられたゴブリンの頭部を潰す。
普段のゴブリンなら、上位種を排除すれば壊走してもおかしくないのだが、やはり今日のモンスターはどこか違う。
怒りの色さえ瞳に宿し、彼我の実力差を全く考慮せずに襲い掛かって来た。
鎧袖一触……これらのゴブリンの強さは、やはり一般的なもので、とても先ほどの不可解なプレッシャーの持ち主とは思えない。
凶暴性こそ普通のゴブリンのものでは無いが、それはスタンピード時特有の現象と考えれば、特に不自然というほどのことも無かった。
ゴブリンシャーマン(?)が宝箱を落としたので、ノーマルゴブリンのドロップアイテムとともに手早く回収。
いったんバリケード前に駆け戻り、ジャイアントタートルの大群と、新手らしい水夫風のゾンビや、海賊風のスケルトン、レギオンシースレーターらを父や妻と共に猛スピードで一掃していく。
まだスピニングスターフィッシュ(旋回ヒトデ)や、ホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)など、待ち伏せがメインの海棲生物系のモンスターが現れる気配は無い。
今のうちに、星野さん宅の出火を対処しに向かうべきだろう。
◆
幸いと言うべきか、何と言うべきか……上田さんを筆頭に、現役の消防団員や消防団経験者が多かったのと、隣家がウチの遠い親戚筋で水道やホースを借りるのに話が通しやすかったのが功を奏し、いまだボヤという段階で留まっていた火事は至極アッサリと消し止められた。
しかし内部の惨状は目を覆いたくなるほどで、まさに酸鼻を極めた。
血に飢えたモンスターの前には、男女も老人も幼子も関係は無いのだろう。
特に損傷が酷かった首の無い遺体は激しく抵抗したのだろう星野さん本人のもので間違いないとして、老父母や、奥さんらしき女性の遺体……結婚から8年してようやく授かったという娘さんまでもが、無惨なことになっていた。
……思わず手を合わせる。
沈鬱な空気が場を支配するが、こうしてばかりもいられない。
犠牲者を最小限に抑えるためにも、再び防衛戦に戻ろう。
自ら先頭に立ちダンジョンに向けて歩き出したオレだったが、にわかに警戒を促し始めた【危機察知】に思わず足を止める。
後に続いて歩いていた上田さんが背中にぶつかるが、それを押し留めて一点を凝視……道の先に何か居る。
……いつから居た?
コレに……勝てるのか?
いつの間にか堂々と道の真ん中に立っていたのは、恐らくは……魔界というところに400万体以上は居ると伝わっている悪魔のうちの、たった1体だ。
マントヒヒのような外見に、取って付けた様に生えている牡牛のような角……身長はオレより僅かに高い程度。
コウモリの様な翼。
酪農などに使われるフォークのような得物を持っている。
特徴からすれば、レッサーデーモンというヤツだろう。
……コレと戦う?
しかも、上田さん達を庇いながら?
…………とてもではないが、容易に勝てるとは思えない。
先ほど感じたプレッシャーはコイツか。
能力的には、姿を隠す魔法と気配を隠す特殊能力あたりは間違いなく持っている。
さらには火のブレスか魔法に加えて飛行能力。
魔法に対する抵抗力も高いだろう。
他にどんな隠し玉を持っているのかも分からない。
どうする……?
どうすれば……皆を逃がせる?
どうすれば…………勝てる?
一時的に父にバリケード前での先陣を譲る形でオレが戦列を離れ、異変の調査に乗り出すことにした。
火はやはり、星野さん宅から出ている。
もちろん消火を急ぐ必要は有るだろうが、まずはモンスターの排除が先だ。
幸いにして、煙こそ派手に上がっているものの火の勢いはそこまで強くは無いようだった。
この火災の原因となった筈のモンスターを倒してからでも、充分に消火は可能だろう。
星野さんや、彼の家族は無事だろうか?
何とか逃げ延びてくれていると良いのだが……。
もちろん、あまり現実的で無い願いなのは分かっているのだが、どうしても無事を祈らずにはいられない。
彼には幼い娘さんや、歳を取って楽隠居を始めたばかりのご両親も居るのだ。
奥さんも社交的な人で、星野さんより一回りは年下だった筈だ。
しかし……案の定と言うべきか、その淡い期待は、至極あっさりと裏切られることになった。
煙の中から意気揚々と小躍りしながら出てきたゴブリンの、粗末な槍の穂先に架けられた無念そうな男性の首……さすがに間違えようが無い。
……星野さんだ。
他のゴブリンも一様に返り血を浴び朱に染まっている。
恐らくは、ご家族も……。
最後に姿を現したゴブリンは、頭に派手な羽根飾りを被り、顔ばかりか身体中に白い顔料で化粧を施した奇妙な出で立ちをしていた。
ゴブリンシャーマン……?
ゴブリンが単に火を放った可能性も有るには有るが、この派手なゴブリンがシャーマンならば、コイツが魔法を使った結果として延焼した可能性の方が高いだろう。
しかし先ほど感じた、オーガをも上回るプレッシャーは既に感じない。
まさか……シャーマンでは無くてゴブリンサモナーだとでも言うのだろうか?
それならば理屈は通るが、はっきり言って勘弁して貰いたい。
ここは空気なんてモノは読まず、まずはコイツから倒そう。
鉄球を【投擲】し、派手に飾り立てられたゴブリンの頭部を潰す。
普段のゴブリンなら、上位種を排除すれば壊走してもおかしくないのだが、やはり今日のモンスターはどこか違う。
怒りの色さえ瞳に宿し、彼我の実力差を全く考慮せずに襲い掛かって来た。
鎧袖一触……これらのゴブリンの強さは、やはり一般的なもので、とても先ほどの不可解なプレッシャーの持ち主とは思えない。
凶暴性こそ普通のゴブリンのものでは無いが、それはスタンピード時特有の現象と考えれば、特に不自然というほどのことも無かった。
ゴブリンシャーマン(?)が宝箱を落としたので、ノーマルゴブリンのドロップアイテムとともに手早く回収。
いったんバリケード前に駆け戻り、ジャイアントタートルの大群と、新手らしい水夫風のゾンビや、海賊風のスケルトン、レギオンシースレーターらを父や妻と共に猛スピードで一掃していく。
まだスピニングスターフィッシュ(旋回ヒトデ)や、ホッパーシーアーチン(跳躍ウニ)など、待ち伏せがメインの海棲生物系のモンスターが現れる気配は無い。
今のうちに、星野さん宅の出火を対処しに向かうべきだろう。
◆
幸いと言うべきか、何と言うべきか……上田さんを筆頭に、現役の消防団員や消防団経験者が多かったのと、隣家がウチの遠い親戚筋で水道やホースを借りるのに話が通しやすかったのが功を奏し、いまだボヤという段階で留まっていた火事は至極アッサリと消し止められた。
しかし内部の惨状は目を覆いたくなるほどで、まさに酸鼻を極めた。
血に飢えたモンスターの前には、男女も老人も幼子も関係は無いのだろう。
特に損傷が酷かった首の無い遺体は激しく抵抗したのだろう星野さん本人のもので間違いないとして、老父母や、奥さんらしき女性の遺体……結婚から8年してようやく授かったという娘さんまでもが、無惨なことになっていた。
……思わず手を合わせる。
沈鬱な空気が場を支配するが、こうしてばかりもいられない。
犠牲者を最小限に抑えるためにも、再び防衛戦に戻ろう。
自ら先頭に立ちダンジョンに向けて歩き出したオレだったが、にわかに警戒を促し始めた【危機察知】に思わず足を止める。
後に続いて歩いていた上田さんが背中にぶつかるが、それを押し留めて一点を凝視……道の先に何か居る。
……いつから居た?
コレに……勝てるのか?
いつの間にか堂々と道の真ん中に立っていたのは、恐らくは……魔界というところに400万体以上は居ると伝わっている悪魔のうちの、たった1体だ。
マントヒヒのような外見に、取って付けた様に生えている牡牛のような角……身長はオレより僅かに高い程度。
コウモリの様な翼。
酪農などに使われるフォークのような得物を持っている。
特徴からすれば、レッサーデーモンというヤツだろう。
……コレと戦う?
しかも、上田さん達を庇いながら?
…………とてもではないが、容易に勝てるとは思えない。
先ほど感じたプレッシャーはコイツか。
能力的には、姿を隠す魔法と気配を隠す特殊能力あたりは間違いなく持っている。
さらには火のブレスか魔法に加えて飛行能力。
魔法に対する抵抗力も高いだろう。
他にどんな隠し玉を持っているのかも分からない。
どうする……?
どうすれば……皆を逃がせる?
どうすれば…………勝てる?
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