113 / 312
第3章
第112話
しおりを挟む
最悪、正面のモンスターと同等以上の敵の群れが背後から現れた場合、擂り潰されるようにして全滅してしまうことも状況的には有り得た。
しかし、同時出現するモンスターの数には依然として限界が有るようだし、質にしても先ほどのオーガ5体を超える脅威が再来することは、なかなか無いだろう。
このあたりのルールとでも言うべきものが今のところ大きく変わっていないようなのは、オレ達にとって生き残る可能性を大きく上げることだと考えられる。
まぁ、ルールと言ったらダンジョン外にモンスターが出現するのも、ダンジョンのモンスターが外に出てくるのも、この20年無かったことなので、まだまだ油断が出来ないのは事実なのだが……。
何にせよ、背後から迫るオーガ達が早々に排除されたことで、防衛に参加している人々に活気が戻った。
士気さえ上がれば、オーガの出現以前から押され始めていた戦況が五分五分以上まで盛り返すのだから、人の持つ底力には驚かされる。
前に出て戦う必要性は今のところ無さそうだ。
スタミナポーションの配布を、どうやら戦闘にあまり向いていないらしい森脇さんに託し、オレは鉄球の【投擲】を中心に立ち回ることにした。
いつの間にかオークなどのしぶといモンスターに対しては、拳銃やボウガンなどの飛び道具の援護を受けながら、2人以上で立ち向かうようにしているようだ。
必死に戦いながらも実地でこうした工夫を思い付いて即実行に移せるのは、とても素晴らしいことだと思う。
オレに客観的に見る余裕が有るから気付けたことだが、こうしたアイディアを出しているのは沙奈良ちゃんで、周りの人達に声掛けして協力を求めているのが右京君のようだ。
兄妹ならではの連携プレーと言えそうだ。
しばらく小康状態と言うか、危ない場面の少ない時間帯が続いてはいるが、正面のモンスターの構成を見ていると、徐々にジャイアントスコーピオンやオークの比率が高まって来ているのは気掛かりだ。
これは、どうしても倒しきるまでに時間の掛かるモンスターが多く残っているということなのだろう。
鉄球を【投擲】したり、風魔法で援護したりしたいところだが、どちらも有限の攻撃手段だし、使うべき相手が他にいる。
特にジャイアントビーなどは、毒持ちの飛行モンスターなのだし、逃がすわけにいかないだろうから、鉄球は温存しなければならない。
魔力もあまり頻繁に使うと、ゴーストなどの他の攻撃手段で対処しきれない相手が多く出てきた場合に詰んでしまう。
結果として対処が間に合わなくなる前に、単独で前に出て戦うのは有効に思えた。
何も自分が勇者だとか、最強だとか思い上がってのことでは無い。
有効だからやる……それだけだ。
現場を取り仕切る形になっている警官隊のリーダーと上田さんには、タイミングを見て話を通しておいた。
必要に駆られるようになってからでは、結果として後手を踏んでいることにもなる。
オレがあらかじめ決めておいた合図……ハンドサインを出すと、ピタリと拳銃の発砲や矢の射撃が止まった。
バリケードを飛び越え、オークやジャイアントセンチピード、ジャイアントスコーピオンなど、倒すまでに時間の掛かる相手から優先して倒していく。
一頻り暴れ回ったら欲張らずに撤退。
もうしばらくは、これを繰り返すことで優位に戦闘を進めていくことが出来るとは思う。
◆
ヘルスコーピオン5体が同時に出現したのは、何度目かの単独行動が終わって間も無いタイミングで、全体としては幾らか余裕のある時だった。
ヘルスコーピオン単体ならオレに限らず父にしても妻にしても何とか倒せる相手だが、オレだって1人で5体を相手どるのはさすがにキツい。
バリケード越しでも、警官達や柏木兄妹ならともかくまだ経験の浅い人達では、一瞬の隙を突かれればアッサリ致命傷を負ってしまう危険性さえ有った。
既に今日だけでも数日分のダンジョン探索に相当するモンスターを、多分この場にいる全員が倒していることだろうから、恐らく誰もが実感出来るレベルで各種身体能力が向上している筈ではある。
しかしそれで戦闘経験までもが補われるかと言うと、甚だ疑問でもあった。
結果として、父と妻にもバリケード前に出て来て貰って対処する破目になったのだが、誰もが恐れていたであろう問題が、よりによってその戦闘中に起きてしまう。
背後から迫るモンスター達。
幸いにして【危機察知】が伝えてくる反応は、そこまで強いモンスターのそれでは無かった。
それなのに……何だか明らかに後方の様子がおかしい。
怒号に加えて悲鳴の様な声までもが聞こえてくるが、ヘルスコーピオンに加えて大量に現れたジャイアントスコーピオンに足止めを食らい、すぐには戻れない。
ようやくサソリの大群を排除してバリケードの内側に退避した時には、既に防衛陣が恐慌状態に陥っていた。
……何が起きた?
警官隊が中心になって後方のモンスターに対処しているようで、既に敵の挟み撃ちは完全に失敗していると言っても良いぐらいだ。
一体、何が……?
しかし、同時出現するモンスターの数には依然として限界が有るようだし、質にしても先ほどのオーガ5体を超える脅威が再来することは、なかなか無いだろう。
このあたりのルールとでも言うべきものが今のところ大きく変わっていないようなのは、オレ達にとって生き残る可能性を大きく上げることだと考えられる。
まぁ、ルールと言ったらダンジョン外にモンスターが出現するのも、ダンジョンのモンスターが外に出てくるのも、この20年無かったことなので、まだまだ油断が出来ないのは事実なのだが……。
何にせよ、背後から迫るオーガ達が早々に排除されたことで、防衛に参加している人々に活気が戻った。
士気さえ上がれば、オーガの出現以前から押され始めていた戦況が五分五分以上まで盛り返すのだから、人の持つ底力には驚かされる。
前に出て戦う必要性は今のところ無さそうだ。
スタミナポーションの配布を、どうやら戦闘にあまり向いていないらしい森脇さんに託し、オレは鉄球の【投擲】を中心に立ち回ることにした。
いつの間にかオークなどのしぶといモンスターに対しては、拳銃やボウガンなどの飛び道具の援護を受けながら、2人以上で立ち向かうようにしているようだ。
必死に戦いながらも実地でこうした工夫を思い付いて即実行に移せるのは、とても素晴らしいことだと思う。
オレに客観的に見る余裕が有るから気付けたことだが、こうしたアイディアを出しているのは沙奈良ちゃんで、周りの人達に声掛けして協力を求めているのが右京君のようだ。
兄妹ならではの連携プレーと言えそうだ。
しばらく小康状態と言うか、危ない場面の少ない時間帯が続いてはいるが、正面のモンスターの構成を見ていると、徐々にジャイアントスコーピオンやオークの比率が高まって来ているのは気掛かりだ。
これは、どうしても倒しきるまでに時間の掛かるモンスターが多く残っているということなのだろう。
鉄球を【投擲】したり、風魔法で援護したりしたいところだが、どちらも有限の攻撃手段だし、使うべき相手が他にいる。
特にジャイアントビーなどは、毒持ちの飛行モンスターなのだし、逃がすわけにいかないだろうから、鉄球は温存しなければならない。
魔力もあまり頻繁に使うと、ゴーストなどの他の攻撃手段で対処しきれない相手が多く出てきた場合に詰んでしまう。
結果として対処が間に合わなくなる前に、単独で前に出て戦うのは有効に思えた。
何も自分が勇者だとか、最強だとか思い上がってのことでは無い。
有効だからやる……それだけだ。
現場を取り仕切る形になっている警官隊のリーダーと上田さんには、タイミングを見て話を通しておいた。
必要に駆られるようになってからでは、結果として後手を踏んでいることにもなる。
オレがあらかじめ決めておいた合図……ハンドサインを出すと、ピタリと拳銃の発砲や矢の射撃が止まった。
バリケードを飛び越え、オークやジャイアントセンチピード、ジャイアントスコーピオンなど、倒すまでに時間の掛かる相手から優先して倒していく。
一頻り暴れ回ったら欲張らずに撤退。
もうしばらくは、これを繰り返すことで優位に戦闘を進めていくことが出来るとは思う。
◆
ヘルスコーピオン5体が同時に出現したのは、何度目かの単独行動が終わって間も無いタイミングで、全体としては幾らか余裕のある時だった。
ヘルスコーピオン単体ならオレに限らず父にしても妻にしても何とか倒せる相手だが、オレだって1人で5体を相手どるのはさすがにキツい。
バリケード越しでも、警官達や柏木兄妹ならともかくまだ経験の浅い人達では、一瞬の隙を突かれればアッサリ致命傷を負ってしまう危険性さえ有った。
既に今日だけでも数日分のダンジョン探索に相当するモンスターを、多分この場にいる全員が倒していることだろうから、恐らく誰もが実感出来るレベルで各種身体能力が向上している筈ではある。
しかしそれで戦闘経験までもが補われるかと言うと、甚だ疑問でもあった。
結果として、父と妻にもバリケード前に出て来て貰って対処する破目になったのだが、誰もが恐れていたであろう問題が、よりによってその戦闘中に起きてしまう。
背後から迫るモンスター達。
幸いにして【危機察知】が伝えてくる反応は、そこまで強いモンスターのそれでは無かった。
それなのに……何だか明らかに後方の様子がおかしい。
怒号に加えて悲鳴の様な声までもが聞こえてくるが、ヘルスコーピオンに加えて大量に現れたジャイアントスコーピオンに足止めを食らい、すぐには戻れない。
ようやくサソリの大群を排除してバリケードの内側に退避した時には、既に防衛陣が恐慌状態に陥っていた。
……何が起きた?
警官隊が中心になって後方のモンスターに対処しているようで、既に敵の挟み撃ちは完全に失敗していると言っても良いぐらいだ。
一体、何が……?
1
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
落ちこぼれの半龍娘
乃南羽緒
ファンタジー
龍神の父と人間の母をもついまどきの女の子、天沢水緒。
古の世に倣い、15歳を成人とする龍神の掟にしたがって、水緒は龍のはみ出しもの──野良龍にならぬよう、修行をすることに。
動物眷属のウサギ、オオカミ、サル、タヌキ、使役龍の阿龍吽龍とともに、水緒が龍として、人として成長していく青春物語。
そのなかで蠢く何者かの思惑に、水緒は翻弄されていく。
和風現代ファンタジー×ラブコメ物語。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ハズれギフトの追放冒険者、ワケありハーレムと荷物を運んで国を取る! #ハズワケ!
寝る犬
ファンタジー
【第3回HJ小説大賞後期「ノベルアップ+」部門 最終選考作品】
「ハズワケ!」あらすじ。
ギフト名【運び屋】。
ハズレギフトの烙印を押された主人公は、最高位のパーティをクビになった。
その上悪い噂を流されて、ギルド全員から村八分にされてしまう。
しかし彼のギフトには、使い方次第で無限の可能性があった。
けが人を運んだり、モンスターをリュックに詰めたり、一夜で城を建てたりとやりたい放題。
仲間になったロリっ子、ねこみみ何でもありの可愛い女の子たちと一緒に、ギフトを活かして、デリバリーからモンスター討伐、はては他国との戦争、世界を救う冒険まで、様々な荷物を運ぶ旅が今始まる。
※ハーレムの女の子が合流するまで、マジメで自己肯定感の低い主人公の一人称はちょい暗めです。
※明るい女の子たちが重い空気を吹き飛ばしてゆく様をお楽しみください(笑)
※タイトルの画像は「東雲いづる」先生に描いていただきました。
転生したら倉庫キャラ♀でした。
ともQ
ファンタジー
最高に楽しいオフ会をしよう。
ゲーム内いつものギルドメンバーとの会話中、そんな僕の一言からオフ会の開催が決定された。
どうしても気になってしまうのは中の人、出会う相手は男性?女性? ドキドキしながら迎えたオフ会の当日、そのささやかな夢は未曾有の大天災、隕石の落下により地球が消滅したため無念にも中止となる。
死んで目を覚ますと、僕はMMORPG "オンリー・テイル" の世界に転生していた。
「なんでメインキャラじゃなくて倉庫キャラなの?!」
鍛え上げたキャラクターとは《性別すらも正反対》完全な初期状態からのスタート。
加えて、オンリー・テイルでは不人気と名高い《ユニーク職》、パーティーには完全不向き最凶最悪ジョブ《触術師》であった。
ギルドメンバーも転生していることを祈り、倉庫に貯めまくったレアアイテムとお金、最強ゲーム知識をフルバーストしこの世界を旅することを決意する。
道中、同じプレイヤーの猫耳魔法少女を仲間に入れて冒険ライフ、その旅路はのちに《英雄の軌跡》と称される。
今、オフ会のリベンジを果たすため "オンリー・テイル" の攻略が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる