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第2章

第101話

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 ……あの大岩がトラップだったとしよう。

 真っ先に考えられるのは定番中の定番……転がって来るパターンだが、それは脅威になるだろうか?
 充分に注意をしておけば、恐らく今のオレなら、回避するのは容易だと思う。
 他のパターン……例えば、バレットバーナクル(弾丸フジツボ)や、ホッパーシーアーチン(跳ぶウニ)のように高速で飛来してくるとしたら、岩が大きい分だけ回避に苦労しそうでは有るが、それも予め想定しておけば、何とかなるだろう。

 ……あの大岩がモンスターだったとしよう。

 その場合、他のダンジョンに出現するモンスターで、オレの知っているモンスターのうち、候補になりそうなのはロックイミテーター(擬態する魔法生物の岩)、ロックゴーレム(岩石魔導人形)、ロックトロル(岩石巨亜人)……こんなもんだ。
 相変わらず【危機察知】には全く反応が無いので、これらのモンスターの中ではロックイミテーターである可能性が最も高い。
 次いでロックゴーレム……しかし、どちらも魔法生物系のモンスターで、このダンジョンの出現モンスターの傾向から外れてしまう。
 じゃあ、まさかのロックトロル?
 これぐらいの階層で出るモンスターじゃないが、亜人系モンスターであるからには可能性として最も有り得るということになってしまう。

 ……いや、待てよ?
 既に第4層に爬虫類系モンスターが現れ始めた段階で、それはアテにならないのでは無いだろうか?
 通常のダンジョンは、だいたい1種類……多くて2種類の系統のモンスターが出現する。
 例えば柏木兄妹や上田さんら青年会メンバーが探索している、いわゆるド田舎ダンジョンは植物系モンスターがメインで、ごく稀に獣系モンスター。
 兄がたまに潜る温泉街のダンジョンでは、魔法生物系と獣系モンスターが半々。

 日本国内で3種類以上のモンスターが現れるダンジョンというのは、オレの知る限りでは水道橋の旧東京ドームダンジョンぐらいしか思い浮かばない。
 旧東京ドームダンジョンは世界でも希少な大規模ダンジョンとして知られている。
 10系統以上のモンスターが見つかっているうえ、いまだに踏破した人が居ないダンジョンだ。

 …………あれ?

 このダンジョン、もしかして凄い?
 規模としては田舎の市民センターが元になっているため、そこまで大きなダンジョンではない。
 ……無い、ハズだ。
 ダンジョンの元になっている建物の規模に応じて、その深さや規模を推測可能だということは、今や常識のようになっていて、それを疑い始めたらキリが無い。
 2階建ての建物で、このぐらいの面積なら、だいたい8~10階層が限界だと言われている。

 ……規模が大きく無いハズなのに、既に出現しているモンスターは6系統(亜人、虫、スライム、爬虫類、海棲生物、アンデッド)確認済み。
 いや、アンデッドは恐らく例外だろう。
 あれ以来、全てのダンジョンに出現しているらしいし……。
 それを除いても5……いや6系統だ。
 ……ポイズンモールド(毒カビ)は立派な植物モンスターじゃないか。
 …………あ、地味にイビルバット(魔物化したコウモリ)も居たわ。
 イビルバットは獣系モンスターに分類されている。

 ……足を止めたまま考え込んでしまっていたが、オレもすっかり器用になったもので、先を急かすかのように続々と湧き出るゴーストが出現し次第、魔法光を灯した鎗で雑に退治し、さらにはエンチャントウェポン(風)と、フィジカルエンチャント(風)まで掛け直しながらの長考だった。

 …………今は避けて通れるにしても今後のことを考えたら、結局アレ(大岩)を確認しないわけにもいかないんだよなぁ。

 覚悟を決めたオレは、まずおもむろに鉄球を取り出し、大岩目掛けて力一杯の【投擲】を敢行した。
 幼い頃に目にした日本人メジャーリーガーよろしく、大きく振りかぶって、まるで竜巻のように全身をひねり、その回転運動の遠心力をも加えての全力投球だ。

 ──ガヅッッ!

 鈍い……それでいて大きな音を立てて、精一杯の力で投げ込んだ鉄球が、大岩にめり込んだ。

 アレがモンスターじゃなかった場合、回収はまず不可能だなぁ……などと考えながら様子を窺っていたが、特に動くことは無いようだった。

 まさか……本当に、ただの岩?

 またゴーストが壁から出て来るが目線を向けぬまま乱雑に排除して、観察を続ける。

 ……やはり動かない。

 これはやはり、単なる岩なのか?
 こんな人工建築物のようなエリアに、あんな大岩なんて不自然極まりないのだが……。

 念のため最後にワールウインド……旋風の魔法を試して、それで反応が無ければモンスターよりはトラップの可能性が高いということになるだろう。
 ちなみに鉄球がめり込んだところからの出血が無いことから、ロックトロルの可能性は既に否定されている。

 旋風の魔法が怪しい大岩に到達……しかし、やはり何の反応も無い。
 傷付いた様子も、また無かった。
 これは試みに接近して調べてみるべきだろう。
 近付いて【危機察知】に何の反応も無ければ、さすがにこの疑いは捨てなければならないとも思う。

 ……約10メートル。反応無し。
 ……約5メートル。やはり反応無し。
 ……約3メートル。反応無し、か。

 ……約1メートル。それでも反応が無い。
 取り越し苦労か。
 まだ触った瞬間に発動するトラップの可能性は残されているが、わざわざ触る必要は無い。
 進行方向左手に小部屋らしきものを見つけたことだし、いったんそこを調べてみよう。

 そう思い、大岩の脇を注意深く通り抜けた……その時だった。
 今まで一切の反応を見せなかった大岩が突如として、転がり始めた。
 もちろんオレに向かって、だ。

 通過で発動するトラップ?

 それはさすがになぁ……。

 幸い大岩の転がるスピードは、そこまで速いものでも無い。
 アッサリと避けて様子を窺う。

 壁に衝突して止まった大岩は少し間が空いたものの、またオレの居る方向に転がり始めた。

 いや、これはさすがにおかしい。
 自動追尾するトラップなんて、さすがに無しだろう。

 こちらも出し惜しみはしない方が良かったのか。
 素早く鎗をしまい翠玉の魔杖を取り出しながら、猛然と転がってくる大岩を回避。
 また壁にぶつかって止まる大岩。
 その隙にウインドライトエッジ……光輪の魔法を放つ。

 大きく岩を切り裂いたが、それに構わず大岩はまたこちらに向かって転がり始めた。

 ……転がり続ける大岩の速度が先ほどより、目に見えて遅い。

 まさか……トラップじゃなくてモンスター?
 だとしたら、恐ろしく風魔法に強い。
 ワールウインドに無反応なのはまだ分かるが、それでも大したものだし、ウインドライトエッジを食らって無事に生きているモンスターは、階層ボスを除けば、これが初めてだった。
 特徴的にはロックイミテーターだが、サイズがデカ過ぎるし耐久力も聞いていた以上だ。
 ジャイアントロックイミテーターとでも言うべきだろうか?

 いずれにしてもトラップの類いではなくモンスターなら、慌てずともそのうち倒せる。
 また魔杖を収納し、短鎗を取り出す。
 そして、ゆっくり転がって来たジャイアントロックイミテーターを悠々と避け、ある魔法を鎗に掛ける。
 マナキャンセラー……つまり、解除の魔法。
 風属性に強いなら、エンチャントウェポン(風)が掛かったままの鎗で戦うのは悪手だ。

 ついでに塩の入った袋を取り出し、ゴーストの出現に備える。
 新調したポーションストッカーにはこうした物を引っ掛けておくための、出し入れ自在なフックが取り付けられているため、邪魔にはならない。

 その後は、ジャイアントロックイミテーターが転がってきたら回避……壁にぶつかって止まったら駆け寄って攻撃。
 色々と試しながら反応を見ていたが、刺突は有効……斬撃はイマイチ……殴打は極めて有効なようだった。

 しばらく続けると、ようやく白い光に包まれてドロップアイテムに変わっていく。

 あ、すっかり忘れていたが、ちゃんと鉄球は戻って来た。
 少し凹んでしまってはいるが……。
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