ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる

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第2章

第95話

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 日本の鎧なら草摺くさずりと呼ばれる部分に相当する物なのだが、メイン部分が太ももをスッポリ包む形状なので、やはり半ズボンだとかショートパンツが金属製になった物という表現が適切に思える。

 キュロットスカート……は、関係無いか。
 こちらは金属製だが、付属品が無ければ、見た目の形状だけは似ている気がしないでもないが……。
 キュロットと名前の似た、キュレットとかキュイッスとかは、何らかの関連が有るのかもしれない。

 まぁ、それはこの際どうでも良いが、靴を履いたままでもどうにか穿けそうだったので、早速グロインアーマーを着用。
 すると……セット装備だからなのか、大力のブレストプレートとピッタリ結合し一体化してしまった。
 しかも身体にピタッとフィットして、非装備時に見た時に感じた印象よりもスリムかつタイトなイメージに変わる始末だ。
 マジックアイテム…………サイズ可変……恐るべし。
 しかし、これでは使い回し出来なくて困るし、そもそもどうやって脱ぐのか悩んでいたら、結合が解除されると同時に足元までガシャリと音を立てて落ちてしまった。

 ……なるほどなぁ。

 マジックアイテムというのは、とことん理屈に合わない物だということなのだろう。
 この場合、オレの意思に反応して装備解除されたわけだ。
 ここを敵に急襲されても困るので、素早く引き上げ直すと、またブレストプレートと結合し一体化した後、オレの腰回りに合わせてジャストサイズ化する。
 余計な心配はするなってことなんだろうな。
 もう、これ以上これらの事象について考えるのはやめて、探索に集中することにしよう。

 第4層で、まずワールウインドを試したのは、ジャイアントシカーダ(セミ)という、今までもウインドライトエッジ(光輪の刃)で倒したことが有るモンスターだ。
 そういう意味では、先ほどデスサイズの取り巻きモンスターとして立ちはだかったジャイアントバタフライ(チョウ)も、今までは同じように光輪の魔法で倒す機会が多かった。
 今思うと、かなりオーバーキル気味だったんだろうなぁ。
 セミの音響爆撃も、チョウの鱗粉散布も迷惑この上無いので、ワールウインドで倒せるならそれが一番お手軽なのだが、やはり飛行能力の高い虫型モンスターは風属性に強いようで、見るからにヨロヨロになりながらも光に包まれて消えるまでには至らなかった。

 風属性の相性チェックが終わったら、ひたすら武器での戦闘がメインになる。
 せっかくなので、予備に作って貰った鎗も使って戦う。
 突くばかりでなく、柄で殴打する場合も、全てを魔鉄で作った鎗は以前のものよりも重い造りになっていたし、柄も良くしなるので非常に素晴らしい威力だ。
 大力の装備が2つになったのも有って、少し前のオレとは比べ物にならないパワーで、敵を蹂躙できるようになっていた。
【投擲】も試すが、こちらは鉄球の当たりどころ次第といったところで、確実性には欠けた。
 頭部に上手く当たれば一撃で倒せるが、胴体や羽根だと墜落してくれれば御の字。
 大半は、ダメージが有っても行動を続ける。
 もっと腕を磨きたいところだ。
 モンスターの体内に埋没した鉄球は、ドロップアイテムとともに床に落ちるので回収も容易なのだが、ひとたび貫通してしまうと探すのが手間だった。

 総じて新しい装備の使い心地は悪くなかったが、それでも武装オーク部隊の連携や出現頻度を上げたゾンビの悪臭。ジャイアントシカーダの騒音やジャイアントバタフライの執拗な鱗粉による目眩ましなどが厄介なのに変わりはない。
 それぞれ違うストロングポイントを持つモンスター達に悩まされながらも、魔法を温存しながら探索を進めていく。
 徐々にだがオレなりのコツを掴み始めたこともあり、鉄球の【投擲】による飛行モンスターの撃墜率も上がってきていた。

 第4層のボス部屋へ近付くと、徐々に出現し始めたのが、巨大な爬虫類型のモンスター達だ。

 ジャイアントリザード(トカゲ)や、ジャイアントタートル(カメ)、ジャイアントゲッコ(ヤモリ)、グラトンコンストリクター(大食ヘビ)……これらのモンスターのうち、ワールウインド1発での討伐が可能なのは、比較的この中では貧弱なジャイアントゲッコのみだった。

 相性うんぬんの前に、恐らく威力が不足しているようで、純粋な属性相性としては弱点でもないが、かといって効かなくもない……といったところだろうか。
 明らかにダメージは与えられている様子ではあるので、必要ならウインドライトエッジを使うのも良いだろうし、武器に風属性を付与して戦うのも有効な相手だとは思う。

 ダンジョン探索を進めるうち、同系統かつ上位のモンスターが出現する場合というのはかなり有り得る話で、そうした意味では傾向を参考にするのに充分なデータが集まった。
 さしあたっては、この後に戦う階層ボスの石距てながだこだが、今日はウインドライトエッジ(光輪の魔法)を使わずに戦ってみようと思う。
 代わりに使うのは、エンチャントウェポン(風)だ。
 特に斬撃が有効な相手なので、鎗の側面に取り付けられている月牙の威力を風属性で増して、スピード決着を狙う。
 時間的に、第5層の探索と間引きまでで引き返すことになりそうなのだが、可能な限り活動時間を残すためには、石距にばかり時間を割いてもいられないのだ。
 そのため、フィジカルエンチャント(風)も併用することにした。

 取り巻きモンスターとして現れたフライングジェリーフィッシュ(クラゲ)はワールウインドの1撃では沈まず、さらに鉄球の【投擲】もクラゲの持つ弾力性のためか、あまり効いていないようだったので、ここで初めてスローイングナイフを試す。
 スキルの恩恵というのは素晴らしいもので、投球とナイフ投げでは要領が全然違うハズなのに、見事に命中。
 今度はアッサリ、白い光に包まれて消えていく。

 あとは本来の鎗に持ち変えてからエンチャントウェポン(風)……続けてフィジカルエンチャント(風)を続けざまに使用。
 徹底的にスピードで翻弄し、モンスター達の連携を無効化していく。
 まずは遊撃役のハズがただ右往左往するばかりだった、グラトンコンストリクター達が早々に退場。
 続けて壁役を果たせぬままジャイアントタートルが全滅。
 石距は、スピードで敵わないと見るや腐食の瘴気を吐いて抵抗して来たが、ワールウインドの本来的な使い方として旋風を起こし瘴気を吹き飛ばしてやると、覚悟を決めたのか大木の様なタコ足をムチのように使い応戦する構えを見せた。
 こうなれば、もはやオレの勝利は約束されたようなもので、敵の攻撃は確実に回避しながら手早く足の数を減らしていき、最後は文字通り手も足も出なくなったオロチの頭を背後から滅多刺しにして勝負を決める。

 ウインドライトエッジ無しで戦った戦闘の中では、圧倒的に短い戦闘だった。

 こうして以前は苦戦していたモンスターに圧勝すると、いつも思うことがある。

 ダンジョンを造ったヤツは何がしたいのか……?

 つい最近までネクタイを締めてサラリーマンをやっていたオレなんかが、短期間でこんなにも強くなれてしまうのだ。
 ただ人類を滅ぼしたいだけなら、こんな恩恵を与えなければ良いだろう。
 
 ただ人類に恩恵を与えたいだけならば、ダンジョンの外にも中にも、凶悪なモンスターなんか出さなければ良いだろう。
 何ならダンジョン内部をスキルブックやマジックアイテムの入った宝箱だらけにしておけば良いだけの話なのだから。

 ……あるいは待っているのだろうか?

 地球上から1つ残らずダンジョンが破壊され尽くす時を。
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