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第2章

第94話

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 第3層でも引き続きワールウインドを用いて、モンスターと風魔法の相性を確かめる試みは継続していった。

 これも今日の午前中の探索可能時間が限られているからこそ、すぐに試そうという気になれたという部分は有って、そういう意味でも寝坊した甲斐(?)は有ったというものだ。

 基本的には階層を重ねるごとに耐久力を増していくモンスター達……もちろん、この階層のモンスターで言えばゼラチナス・キューブのように、ストロングポイント(奇襲が得意・麻痺毒)が別に有るため、生命力に関しては酷く脆弱なモンスターは例外なのだろうが……。

 相性の確認という意味では、そろそろ良いかなぁ……ということで、第2層と比べたら出現頻度と装備ランクの上がったゾンビや、この階層から出現し始めたスケルトンにも、ワールウインドを試してみる。
 どちらも一撃で討伐可能な様だった。
 うーん……低位のアンデッドモンスターは、魔法自体に弱いのだろうか?
 ワールウインドは旋風の魔法だが風属性の中では最弱の魔法という位置付けで、テレビゲームなどに登場するアンデッドモンスターは、火属性だとか、聖(または光)属性の魔法などにこそ弱いが、それ以外の属性魔法には別に弱いイメージが無いのだが、これも先入観が邪魔をした結果ということになりそうだ。
 もちろん他の属性魔法も一通り試してみて初めてハッキリしたことが分かるのであって、今の段階であまり決め付けるのは良くないのだろうけれど……どうも先ほどの魔法の効き目を見る限りでは、そんな気がしてならない。

 この階層から登場するジャイアントアント(アリ)には予想通りワールウインドが良く効く。ジャイアントマンティス(カマキリ)にはそこそこ効く。ジャイアントモスキート(蚊)には、明らかに効きが悪い。

 …………ん?
 もしかするとこれは常態として飛んでいる虫型モンスターと、普段は地上に居るがいざというときには飛べる……という虫型モンスターとでも、効きが違うのだろうか?
 チョウにしても、カブトムシにしても、セミにしても、普段は樹木や草花に留とまって居るじゃないか。
 ……そもそもの飛行能力の差だろうか?
 カマキリは飛ぶこと自体が苦手だというし、かなり有り得る話だ。
 体格や質量的に、よく飛べているなぁというモンスターは、風の魔法力を常に宿しているとかなのかな?
 それなら一応は話が分かる……気がする。

 これはオレの単なる感想だが、これら魔法とは自然現象を模したりはしてはいるが、実際の物理法則などはこれまでの傾向を見る限り、ほぼ無視していると考えた方が良いのかもしれないという印象を持つに至っている。
 ゾンビにしても、頭部に鎗を刺しただけでは倒せないぐらいのタフさを見せているクセに、旋風の魔法が全身に無数の切り傷を作ると、それだけで白い光に包まれてアッサリ消えてしまう。

 ……これは、理屈が合わない。

 こうした場合、見た目以上にモンスターの存在力とでも言うべきモノに、魔法が深刻なダメージを与えていると見た方が、恐らくは理解として正しいのだろう。
 それでいて、か弱そうなジャイアントフライ(ハエ)やジャイアントモスキートが、同じ魔法を食らっても存在し続けるのだから、相性が悪いとそうした理屈に合わないダメージが入らないというのも、ここまで試した過程で良く分かった気がする。

 昼から探索する妻達のことを考えると、あまりモンスターを間引きするわけにもいかず、それほど時間に余裕も無いので、基本的にはスピーディーに第3層の探索自体は終えた。

 デスサイズ戦こそ、いわゆるマジックポイントの消耗を抑えるために魔法を封印して戦ったので、最近の傾向からすると時間が掛かってしまったが、取り巻きモンスターとして現れたイビルバット(魔物化したコウモリ)と、ジャイアントバタフライ(チョウ)に関しては、きちんとワールウインドを試すことも出来た。
 コウモリとチョウの両者とも、風属性が弱点になっていないようなので、せっかくだからと柏木さんに作って貰った鉄球を【投擲】したが、こちらはコントロール、スピードともにそれなりに満足のいくもので、カシャンボほどでは無いが威力もそこそこ……きちんと飛行モンスター対策として有効なスキルであることが、この戦いで証明されたと思う。

 意気揚々と第4層へと足を踏み入れたオレだったが、ここで更なる幸運が訪れた。

 第4層、階層ボスの部屋に向かう最短経路を進み始めてすぐに、珍しく単体で現れたジャイアントアントが、宝箱を落としたのだ。
 こうしたダンジョンの通路などで普通に出現するモンスターを倒してドロップする宝箱は、今までの傾向から見ると良いものが入っていることが多い。
 今までも、ラックの指輪など特に有用なアクセサリータイプのマジックアイテムだったり、腕力向上剤などの貴重なドーピングアイテムだったりと、オレ達の戦力増強に役立つアイテムはそれなりの数こうしたモンスターが落とした宝箱の中から見つかっている。
 直接ドロップする場合より、期待値が高まる現象と言ったら分かりやすいだろうか?

 さて……今回は何が入っているのだろう?

【危機察知】も【罠解除】も、何ら反応を示さないことから、罠やモンスターが擬態している可能性は恐らく無いと思われる。
 ワクワクしながら箱の中身を確認すると、そこに入っていたのは、ちょっと意外な物だった。

 これを何と言うべきか、答えが分からない。
 ……金属製の短パン?
 いや、短パンと言うには付属品がやたら多く、しかも一体化している。
 これが西洋式の全身鎧の下腹部や、臀部(要は尻)の辺りから太ももや膝上辺りまでを守る防具なのは確かなのだが、こうした防具の名称が正直に言えばオレの知識の中には無かった。
 こういう形状の防具をダンジョン内で発見した人でも居れば、ニュースになったりネット上で話題になったりして、それがきっかけで一般にも名称が浸透していくハズなので、そうした意味でもレア物には違いない。
 ただ、この色……見覚えが有りすぎる。
 オレが今この時も身に付けている大力のブレストプレートと、全くと言って良いほど同じ色をしている。
 黒と青を混ぜ合わせたような暗く深い青色……確か鉄紺と言うのだと、服飾関係に何故か異常に強い母が言っていた色だ。

 もしやと思いながらも【鑑定】を試すと……
『大力のグロインアーマー』という名称らしい。

 装備効果は半ば予想していた通り大力のブレストプレートとほぼ同じ様な特性だった。
 装備することで上昇する腕力がブレストプレートの4割強に対して、グロインアーマーが3割と、両者を比較した場合に後者が控えめなのだけが違いだ。
 腕力に応じた防御性能の向上や、装備している場合の筋力の成長補正、それからサイズ可変能力などは、大力のブレストプレートと同等と言うのだから同時に装備しても良いし、妻と父のように一緒に探索することが多い場合は、片方ずつ装備しても良いだろう。

【鑑定】によれば、グロインアーマーとは、フォールド、タセット、キュレット、キュイッスがセットになっているもの……らしい。

 まぁ、そう言われてもオレにはどれがどれだかサッパリだったわけだが……。
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