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第2章

第88話

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 夕食を終え定例化している報告会の時間……オレ達の留守中、兄が何度かモンスターを討伐していたぐらいで、あとは平和なものだったらしい。

 もちろん、平和なのはウチの周りのような都市化されていない地域ばかりで、兄の口から語られた日本各地の代表的な都市部の様子は、非常に悲惨なものだった。

 すっかりゾンビなどのアンデッドモンスターの跳梁を許し、もはや完全に制圧されているような状態の都市が多くなってきているらしい。
 仙台市中心部も今や地獄のような有り様で、特にダンジョンから3キロ圏内は、既にどうしようもないという。
 魔石による技術革新の恩恵で予想より早く函館まで開通したリニア新幹線も、今や無用の長物と化しているようだ。
 線路や車両そのものは無事でも、駅に寄り付く人がそもそも居なくなりつつあるし運用する側の人々も、わざわざ死にに行くほどの使命感は持ち合わせていないだろうから、それも仕方ないことではある。

 こちらの探索の様子を話していた時だが、魔法威力についての推察には誰よりも兄が頻りに頷いていた。
 兄も自分が使う魔法と妻や父が扱う魔法とでは、僅かに威力が違うように感じていたらしい。
 ただ、最初にかなりの数のスクロール(魔)を割り振れていたオレと違い、兄の魔力はそこまで大きく妻達をリードしているわけでもないので、そこは単にダンジョン探索の経験の差だろう……ぐらいに思っていたらしいのだ。

 確かにそれも可能性として考えないでも無かったのだが、それだとオレの魔法は兄のそれに劣っていなければおかしい。
 しかし、デスサイズ戦後に妻や父に話を聞いた限りでは、オレの魔法と兄の魔法とではオレの魔法の方に軍配が上がりそうだったので、早々にその可能性は除外されていたのだった。

 そうなると誰もが真っ先に気になってしまうのが、今回の探索で得られたスクロール(魔)の数ということになるだろう。
 結論的には、今回は11個のスクロール(魔)が手に入っている。
 分配案は各自から色々と出たが、オレが早々に今回の権利を放棄したため結果的にはそこまで揉めず、兄が3つに父と妻が4つずつという結論に落ち着いた。

 以前なら、スクロール(魔)より重視されていただろう、蓋世の籠手や魔力式ドライヤーは特に誰の物ということにもならず、原則的に全員で使うものということになり、話し合っていた時間も合わせて2分ほど……。
 もはや、モンスター災害が落ち着いた後のことを考える余裕が誰にもないことが、改めて浮き彫りになった一幕だったかもしれない。
 まぁ……ドライヤーの入手に関しては、家事やおチビ達の世話をしていて特に話し合いに参加していない母や義姉も喜んでいたようなので、見つけられて良かったとは思う。

 それ以外だと、石距が落とした大蛇蛸の護符(打撃武器強化符)や、ヘルスコーピオンが遺した隼のピアス(動体視力強化アクセサリー)が、特に有用なアイテムだっただろうか。

 他にはデスサイズが幸運向上剤。ギガントビートルは腕力向上剤を、それぞれドロップしていた。

 アクセサリー系のアイテムが今回は不作で、隼のピアスの他に得られたのはラックの指輪と技巧のタリスマン(スキル熟練成長にプラス補正)が、それぞれ1つだけ。
 その反面ドーピングアイテムは豊作も豊作、なんなら大豊作といったところで、階層ボスの落とした2つ以外にも……腕力向上剤が3つ、幸運向上剤が4つ。
 持久力向上剤が6つに、敏捷向上剤が何と8つも入手出来ていた。

 腕力向上剤は全部で4つだったので、全員が1つずつ。
 持久力向上剤は父が3つ、他の3人は1つずつ。
 敏捷向上剤は2つずつ。

 そして今回の探索でハッキリした感のある幸運と、取得アイテムの関連性を考えて、幸運向上剤はオレと兄とで、2つずつ使用……宝箱を主に開ける2人の幸運を集中強化することで、更なるレアアイテム入手を狙っていくことになった。

 ポテンシャルオーブは、今回は4つの入手に留まったので、すんなり等分。
 お菓子系も数量的にかなりの数になったが、すでに分配傾向が固まっているので、スムーズに振り分けが終わる。

 話し合いが終わると兄は装備を手早く整え、さっさと車に乗り込むと温泉街のダンジョンに向かった。
 雪は昼過ぎには止んでいたらしく、既にすっかり溶けている。
 スタッドレスタイヤをまだ履いていたのは、ある意味さすが(急な雪でも仕事に穴を開けない心構え)なのだが、どうやら今夜はノーマルタイヤでも問題は無さそうだ。

 オレは巡回や情報収集の間に息子を風呂に入れたり、歯を磨いてあげたりしていたのだが、最後の寝かし付けは妻に託し、父とともに社務所(神社の事務所)に来ていた。

 畳の上に置かれた座布団、長机などを廊下に片付け、障子を開け放ちスペースを作ると、それなりの広さを確保出来た。
 オレと父が手にしているのは、訓練用の短杖。
 オレのは祖父が生前、よく使っていたものだ。

 父に杖術の稽古を頼んだ結果、今こうして対峙している。

 電灯のヒモが僅かに邪魔だし、スペースも充分とは言いにくいが、夜闇の中で向き合うよりは、いくらかマシというものだろう。

 父との稽古は、妻の薙刀のそれとは違い、終始スローモーで静かに行われた。

 時折、カツッと杖同士がぶつかる音がするぐらいだ。

 これは杖術の稽古の特性でもある。
 防具も特に着けずに硬い木の棒を互いに使うわけだから撃ち合うことよりも、先達の技を対面しながらトレースすることをこそ優先しているのだ。
 これが剣道や薙刀だと、お互いに撃ち合うことが中心になっていたかもしれない。
 そのあたりはスポーツ化されている部分が強くなってきている剣道や薙刀と、古式に則って伝えられてきた古武道との違いなのかもしれない。

 激しい動きは全くといって良いほどしていないのに、額から自然に汗が流れる。
 目で追い、瞬時に同じ動きで返す。

 返しが上手くいった時のみ父が杖の構えを変えて、オレの杖を受けてくれる。

 その時にだけ、カツっと音がする。

 最初は滅多に、合格点を貰えなかったようで、杖と杖とが撃ち鳴らされる音がすることは稀だった。

 それでも次第に……
 カツッ……カツッ……………カツッ……

 杖同士が奏でる音が増えていく。

 そして父が今夜、オレに教えてくれた全ての型に澄み渡った音が聞こえるようになった頃、外に割りと強そうなモンスターの気配がした。
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