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第2章
第72話
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初めて足を運んだ第5層は、何やら妙に湿っぽい空気に満ちていた。
そればかりか、どことなく磯の香りすら漂ってくる。
ところどころ水溜まりというか、潮溜まり(タイドプール)が出来ているせいもあるだろう。
第5層は磯のステージだとでも言いたげな意図が感じられる。
出現するモンスターも、ゴブリン、コボルト、オーク、ゾンビ、スケルトンなどに加えて……フライングジェリーフィッシュ、スピニングスターフィッシュ、サイレントローパー、ホッパーシーアーチン、レギオンシースレーター……簡単に和訳すると、空飛ぶクラゲ、旋回するヒトデ、静かなるイソギンチャク、跳び掛かってくるウニ、軍隊フナムシ……つまり、海洋生物系モンスターが多く出現するのだ。
改めて、ダンジョンとは常識の埒外にある空間なのだと思い知らされる。
このダンジョンのある位置は、どちらかと言えば、海寄りというよりは山寄り……というか、正確には低山や丘陵に囲まれた盆地と言うべき地形なのだが、そこに出現したダンジョンに海洋生物系のモンスターが出たりするのは、何とも言えない違和感がある。
ゾンビやスケルトンの身に付けている衣服や武具まで、これまでの農夫風な衣服やゲームの冒険者風な武具から、水夫風だったり海賊風の物に変わっていて、この階層に登場するモンスターは、変なところで芸が細かかった。
しばらくはこちらからあまり動かず、ウジャウジャと押し寄せてくるモンスター達に対処するようにしていたのだが、次第に向かってくるモンスターの数が少なくなってきたので、あまり奥には行き過ぎないように注意しながら進む。
海洋生物系、亜人系モンスター以外だと、ゼラチナス・キューブや、クリーピング・クラッド、ノーマルなスライムなど、何やらスライム系のモンスターも多く存在する階層で、元々スライムが植物性プランクトン由来のモンスターであるという説が信憑性を増すように思われる。
……こうなると魚系のモンスターが全く出現しないことが、不自然にも感じられるほどだ。
まぁ、理外の象徴たるダンジョンに、今さら整合性を求めても無駄なのは間違いないのだろうが……。
この階層には、待ち伏せや奇襲を得意とするモンスターの種類が多く、それでいてやたらと数が多かったのがフナムシ型のモンスター……レギオンシースレーターだ。
レギオン(軍隊)と言う名に相応しく、まず単体で現れることはない。
虫系特有の甲殻や、その機敏な動きも厄介だが、それより何より見た目がキツい。
どうしても違う虫を連想してしまううえ、海で出くわすと逃げ惑うイメージの強い普通のフナムシとは違い、10本以上は有る足でカサカサと高速移動して向かってくるのだ。
……しかも集団で。
これは、ちょっとした悪夢だろう。
フライングジェリーフィッシュは、魔法攻撃をしないで倒すとなると、長く細い無数の触手が非常に邪魔だ。
触ると麻痺させられたり毒を食らったりするという情報を得ている。
いかに耐性を強化する装備を身に付けているからといって、なるべくなら触れずに倒したいところだ。
初めは月牙で触手を斬り払おうとしたのだが、弾性が高いというか何というか……上手く切れずに鎗に巻き付かれてしまうばかりだったので、これを逆用し巻き付かれたのを良いことにクラゲの本体を引き寄せ、巻き付いた触手に構わず胴体部分に連続で刺突を加えることで、どうにか倒すことが出来た。
倒してしまえば邪魔な触手も消えるわけだし、直接肌が触れないようにさえ注意すれば、この要領で充分に対処可能だ。
スピニングスターフィッシュは地面や壁面に貼り付いていて、オレが接近していくと唐突に超高速でグルグルと回転しながら飛び掛かってくる。
当たれば痛いでは済まないだろうし、貼り付かれたら最後、凶悪なまでに鋭い牙で噛みついてもくるらしい。
一般的なヒトデでも、サンゴや牡蠣すら噛み破る力があるのだ。
モンスターサイズのヒトデに噛まれれば、生半可な鎧やその他の防具ではひとたまりも無いだろう。
とにかく回避と迎撃に専念し、まともに攻撃を喰らわないようにする必要があった。
サイレントローパーは自らの体色や気配を希薄化する能力を持っている、この階層で最も厄介なモンスターのうちの一種だ。
触手は強力な麻痺毒を持っているうえ、触手自体の動きも非常に速い。
知覚力や動体視力についても、ダンジョン探索を本格化させてからのオレは以前とは比較にならないぐらいに強化されているのだが、サイレントローパーのムチのように自在に動く触手は、正直どうにか目で追うのがやっとで、視認してから回避したのでは捕まる恐れすらある。
それなのに、頼みの【危機察知】が効きにくいのが最もコイツの厄介なポイントだ。
希薄化……つまり完全に消えてしまうわけではないというのが、せめてもの救いだろう。
他のモンスターと戦っている時にも、常にこのイソギンチャクの化け物が姿を隠していそうな場所に気を配る必要がある。
見つけてさえしまえば、本体の動きは鈍重だし、そう生命力の高いモンスターでも無いのだが……。
ホッパーシーアーチンは、スピニングスターフィッシュと行動も攻撃方法も似ている。
ただし、純粋な攻撃力はこちらが上回る。
何しろ全身に短剣が生えているようなものなのだ。
しかもトゲには毒持ち。
倒すと稀に『ホッパーシーアーチンの肉』を落としてくれるが、これはまんま雲丹だ。
ウニが好物な兄には良い土産が出来た。
鑑定してみないと毒の有無は分からないが、恐らくは大丈夫だろう。
他のダンジョン産の物だが、高級食材としてたまに出回っているのを、オレも上司にご馳走になったことがある。
独特な臭みは一切なく、非常にまろやかで濃厚な旨味が堪らなかった覚えがある。
人が乗れるバランスボールぐらいのサイズだが、ドロップするウニは板盛りされた一般的なものと同程度の量なのだから、何とも切ないものがある。
……まぁ、魔石や低位ポーションを落とすことの方が断然多いのだが。
さて……と、良い土産も出来たし、かなり良い時間だ。
奥には到達出来なかったが、ここらが潮時だろう。
◆
その後……無事にダンジョンを出たオレは、すっかり潮臭くなってしまった衣服に気付き、盛大に顔をしかめたのだった。
そればかりか、どことなく磯の香りすら漂ってくる。
ところどころ水溜まりというか、潮溜まり(タイドプール)が出来ているせいもあるだろう。
第5層は磯のステージだとでも言いたげな意図が感じられる。
出現するモンスターも、ゴブリン、コボルト、オーク、ゾンビ、スケルトンなどに加えて……フライングジェリーフィッシュ、スピニングスターフィッシュ、サイレントローパー、ホッパーシーアーチン、レギオンシースレーター……簡単に和訳すると、空飛ぶクラゲ、旋回するヒトデ、静かなるイソギンチャク、跳び掛かってくるウニ、軍隊フナムシ……つまり、海洋生物系モンスターが多く出現するのだ。
改めて、ダンジョンとは常識の埒外にある空間なのだと思い知らされる。
このダンジョンのある位置は、どちらかと言えば、海寄りというよりは山寄り……というか、正確には低山や丘陵に囲まれた盆地と言うべき地形なのだが、そこに出現したダンジョンに海洋生物系のモンスターが出たりするのは、何とも言えない違和感がある。
ゾンビやスケルトンの身に付けている衣服や武具まで、これまでの農夫風な衣服やゲームの冒険者風な武具から、水夫風だったり海賊風の物に変わっていて、この階層に登場するモンスターは、変なところで芸が細かかった。
しばらくはこちらからあまり動かず、ウジャウジャと押し寄せてくるモンスター達に対処するようにしていたのだが、次第に向かってくるモンスターの数が少なくなってきたので、あまり奥には行き過ぎないように注意しながら進む。
海洋生物系、亜人系モンスター以外だと、ゼラチナス・キューブや、クリーピング・クラッド、ノーマルなスライムなど、何やらスライム系のモンスターも多く存在する階層で、元々スライムが植物性プランクトン由来のモンスターであるという説が信憑性を増すように思われる。
……こうなると魚系のモンスターが全く出現しないことが、不自然にも感じられるほどだ。
まぁ、理外の象徴たるダンジョンに、今さら整合性を求めても無駄なのは間違いないのだろうが……。
この階層には、待ち伏せや奇襲を得意とするモンスターの種類が多く、それでいてやたらと数が多かったのがフナムシ型のモンスター……レギオンシースレーターだ。
レギオン(軍隊)と言う名に相応しく、まず単体で現れることはない。
虫系特有の甲殻や、その機敏な動きも厄介だが、それより何より見た目がキツい。
どうしても違う虫を連想してしまううえ、海で出くわすと逃げ惑うイメージの強い普通のフナムシとは違い、10本以上は有る足でカサカサと高速移動して向かってくるのだ。
……しかも集団で。
これは、ちょっとした悪夢だろう。
フライングジェリーフィッシュは、魔法攻撃をしないで倒すとなると、長く細い無数の触手が非常に邪魔だ。
触ると麻痺させられたり毒を食らったりするという情報を得ている。
いかに耐性を強化する装備を身に付けているからといって、なるべくなら触れずに倒したいところだ。
初めは月牙で触手を斬り払おうとしたのだが、弾性が高いというか何というか……上手く切れずに鎗に巻き付かれてしまうばかりだったので、これを逆用し巻き付かれたのを良いことにクラゲの本体を引き寄せ、巻き付いた触手に構わず胴体部分に連続で刺突を加えることで、どうにか倒すことが出来た。
倒してしまえば邪魔な触手も消えるわけだし、直接肌が触れないようにさえ注意すれば、この要領で充分に対処可能だ。
スピニングスターフィッシュは地面や壁面に貼り付いていて、オレが接近していくと唐突に超高速でグルグルと回転しながら飛び掛かってくる。
当たれば痛いでは済まないだろうし、貼り付かれたら最後、凶悪なまでに鋭い牙で噛みついてもくるらしい。
一般的なヒトデでも、サンゴや牡蠣すら噛み破る力があるのだ。
モンスターサイズのヒトデに噛まれれば、生半可な鎧やその他の防具ではひとたまりも無いだろう。
とにかく回避と迎撃に専念し、まともに攻撃を喰らわないようにする必要があった。
サイレントローパーは自らの体色や気配を希薄化する能力を持っている、この階層で最も厄介なモンスターのうちの一種だ。
触手は強力な麻痺毒を持っているうえ、触手自体の動きも非常に速い。
知覚力や動体視力についても、ダンジョン探索を本格化させてからのオレは以前とは比較にならないぐらいに強化されているのだが、サイレントローパーのムチのように自在に動く触手は、正直どうにか目で追うのがやっとで、視認してから回避したのでは捕まる恐れすらある。
それなのに、頼みの【危機察知】が効きにくいのが最もコイツの厄介なポイントだ。
希薄化……つまり完全に消えてしまうわけではないというのが、せめてもの救いだろう。
他のモンスターと戦っている時にも、常にこのイソギンチャクの化け物が姿を隠していそうな場所に気を配る必要がある。
見つけてさえしまえば、本体の動きは鈍重だし、そう生命力の高いモンスターでも無いのだが……。
ホッパーシーアーチンは、スピニングスターフィッシュと行動も攻撃方法も似ている。
ただし、純粋な攻撃力はこちらが上回る。
何しろ全身に短剣が生えているようなものなのだ。
しかもトゲには毒持ち。
倒すと稀に『ホッパーシーアーチンの肉』を落としてくれるが、これはまんま雲丹だ。
ウニが好物な兄には良い土産が出来た。
鑑定してみないと毒の有無は分からないが、恐らくは大丈夫だろう。
他のダンジョン産の物だが、高級食材としてたまに出回っているのを、オレも上司にご馳走になったことがある。
独特な臭みは一切なく、非常にまろやかで濃厚な旨味が堪らなかった覚えがある。
人が乗れるバランスボールぐらいのサイズだが、ドロップするウニは板盛りされた一般的なものと同程度の量なのだから、何とも切ないものがある。
……まぁ、魔石や低位ポーションを落とすことの方が断然多いのだが。
さて……と、良い土産も出来たし、かなり良い時間だ。
奥には到達出来なかったが、ここらが潮時だろう。
◆
その後……無事にダンジョンを出たオレは、すっかり潮臭くなってしまった衣服に気付き、盛大に顔をしかめたのだった。
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