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第2章

第60話

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 カラスがゾンビ化……全く考えなかったわけでもないが、出現していた全てのアンデッドが人型をしていた事から、いつの間にかまた『そういうモノ』だと勘違いさせられていた気がする。

 これは別にオレばかりの話ではなく、世間的にも似たような風潮は有った。
 テレビでも取り沙汰されていたのは、人間の遺体が今どこに多いのか、それにどう対策をすべきか……というような話ばかりだった。
 今となるとまるで何者かに、社会全体がミスリーディングされていたような気さえする

 報道のマズさばかりが原因ではないが、大々的に人の遺体などを素体としたアンデッドの情報を扱う一方で、動物の遺骸を素体とするアンデッドの可能性を懸念する有識者が、オレの見ていた限りでは、誰1人居なかったのも事実だった。
 まぁ、冷静になればなるほど、何で可能性を失念していたかが分からないというのも、嘘偽りのない感想ではあるのだが……。

「こうなると……カラスだけの話じゃないだろうな」

 ボソッと発せられた兄の声だが、誰からも否定されるようなことはなかった。
 皆、同感といった表情を浮かべているし、オレ自身も同じようなものだろう。

「問題は野生動物の死骸となると、どこにでもありふれているってことだろね」

 とりあえず、無難に返す。
 小さなネズミから、それこそクマまで日本全国それなりに生息しているだろう。

「……虫とかも全部かしらね?」

 虫の類いが心底ダメな義姉らしい発言だ。
 そして、その可能性は実際にあるだろうな。

 どう考えても、夕食時の話題としては相応しくないが、皆どうしても動物のゾンビに対しての懸念は、口を衝いて出てしまうようだ。
 唐揚げがゾンビとして動くことは無いだろうが、正直あまり美味くは感じない。
 良く分かっていないおチビ達は旨そうに頬張っているから、味付けが失敗したわけではなさそうなのだが……。
 テレビ画面には『アニマルゾンビの恐怖』などど、こうした状況で無ければ、笑い話にしかならないようなテロップが表示されている。
 ゾンビの話と肉料理の相性は最悪だ。
 この時ばかりは少し、おチビ達が羨ましくも思えた。

 ◆

 夕食後もテレビでの情報収集は継続しながらだが、最近少し疎そかになりつつあった報告会も、きちんとやらなければならないという話になった。

 ここのところオーガやらアンデッドやらで、バタバタし過ぎて、鑑定に出したことさえ、すっかり忘れていたのだが、本部鑑定に出したアイテムを兄達が持って帰ってきている。
 蒼空のレガース……その名が示す通り、曇り空のような(青と灰色の中間ぐらいの)色をしたスネ当てだ。
 装備効果としては、敏捷が4割強も上昇するうえ、防具としての防御力は敏捷が上昇するたびに比例して強靭になる……ん?
 なんだか大力のブレストプレートと特徴が似ている。
 さらに敏捷の能力成長にプラス補正という点も、有難いことに腕力と敏捷の違いこそあれ、似通っていた。
 オレ達は全員が全員、防御面は回避と受け流し主体で、まともに敵の攻撃を食らいたくないほど軽装備なので、これは重要な使い回し推奨アイテムになりそうだ。

 それ以外にも、嬉しいことに父が単独でのギガントビートル討伐に成功し、これまた幸いにも幸運向上剤を得ていたり……妻が【長柄武器の心得】を得た影響でオークやらコボルト相手に、いわゆる無双状態だったりしたようだ。
 そして、兄の遠間からの護衛を受けながらでは有るが、実際の戦闘に関しては父と妻の二人だけで行い、そうした条件下でヘルスコーピオンの討伐にも成功したという。
 さすがにデスサイズこそ兄が【短転移】を使って一気に片付けたようだが、勢いそのまま第4層にも突入。
 ジャイアントシカーダ(セミ)を筆頭に、初見のモンスターには手を焼きながらも、大いに暴れまわって来たようだ。

 つい最近ダンジョンに潜り始めたにしては、父も妻も非常に素晴らしい成長具合だと言えるだろう。

 ちなみにヘルスコーピオンからは、もう3つ目にもなる獄蠍尾の護符(刺突強化符)を。
 デスサイズからは、2つ目の死蟷螂の護符(斬擊強化符)を入手することに成功。
 獄蠍尾の護符は刀で突くこともあるだろうし、兄専用になった。
 これで父、オレそれぞれの得物にも固定して使えるようになるので、探索準備の手間が僅かながら減らせる。
 死蟷螂の護符もこれで、兄と妻とで使い回す必要がなくなった。
 幸運向上剤はギガントビートルを倒した父が服用する。
 他に、敏捷向上剤が2つに腕力向上剤が3つ。持久力向上剤が4つに、お菓子系も合計で7つ。
 これらの分配は、兄に一任。
 ……というのも、昨夜の探索で得たドーピングアイテムの分配も併せて行うことになったからだ。
 全く公平に……というのは難しかったが、昨夜のアイテムと合わせると、かなりの数になるので、不満は誰からも出なかった。

 オレへの割り当ては、生命力、精神力、技量、腕力、持久力、それぞれの向上剤が1つずつ。
 さらにバイタリティムース、デクスタリティマシュマロ、マインドチョコレート、ランダムフォースマカロン、クイックネスゼリーも1つずつ食べることになった。

 ちょっとデザートにしては多いし、ドーピング剤もこれだけの量を飲むと、正直しんどいものがある。
 今後は、ちゃんと小まめに分配することにしよう。

 ポテンシャルオーブは3つだったので、オレを除く全員に分配。
 問題はスクロール(魔)だが、兄が7つ、妻と父には3つずつ使用して貰うことにした。
 例の仮称マジックポイント(MP)理論を、とりあえずは誰も否定しなかったからだ。
 最初に話した時は、目を丸くされてしまったが……。

 その他の戦利品だが、ゼラチンは既にかなりの量になったので全て売却。
 それなりの額で売れたが、魔石やポーション類と比較すると、異変後に需要がそう伸びたわけでもないらしく、あくまでそれなりのままだ。

 他にもアジリティの指輪、耐痺のミサンガ、パワーチョーカー、技巧のタリスマン(技能習熟率向上)も入手し、最寄りのダンジョンの低層で入手可能なアクセサリーは、さらに充実してきている。

 こうして報告会、分配会議が無事に終わり、一息ついたオレは、装備を余さず身に付けダンジョンへと向かうことにした。
 装備品も充実し、コツコツとドーピングも積み重ねてきた。
 動物の死骸のゾンビ化という懸念こそあるが、兄さえ居れば留守に不安がないところに、父や妻の成長も著しい。
 あとはオレがもう少し強くなりさえすれば、兄にばかり掛かっている負担を減らしていけるだろう。

 気合いを入れるため軽く頬を張ったオレは、第4層の突破を今夜の最低限の目標に掲げることにし、玄関から夜のとばりがすっかり降りた道へと、力強く足を踏み出した。

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