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第1章

第51話

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 オーガの出現は、やはり問題視された。

 まだ早い。
 早すぎる。

 それこそが、兄とオレとの間で共通する率直な感想だった。
 そしてどうやらそれは、この辺りだけの問題では無いようで、今日はニュースなどでも、各地に出現するモンスターのランクが、徐々に上がっていっていることが、多く取り上げられていたようだ。
 やはりオーガの出現を偶然で片付けてしまうのは、危険な考えと言えるだろう。
 父、妻の戦力強化は本人達の頑張りのおかげもあって、非常に順調だと思う。
 オレにしても、オークに苦戦するようなことはもう無いと、自信を持って言える。
 それでもオーガが出現するとなれば話は別だ。
 今日の戦いも決して余裕綽々とは、言いづらいものがあったのだから。
 そして、話し合いの結果として、今日の夜の探索は兄が単独で行うことになった。

 依然として、ウチの最高戦力である兄に更に強くなって貰うのだ。
 兄の持つレア(世界を見回しても片手の指で足りるほどの稀少)スキルは【短転移】というもの。
 良く似た効果を持つ【縮地】が、直線的に使用者を、まるで転移したかの様な超速で移動させるのに対して、兄の持つ【短転移】は、正真正銘の転移術だ。
 使用者の視界の範囲内という縛りこそあるものの、敵前から瞬時に背後に回ることなど、お手のモノ。
『刀で斬れる相手なら、まず間違いなく勝てる』とは兄の弁。
 最大の欠点は使いすぎた場合に、貧血の様な症状を伴うこと。
 メリットに対してのデメリットとしては、非常に軽いものだと言い切れてしまう。
 もちろん本当に使いすぎると昏倒する場合も有るようだから、注意は必要にせよ、学生時代は日本最大規模の水道橋ダンジョンで、当時のトップ探索者達とタメを張るようにしながら最深攻略層を競っていたり、落ち着いた今でも、暇さえ有れば、近くの温泉街の中のダンジョンに通うのが日常だった兄は、そもそも素の状態でかなり強いのだ。

 それこそ実家を継ぐ、という理由が無ければ、プロ探索者になっていたこと請け合いで、実際に兄が大学を卒業するまでの間に、かなりの数のスカウト話が舞い込んで来ていたという。
 それら全て蹴って今ここに居るからこそ、今回のモンスター災害で、同年代で活躍していたプロ探索者達の多くが亡くなる中、無事に過ごしているとも言えるわけで……本当に人生というものは、何が幸いし、何が災いするのか分からないものだと思わせられる。

 そうしたわけで、兄が本気になって探索に赴くとなれば、条件的に最寄りのダンジョン以外にも、選択肢が生まれることになった。

 車で10分と掛からない様な近場には、くだんの温泉地のダンジョンも有れば、最寄りのダンジョン以上に(交通的な便の悪さから)不人気な僻地に位置するダンジョンもある。
 それ以外にだって、車で20分以内なら、それこそ多くの選択肢ダンジョンが有るのだ。

 他にも、例えばオレと兄とで共同して最寄りのダンジョンに向かい、協力して攻略していけば、今より早く、探索は進むだろう。
 それによって探索深度を上げていくことには、かなりのメリットがある。
 浅層では手に入らないアイテムも有るし、強いモンスターを倒せば、自分が強くなるのも早いからだ。

 しかし2人揃ってウチを留守にすることは、防衛面を考えた場合はデメリットが多い。
 とすれば、少し離れたところのダンジョンを兄が単独で攻略していく方が、結果的に得られる物が多くなるように思えるし、家族全体の強化も進むだろう。
 何故なら、兄とオレとが、同じダンジョンに通うことで、貴重な強化源となるモンスターの食い合いをするよりは、お互いが存分に別々のダンジョンで暴れまわった方が、2人とも早く強くなれるからだ。

 最寄りのダンジョンに、父と妻の分のモンスターを残すためにも、兄が遠征することに決まる。
 実際、道中の危険を考えると、それしか無いとも言えるが。
 とりあえずの行動指針の修正が完了し、次に戦利品の報告と分配なのだが、ここでもオレが得た【鑑定】のスキルブックが予想通り、話題の中心となった。
 まぁ……そうだよなぁ。

 やはり今後の先行きが不透明なため、売却は論外。
 金銭的には魔石やポーションの高騰もあって、取り敢えず不足することは考えにくいし、もし世間が落ち着いても【鑑定】スキル持ちは確実に優遇される。
 焦って売却する必要性は無いのだ。
 仮にオークションで高値が付いたとしても、今や支払いが履行される保証も無いのだし。

 使用者については、身内で最強の兄か、発見者のオレか……はたまたダンジョン探索に赴く予定の無い母か……しばらく話し合いは続いた。
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