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第1章

第42話

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 オレに睨まれたデスサイズは……首を傾げるような仕草で、その特徴的な逆三角形の頭部の角度を変えた。

 急に獲物の雰囲気が変わったことを訝しんでいるのだろうか?
 先ほどの急な退避行動も、今思うと不自然なものだ。
 何かしら本能的なものに衝き動かされた行動のようにも見えたが、先ほどから頻りに動かされているデスサイズの顔を観察している限りでは、そういった自分自身の行動の理由が分かっていないようにも見える。

 じわり……ヤツとの距離を詰めていく。

 それでも未だに動けないでいるカマキリ。

 さらに近付く…………と、唐突にヤツの死神の鎌が予備動作もなく繰り出された。
 取り巻きという枷が無くなったことで、これまでに倍するかのような超速の斬擊。
 しかし、それは折り込み済みだ。
 デスサイズの間合いに無造作に踏み込めば、多少混乱していようとも、鎌を伸ばさずにはいられまい。

【パリィ】

 パリィアミュレットによって仮に得ているスキルの力で、デスサイズの鎌のうち、刃の無い側面に鎗を当て受け流す。
 今までオレは、知らず知らずにビビってしまっていたのだろう。
 デスサイズから放たれる致命必至の一撃を、鎗で受け流すなんてことを考えたのは、今が初めてなのだから……。

 受け流した勢いそのままに、ヤツの身体に体当たりするような要領で、強引に間合いを詰める。
 懐に入ってしまえば、むしろこちらの間合いだ。
 しかし、敵もただではやらせてくれない。
 狡猾なカマキリの女王は、自分の間合いを失いかねないと見るや、すかさず受け流されたのとは逆の鎌を、今度は水平に薙ぎ払ってきた。
 その斬擊の軌道は、ちょうどオレの首の位置に猛烈な勢いを持って迫る。
 その狙いは正確無比……しかし、今は逆にそれが仇となった。
 ボクシングのダッキングのように、前に屈みこんで避け、そのまま低い姿勢を保って突進。
 デスサイズの無防備な腹に、鎗を突き刺す。
 所詮は硬い甲殻に護られているわけでもないカマキリだ。
 拍子抜けするほど抵抗なく穴を穿つことが出来た。
 デスサイズが距離を取ろうともがく間の僅かな隙に、技もへったくれもない滅多刺し。
 腹、胸、首、肩、腹、胸…………次々と風穴を空ける。

 不意に【危機察知】が警鐘を鳴らす。

 苦し紛れに噛み付こうとしたデスサイズの顔が、驚くほど近くにまで迫っていたのだ。

 回避ついでに、思いっきり鎗を棍棒のように振り下ろして殴打。
 ヤツの逆三角形の頭部を地面に叩きつけて、キスをさせてやった。
 結果的には戦果を拡大したが、今のは非常に危ないところだったと思う。
 しかし、惚けている暇は無い。
 起き上がろうともがくデスサイズの頭部を中心に、連擊で穴を増やす。

 たまらずはねを広げ、ガバッと一気に体勢を戻したヤツから、オレもいったんバックステップで距離を取る。

 …………ボロボロじゃないか。
 片腕は既にちぎれかけ、首にいたっては幾つも風穴が空いたせいか傾いている。
 胸や腹からはダラダラと体液を垂れ流し、地面を濡らしていく。
 無理やり身体を起こすのに使われた翅は、依然として大きく拡げられたまま。
 自然界のカマキリそのものの威嚇体勢。

 自分を精一杯に大きく見せようと……少しでも脅威に映ればと…………その態度はしかし、今のお互いの力関係を示しているようにしか見えない。

 じわり、ヤツとの距離を詰めていく。

 じわり、ヤツも僅かに後ずさりをして距離を保つ。
 オレが進むと、同じだけデスサイズは下がる。

 これ以上の長期戦は、オレにとっても不本意だ。
 ヤツがこれ以上、後ろに下がる隙を与えぬように、遠慮なく駆け寄っていく。

 たまらず繰り出される、健在な方の鎌の一撃。
 相も変わらず目を背けたくなるほど濃密な死の気配が迫る。
 しかし……

【パリィ】

 来ると分かっている一撃は、いとも容易に受け流すことが出来た。

 そして長大な体躯に似合わぬその細首に、死神の鎌を支える肩に、胸に、腹に、一気呵成に鎗を突き出す。

 そして……細い首が堪らず、カマキリ特有の重たい逆三角形の頭部を地面に投げ出したその時に、長かった戦闘は終わりの時を迎えた。

 ……光に包まれ消えていくデスサイズの頭部が、恨めしげにオレを睨んでいるように見える。
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