僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

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Mission:白の慟哭

第163話:深刻 ~寝た子を起こすと報われない~

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「章さん、春日さん見ました?」
 情報課のソファで眠りこけている春日の方に目をやる多賀は、随分深刻な表情をしていた。
 春日は結局、反対を押し切ってパーティーに行ったらしい。澤田に接触したという報告を受け、笑顔の中で複雑な気持ちになってしまったのも事実である。

「あれがどうした?」
 章は振り返って答える。以前から昼寝が好きだった春日だが、最近は毎日のようにソファで寝るようになった。自分の机で寝ないのは、机が汚すぎて突っ伏せないからである。

 情報課の中でも章と並んで雑な男の春日は、自分の顔とバランスを取るかのように、机上にせよ引き出しの中にせよ鞄の中にせよ汚い。汚くてもどこに何を置いているか把握している章と違い、彼の場合はよく何かをくしては机をひっかきまわし、更に机上を汚くしている。

 そんな春日であっても、毎日ソファに身をうずめるというのは、多賀が情報課に着任した一年強の中でもかなり珍しい光景である。心配性の多賀に気にするなという方が無理な話であった。

「春日さんの腕、真新しい注射痕があるんですよ……」
「んな馬鹿な……」
「じゃあ、実際に見てみます?」
 多賀がびしりとソファを指さす。章は黙って立ち上がった。

「……ああ、あるにはあるけど」
 深く眠っている春日の細い左腕はだらりと下がっていた。確かに肘の内側に、いくつかの赤い点のような痕がある。
「注射痕と決まったわけでもないし」
 しかし注射痕ではないとも言えない。微妙なところだ。

「……そういえば、春日さんって、覚醒剤の袋を引き出しに入れてたはずです」
 多賀はすたすた歩いて春日の机の引き出しを上から順に開けていく。章でも引くような汚い引き出しだが、そこに袋はなかった。鍵すらかかっていない引き出しの上から三段目、そこに袋はあるはずだった。

「他の引き出しにあるんじゃないか?」
 章が隣から囁くが、この汚い机の引き出しを全てひっくり返すほどの元気は多賀にも章にもない。そして、それを春日に気付かれないように元に戻す自信もない。
「開けます?」
「……いや、やめとこう」

 そもそも、机の引き出しから薬を探し回ったところで一体何になるというのか。まだ春日が覚醒剤を使ったのだと決まったわけでもない。
「さすがに、あの春日が薬を使ったとは思えないけどな」
 思いたくないというのが章の本音だ。章と多賀の二人は春日の前に戻る。ぶらんと下がった腕の内側には、針の赤い跡が何度見てもあった。

 二人が互いに顔を近づけてこそこそと怪しんでいると、眺めていた腕がむくりと起き上がった。目を覚ました春日はあくびを一つして、眠そうな声で多賀に尋ねる。
「……多賀? どうしたん?」
「あ、いや……ナンデモアリマセン」

「多賀がな、春日の腕に注射痕があるから、覚醒剤使ったんじゃないかって」
 手を振って誤魔化す多賀の横から章が割り込む。章は多賀を指さした。章に売られた多賀は、ばつが悪そうに頷く。

「注射痕って、これのこと?」
 春日は肘の内側を見せた。確かに右腕の内側に二つ、左腕にはもっと多くの痕がある。春日は祈るような顔で春日を見上げた。誤解させてごめんな。これはちゃうよ。そう言われるのを待っていた。

「注射やで」
 春日は細い指で傷跡をなぞる。
「注射って、なんの……」
「覚醒剤」
 あっけらかんとそう言われて、多賀は言葉が出なかった。
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