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Mission:白の慟哭
第155話:可否 ~多数決では決まらない~
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「……俺は反対っすね」
心配そうな表情で諏訪が足を組み替えた。
「覚醒剤パーティーにしか現れない相手なんすよね? 本人だけじゃなくて、その場にいる全員が危険人物じゃないっすか」
そして、全員が夢気分で踊っているパーティーというわけでもなく、澤田本人は素面だ。怪しい素振りは全て看破されると見て間違いない。
「俺も反対だな」
諏訪に乗ったのは裕だった。
「東の話を聞くに、澤田は自分のアイドルに薬を撒いてるわけだろ? 澤田に絶対服従の人間を周囲に固めているのは相当怖いぞ」
澤田の周りについているのは狂信者たちだ。澤田が捕まれば、自分たちへの薬の供給もなくなる。
「そうそう、三嶋の時も失敗したもんねぇ」
三嶋が嫌そうな顔をしたのを後目に、章は笑っていた。恐らくわざとだ。三嶋が静かに表情を変えているうちは、本気で怒ってなどいないと章は知っている。
ちなみに、饒舌に喋りだすか、表情が消えると三嶋は怖い。
三嶋の事件の時も、標的である富士の周囲は彼を信奉する人間で固められていた。三嶋はその中から協力者を選んだわけだが、三嶋は人選を間違えて絶体絶命の危機に陥った。いちいち際どいネタを会話にチョイスしていく章だが、根本では決して三嶋の地雷を踏まない。
「実際、難易度は高いと思うよ。たとえ僕より人たらしの春日でもね」
章は急に真顔になった。三嶋の時は、機転と運で乗り切ったと言っても過言ではない。その運が今度も回ってくるとは限らない。
「だから僕も反対。これで反対が三票だ。多数決をするわけじゃないけどね」
章は指を三本立てて、薄い唇に笑みを浮かべた。
自称動物園の情報課の空気が張り詰める。章の細い目と春日の艶めく瞳が、互いに睨み合っている。
「……ヤバそうなら引っ込めばええだけの話やないですか」
「本当に引っ込めるのか? 失敗した時のことをロクに考えずに行動する人間と、僕は仕事なんてしたくないなぁ」
何も考えずに行動してばかりいる章が言うと、説得力はまるでない。しかし章が真顔なので、裕ですら突っ込めずにいた。
「澤田が最大限に警戒している今、潜り込めるチャンスは一度しかないんで……。そこで多少のリスクを取るのは当然ちゃいます?」
「リスクを取るのは好きにしたらいい。僕だって、やる時もある。けど、お前はちょっとリスクを甘く考えすぎだ。リスクを減らすための努力を最大限したようには思えない」
ブーメラン刺さってますよ、と多賀は言いたかった。
「…………」
春日は黙る。しかしそれは明らかに章の意見を受け入れるべきか迷っている素振りではない。ただ反論する言葉が見つからないだけだ。
「でも、俺はやりますよ」
結局、章にここまで言われても、春日は首を横には振らなかった。
情報課には頑固な人間しかいない。三嶋は知っている。柔軟な人間が揃っていたら、自分は苦労していない。そして、三嶋自身もまた、他人の意見に折れる人間でもない。
「俺は澤田の懐を狙います。それが俺に求められていることやないですか」
情報課は小さな部署だ。この規模で成果を出そうと思えば、メンバーの頑固さを最大限に利用するしかない。
「……頑張ってくださいね」
三嶋は絞り出すように春日を労う。
本当は、春日に反対する四人目として手を挙げたかったのに。
心配そうな表情で諏訪が足を組み替えた。
「覚醒剤パーティーにしか現れない相手なんすよね? 本人だけじゃなくて、その場にいる全員が危険人物じゃないっすか」
そして、全員が夢気分で踊っているパーティーというわけでもなく、澤田本人は素面だ。怪しい素振りは全て看破されると見て間違いない。
「俺も反対だな」
諏訪に乗ったのは裕だった。
「東の話を聞くに、澤田は自分のアイドルに薬を撒いてるわけだろ? 澤田に絶対服従の人間を周囲に固めているのは相当怖いぞ」
澤田の周りについているのは狂信者たちだ。澤田が捕まれば、自分たちへの薬の供給もなくなる。
「そうそう、三嶋の時も失敗したもんねぇ」
三嶋が嫌そうな顔をしたのを後目に、章は笑っていた。恐らくわざとだ。三嶋が静かに表情を変えているうちは、本気で怒ってなどいないと章は知っている。
ちなみに、饒舌に喋りだすか、表情が消えると三嶋は怖い。
三嶋の事件の時も、標的である富士の周囲は彼を信奉する人間で固められていた。三嶋はその中から協力者を選んだわけだが、三嶋は人選を間違えて絶体絶命の危機に陥った。いちいち際どいネタを会話にチョイスしていく章だが、根本では決して三嶋の地雷を踏まない。
「実際、難易度は高いと思うよ。たとえ僕より人たらしの春日でもね」
章は急に真顔になった。三嶋の時は、機転と運で乗り切ったと言っても過言ではない。その運が今度も回ってくるとは限らない。
「だから僕も反対。これで反対が三票だ。多数決をするわけじゃないけどね」
章は指を三本立てて、薄い唇に笑みを浮かべた。
自称動物園の情報課の空気が張り詰める。章の細い目と春日の艶めく瞳が、互いに睨み合っている。
「……ヤバそうなら引っ込めばええだけの話やないですか」
「本当に引っ込めるのか? 失敗した時のことをロクに考えずに行動する人間と、僕は仕事なんてしたくないなぁ」
何も考えずに行動してばかりいる章が言うと、説得力はまるでない。しかし章が真顔なので、裕ですら突っ込めずにいた。
「澤田が最大限に警戒している今、潜り込めるチャンスは一度しかないんで……。そこで多少のリスクを取るのは当然ちゃいます?」
「リスクを取るのは好きにしたらいい。僕だって、やる時もある。けど、お前はちょっとリスクを甘く考えすぎだ。リスクを減らすための努力を最大限したようには思えない」
ブーメラン刺さってますよ、と多賀は言いたかった。
「…………」
春日は黙る。しかしそれは明らかに章の意見を受け入れるべきか迷っている素振りではない。ただ反論する言葉が見つからないだけだ。
「でも、俺はやりますよ」
結局、章にここまで言われても、春日は首を横には振らなかった。
情報課には頑固な人間しかいない。三嶋は知っている。柔軟な人間が揃っていたら、自分は苦労していない。そして、三嶋自身もまた、他人の意見に折れる人間でもない。
「俺は澤田の懐を狙います。それが俺に求められていることやないですか」
情報課は小さな部署だ。この規模で成果を出そうと思えば、メンバーの頑固さを最大限に利用するしかない。
「……頑張ってくださいね」
三嶋は絞り出すように春日を労う。
本当は、春日に反対する四人目として手を挙げたかったのに。
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