137 / 185
Mission:消えるカジノ
第137話:耐忍 ~まだ切り札は持ってない~
しおりを挟む
「諏訪、怒ってる?」
諏訪に優しく声をかけてきたのは裕だった。諏訪は慌てて否定しようとしたが言葉が出ず、ゆっくり首を振って答えるしかなかった。
「ああいう言い方してごめん。冷静に伝えた方が良かったかもな」
「いえ……、事実なんで……」
健気にそう言うが、諏訪は未だ本調子ではなさそうだった。
「章だったら、ここで『じゃあ一発パチンコでも行く?』とか言いそうだけど」
「さすがにギャンブルはもう嫌っす」
「だよね」
裕は苦笑した。
「しばらく休むか? 諏訪にしかできないことが多いから諏訪に任せているけど、一人だとしんどいだろうし、諏訪が潰れたらどうしようもない」
「いや、まだ頑張れるっすよ」
「え、頑張らなくてもいいよ」
裕は虚をつかれたかのような間抜けな顔をして首を振り、諏訪の肩をトントンと叩いた。
「人から言われもしないのに頑張るのは辛いだろ」
「でもそれじゃ事件は解決しません」
「諏訪が頑張りたいなら俺は止めないけどさ」
諏訪が追い詰められているように見えて心配だったものの、本人が手を振り払ってくるのなら仕方がない。
「……この事件、俺の自由にさせてもらえるんですよね?」
「そりゃもちろん。捜査費用だって、まだ割と残ってたはずだし、好きに使いなよ」
「一旦、水無瀬怜次郎は捨てます。カジノを潰す、それだけで行こうと思います」
「え、そう来るの? あのカジノって復活するんじゃなかった?」
このカジノは雑草のように生命力が強い。その雑草を根元から刈り取る、つまりオーナーを逮捕することが最も重要なのは明らかだと皆が思っていた。
「構いません。いずれにせよ、水無瀬だけがいても、ほかのスタッフがいなければ復活には時間がかかるはずです。とりあえず時間を稼いで、その後に南雲・水無瀬共に身柄を押さえたいと思います」
「それだと、長期戦になるかもしれない。いいの?」
「覚悟の上っす。それに、今まで全く姿を見せなかった水無瀬怜次郎も、さすがにカジノのピンチとあらば動かないわけにはいかないっすから、それを狙いに行きたいんすよ」
「具体的な策はある?」
「あります」
諏訪は力強く頷いた。
「県警を動かさせてもらえるなら、っすけど」
「俺は県警の人間じゃないから許可を出せるわけじゃないけど、県警を動かせる段階まで来たんだから、きっと千羽さんは喜ぶよ」
裕が目頭に力の入ったウィンクをよこし、ぐっと親指を立てた。
「で、県警の人間を何に使うんだ?」
普段、好き放題に三嶋の部下をこき使う章がにやにやしながら尋ねる。
「カジノの人間を、貸金業法違反容疑で一斉逮捕します」
「……貸金業法違反か」
恐らく、飯田がバカラの部屋で金を借りた件から追うのだろう。
「でも、どうして今なんだ」
これは諏訪の持つカードの中でもかなり強い。これを今切る意味が裕にはわからなかった。
「賭博開帳等利図罪で捕まえても、微罪処分を取られてすぐに釈放されてしまう恐れがあります。脱税なら、まず間違いなく勾留に持っていけるっすよね。俺の目的は、スタッフを処罰することではなく、身柄を拘束することなので」
そして、いったん勾留に持って行ってしまえば、あとは理由をつければいくらでも拘束期間を延長できる。勾留できるかが勝負だ。
「でも、向こうには南雲がいるんだろ。一斉に逮捕する前に逃げられたら、面倒なことになる」
「それも考えてあります。南雲の身柄を押さえればいいんすよ」
「身柄を押さえるったって、南雲は不知火貴金属商会には関与していません。貸金業法関係で身柄を押さえるには無理が……」
「いや、逮捕するわけじゃない」
多賀の反論に、諏訪がゆっくりと首を振って否定した。
「南雲の表の顔は通訳っす。いくら本業が情報屋で通訳業は趣味程度といっても、通訳としての仕事を全くしなければ、裏の人間だと暴露しているようなものです。重い通訳の仕事を投げて、簡単に動けない状況にすればいい」
「南雲は情報課の存在を知ってるんだろ? 僕や裕が出て行っても、南雲に必ず気付かれる。仕事を持って行っても断られるだけだろ」
「大丈夫っすよ。うってつけの人材がいるんで」
諏訪は眼鏡の下で目を細めて微笑んだ。
諏訪に優しく声をかけてきたのは裕だった。諏訪は慌てて否定しようとしたが言葉が出ず、ゆっくり首を振って答えるしかなかった。
「ああいう言い方してごめん。冷静に伝えた方が良かったかもな」
「いえ……、事実なんで……」
健気にそう言うが、諏訪は未だ本調子ではなさそうだった。
「章だったら、ここで『じゃあ一発パチンコでも行く?』とか言いそうだけど」
「さすがにギャンブルはもう嫌っす」
「だよね」
裕は苦笑した。
「しばらく休むか? 諏訪にしかできないことが多いから諏訪に任せているけど、一人だとしんどいだろうし、諏訪が潰れたらどうしようもない」
「いや、まだ頑張れるっすよ」
「え、頑張らなくてもいいよ」
裕は虚をつかれたかのような間抜けな顔をして首を振り、諏訪の肩をトントンと叩いた。
「人から言われもしないのに頑張るのは辛いだろ」
「でもそれじゃ事件は解決しません」
「諏訪が頑張りたいなら俺は止めないけどさ」
諏訪が追い詰められているように見えて心配だったものの、本人が手を振り払ってくるのなら仕方がない。
「……この事件、俺の自由にさせてもらえるんですよね?」
「そりゃもちろん。捜査費用だって、まだ割と残ってたはずだし、好きに使いなよ」
「一旦、水無瀬怜次郎は捨てます。カジノを潰す、それだけで行こうと思います」
「え、そう来るの? あのカジノって復活するんじゃなかった?」
このカジノは雑草のように生命力が強い。その雑草を根元から刈り取る、つまりオーナーを逮捕することが最も重要なのは明らかだと皆が思っていた。
「構いません。いずれにせよ、水無瀬だけがいても、ほかのスタッフがいなければ復活には時間がかかるはずです。とりあえず時間を稼いで、その後に南雲・水無瀬共に身柄を押さえたいと思います」
「それだと、長期戦になるかもしれない。いいの?」
「覚悟の上っす。それに、今まで全く姿を見せなかった水無瀬怜次郎も、さすがにカジノのピンチとあらば動かないわけにはいかないっすから、それを狙いに行きたいんすよ」
「具体的な策はある?」
「あります」
諏訪は力強く頷いた。
「県警を動かさせてもらえるなら、っすけど」
「俺は県警の人間じゃないから許可を出せるわけじゃないけど、県警を動かせる段階まで来たんだから、きっと千羽さんは喜ぶよ」
裕が目頭に力の入ったウィンクをよこし、ぐっと親指を立てた。
「で、県警の人間を何に使うんだ?」
普段、好き放題に三嶋の部下をこき使う章がにやにやしながら尋ねる。
「カジノの人間を、貸金業法違反容疑で一斉逮捕します」
「……貸金業法違反か」
恐らく、飯田がバカラの部屋で金を借りた件から追うのだろう。
「でも、どうして今なんだ」
これは諏訪の持つカードの中でもかなり強い。これを今切る意味が裕にはわからなかった。
「賭博開帳等利図罪で捕まえても、微罪処分を取られてすぐに釈放されてしまう恐れがあります。脱税なら、まず間違いなく勾留に持っていけるっすよね。俺の目的は、スタッフを処罰することではなく、身柄を拘束することなので」
そして、いったん勾留に持って行ってしまえば、あとは理由をつければいくらでも拘束期間を延長できる。勾留できるかが勝負だ。
「でも、向こうには南雲がいるんだろ。一斉に逮捕する前に逃げられたら、面倒なことになる」
「それも考えてあります。南雲の身柄を押さえればいいんすよ」
「身柄を押さえるったって、南雲は不知火貴金属商会には関与していません。貸金業法関係で身柄を押さえるには無理が……」
「いや、逮捕するわけじゃない」
多賀の反論に、諏訪がゆっくりと首を振って否定した。
「南雲の表の顔は通訳っす。いくら本業が情報屋で通訳業は趣味程度といっても、通訳としての仕事を全くしなければ、裏の人間だと暴露しているようなものです。重い通訳の仕事を投げて、簡単に動けない状況にすればいい」
「南雲は情報課の存在を知ってるんだろ? 僕や裕が出て行っても、南雲に必ず気付かれる。仕事を持って行っても断られるだけだろ」
「大丈夫っすよ。うってつけの人材がいるんで」
諏訪は眼鏡の下で目を細めて微笑んだ。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる