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Mission:消えるカジノ
第127話:成就 ~叶ったところで嬉しくない~
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数日が経ったが、諏訪からは何の連絡もない。あの日からずっと本社で仕事だった伊勢兄弟は、諏訪の結果報告をやきもきしながら待っていた。良い報告が聞けるとは思っていない。諏訪はあくまでチャンスを拾いに行っただけだ。勝てる試合ではない。
「章さぁん」
章が情報課に顔を見せると、すでに登庁していた諏訪が擦り寄るようにやってきた。こちらは気を揉みながらやってきたんだぞ、普段通りに過ごしてくれ気色悪い、という言葉を飲み込み、笑顔で尋ねる。
「やっぱり、カジノは無理だった?」
「いや、それが、入れたんっすよ。カジノに」
「……は?」
間抜けな声が出る。それを聞いて、諏訪の報告が始まったことを察した春日と多賀が寄ってきた。
「入れたんっすよ。カジノ」
章が聞き取れなかったと思ったのか、諏訪は言葉を繰り返す。だが、そのおかげでおかしいのは章の耳ではなく諏訪の喋った内容だとはっきりした。
「やっぱ、諦めずに試してみるもんですね」
「……願いがかなったのは良かったけどさ」
章は不満げである。全く話の筋が見えないからだ。
「一体何があったんだ」
「章さんに言われたんで、とりあえず冬野さんに電話したんですよ。そしたら、冬野さんは新しい賭場を紹介された、って言うんです。俺が紹介されてないと答えたら、冬野さんがカジノ側のミスだと思ったみたいで、新しいカジノの連絡先を教えてくれたんです。で、カジノに電話したら、向こうはミスだと認めてあっさり俺を入れてくれたんっすよね」
「カジノに?」
「カジノに」
諏訪は大きく頷いた。
「…………」
そんな都合のいい話があるか、と章は思う。何か裏があるはずだ。
「賭場を変えたのは、俺の捜査に気づいたからですよね。警察関係者として最も疑わしいのは俺です。なのに、入れちゃいました」
「それこそカジノのミスなんじゃないの?」
あまりにも不自然すぎる。誰もが首を傾げていた。
「俺から電話が来るはずがないのに、急に電話が来てびっくりして入れちゃった、とかっすかね」
「まさか。お前はカジノの脅威やぞ。問い合わせ程度の圧力に負けるはずあらへん」
春日がボールペンを諏訪の顔の前に突きつける。
「諏訪をカジノから追い出すことを伝達されていない、とか」
「いや、最も従業員の中で共有すべきことやろ」
要するに諏訪は出入り禁止となった客だ。出禁の客の情報が共有されていないはずはない、と学生時代にファミレスでアルバイトをしていた春日は思う。
「でもそうなると、カジノが消えたのは別の理由で、諏訪さんが新しいカジノから排除されたのは偶然ってことになってしまいますよ」
多賀のこの言葉は正しい。今、カジノヨコハマを追っているのは、日本で情報課ただ一つだ。他の組織が誰も追っていないのに消えるわけがない。
「考えても埒があかないな。とりあえず、またカジノに入れるようになったことを喜ぼうじゃないか」
「そうっすね。今度またカジノに行って、俺が偶然排除されたのかどうか、調べてきます」
調べるってどうするんだろう、直接スタッフに尋ねるんだろうか。裕はそう思ったが口には出さなかった。野暮な質問だと分かっていたからである。
「章さぁん」
章が情報課に顔を見せると、すでに登庁していた諏訪が擦り寄るようにやってきた。こちらは気を揉みながらやってきたんだぞ、普段通りに過ごしてくれ気色悪い、という言葉を飲み込み、笑顔で尋ねる。
「やっぱり、カジノは無理だった?」
「いや、それが、入れたんっすよ。カジノに」
「……は?」
間抜けな声が出る。それを聞いて、諏訪の報告が始まったことを察した春日と多賀が寄ってきた。
「入れたんっすよ。カジノ」
章が聞き取れなかったと思ったのか、諏訪は言葉を繰り返す。だが、そのおかげでおかしいのは章の耳ではなく諏訪の喋った内容だとはっきりした。
「やっぱ、諦めずに試してみるもんですね」
「……願いがかなったのは良かったけどさ」
章は不満げである。全く話の筋が見えないからだ。
「一体何があったんだ」
「章さんに言われたんで、とりあえず冬野さんに電話したんですよ。そしたら、冬野さんは新しい賭場を紹介された、って言うんです。俺が紹介されてないと答えたら、冬野さんがカジノ側のミスだと思ったみたいで、新しいカジノの連絡先を教えてくれたんです。で、カジノに電話したら、向こうはミスだと認めてあっさり俺を入れてくれたんっすよね」
「カジノに?」
「カジノに」
諏訪は大きく頷いた。
「…………」
そんな都合のいい話があるか、と章は思う。何か裏があるはずだ。
「賭場を変えたのは、俺の捜査に気づいたからですよね。警察関係者として最も疑わしいのは俺です。なのに、入れちゃいました」
「それこそカジノのミスなんじゃないの?」
あまりにも不自然すぎる。誰もが首を傾げていた。
「俺から電話が来るはずがないのに、急に電話が来てびっくりして入れちゃった、とかっすかね」
「まさか。お前はカジノの脅威やぞ。問い合わせ程度の圧力に負けるはずあらへん」
春日がボールペンを諏訪の顔の前に突きつける。
「諏訪をカジノから追い出すことを伝達されていない、とか」
「いや、最も従業員の中で共有すべきことやろ」
要するに諏訪は出入り禁止となった客だ。出禁の客の情報が共有されていないはずはない、と学生時代にファミレスでアルバイトをしていた春日は思う。
「でもそうなると、カジノが消えたのは別の理由で、諏訪さんが新しいカジノから排除されたのは偶然ってことになってしまいますよ」
多賀のこの言葉は正しい。今、カジノヨコハマを追っているのは、日本で情報課ただ一つだ。他の組織が誰も追っていないのに消えるわけがない。
「考えても埒があかないな。とりあえず、またカジノに入れるようになったことを喜ぼうじゃないか」
「そうっすね。今度またカジノに行って、俺が偶然排除されたのかどうか、調べてきます」
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