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Mission:消えるカジノ
第126話:排除 ~締め出されたので入れない~
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「情報課の存在を知れる人間は、一部の警察官とごく一部の官僚だけだ。その人間にリーチして情報を集められるような人間を、世の中では情報屋さんというんだよ」
「カジノヨコハマでは、情報屋を雇っていたということっすか?」
「ああ、その情報屋がカジノの職員か、あるいは南雲みたいに外注かどうかはわからないけど。今まで、警察からの捜査が入ったらすぐに雲隠れできたのも、その情報屋だか探偵だかがいるおかげだろうな」
警察の捜査が及ぶ前に消えるカジノ、本当はそう聞いただけで先方の情報収集能力の高さに気づくべきだった。だがもう遅い。カジノは消え、諏訪は排除された。
「……情報屋って、本当にいるんですね」
「いるよ。僕も、本物を前にするのは初めてだけど」
章はさらりと答える、電話の向こうの諏訪にはそう思えたが、章は震えていた。
「僕らの敵に、情報屋が増えるとはな」
「しかし、情報課の存在が向こうにバレた上にカジノから締め出されたのは痛いな」
裕は眼鏡をとって目頭を押さえた。
「そんなことないさ。諏訪、あまり気にするな。水無瀬怜次郎がオーナーだということが分かっただけでも十分じゃないか。ここからは、カジノの外部から調査して回ればいい」
章がそこまで言ったところで声が鋭く割り込んだ。
「嫌っす」
諏訪だ。
「俺は負けたまま引き下がれません」
「……引き下がる下がらないの問題じゃないだろ。カジノには入れないっていうのに」
「もう一度、カジノに入れないか試してみます」
諏訪は諦めていない。強い意志が口調から滲んでいる。
「おい諏訪、なんでそんなにカジノに入ることにこだわる?」
「カジノヨコハマの全貌はまだ掴めていません。スタッフの本名、水無瀬怜次郎の行方、最低でもそれがわからなければ潰せないカジノっすよ。カジノの外から調べるのには限界があるんじゃないっすか?」
諏訪の熱い語りを章は静かに聞いている。
「それに、このまま頑張って通えば、カジノのことが好きになるかもしれません」
好きになられては困るのだが。
「諏訪、やめときなよ」
「裕、いいだろ。これは諏訪の事件なんだから。諏訪、無理やりカジノに入るのに、諸々のリスクがあるのを承知の上でそう言ってるんだよな?」
口を開いた章は諏訪の側についた。裕も章に諭されて諏訪を止めるのをやめる。
「勿論っす」
全員が味方になったところで、諏訪は深く頷いた。
「じゃあ、どうやってカジノにもう一度はいるか考えよう。カジノの従業員と連絡は取れる?」
「個人的な連絡先なんて、元から教えてもらえません」
「仲良くなった客は?」
「……います」
冬村だ。いつも小額でちびちび遊んでいるわびしい姿が浮かぶ。
「その客は前から通ってるのか、最近通い始めたのかどちらだ」
「本人は新参だと言ってましたけど」
「そいつと連絡を取ろう。例えば、捜査に気づいたとしても、最近入った客を疑っているだけなら、全員を新しい賭場に通すか追い出すはずだ。その客も追い出されているなら、まだ情報課の存在がバレたとは言いにくい。とりあえず電話だな」
「わかりました」
元気のよい返事の直後、電話は切れた。
諏訪は頑張っている。まだ糸が切れたとも言い切れない。だが状況はかなり悪い。ベッドに入った後も章はなかなか寝付けなかった。
「カジノヨコハマでは、情報屋を雇っていたということっすか?」
「ああ、その情報屋がカジノの職員か、あるいは南雲みたいに外注かどうかはわからないけど。今まで、警察からの捜査が入ったらすぐに雲隠れできたのも、その情報屋だか探偵だかがいるおかげだろうな」
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「……情報屋って、本当にいるんですね」
「いるよ。僕も、本物を前にするのは初めてだけど」
章はさらりと答える、電話の向こうの諏訪にはそう思えたが、章は震えていた。
「僕らの敵に、情報屋が増えるとはな」
「しかし、情報課の存在が向こうにバレた上にカジノから締め出されたのは痛いな」
裕は眼鏡をとって目頭を押さえた。
「そんなことないさ。諏訪、あまり気にするな。水無瀬怜次郎がオーナーだということが分かっただけでも十分じゃないか。ここからは、カジノの外部から調査して回ればいい」
章がそこまで言ったところで声が鋭く割り込んだ。
「嫌っす」
諏訪だ。
「俺は負けたまま引き下がれません」
「……引き下がる下がらないの問題じゃないだろ。カジノには入れないっていうのに」
「もう一度、カジノに入れないか試してみます」
諏訪は諦めていない。強い意志が口調から滲んでいる。
「おい諏訪、なんでそんなにカジノに入ることにこだわる?」
「カジノヨコハマの全貌はまだ掴めていません。スタッフの本名、水無瀬怜次郎の行方、最低でもそれがわからなければ潰せないカジノっすよ。カジノの外から調べるのには限界があるんじゃないっすか?」
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「それに、このまま頑張って通えば、カジノのことが好きになるかもしれません」
好きになられては困るのだが。
「諏訪、やめときなよ」
「裕、いいだろ。これは諏訪の事件なんだから。諏訪、無理やりカジノに入るのに、諸々のリスクがあるのを承知の上でそう言ってるんだよな?」
口を開いた章は諏訪の側についた。裕も章に諭されて諏訪を止めるのをやめる。
「勿論っす」
全員が味方になったところで、諏訪は深く頷いた。
「じゃあ、どうやってカジノにもう一度はいるか考えよう。カジノの従業員と連絡は取れる?」
「個人的な連絡先なんて、元から教えてもらえません」
「仲良くなった客は?」
「……います」
冬村だ。いつも小額でちびちび遊んでいるわびしい姿が浮かぶ。
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「そいつと連絡を取ろう。例えば、捜査に気づいたとしても、最近入った客を疑っているだけなら、全員を新しい賭場に通すか追い出すはずだ。その客も追い出されているなら、まだ情報課の存在がバレたとは言いにくい。とりあえず電話だな」
「わかりました」
元気のよい返事の直後、電話は切れた。
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