僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
118 / 185
Mission:消えるカジノ

第118話:本物 ~近い場所ほど訪れない~

しおりを挟む
「いやぁ、僕も絶対に偽物だと思ったんですけどね」
「俺だって、カジノの中で客に実名を出すのは不思議だと思ったんだけどな」
 カジノ内で実名を使っていないのなら、名刺を出さなければいいだけの話だ。玉村えなや白里りさ子のように。わざわざ偽の名刺を出す必要はない。そこに諏訪は引っ掛かりを覚え、多賀に調査を頼んだという流れである。

「この名刺の住所には、確かに通訳の事務所がありました。電話番号も電話帳に載っています。小さな事務所らしく、通訳は彼だけで、他に女性事務員が一人。後ろ暗いところのない零細企業です」
 後ろ暗いところのない零細企業が何故闇カジノに関わっているのかは不明だが、零細ならば仕事を選ぶこともできまい。通訳業務だけなら、あの場にいても法を犯しているとは言えない。そもそも賭博自体、起訴に至ることも少ないような罪である。その賭博に関与していない雇われでは、逮捕に至るかどうかも怪しい。

「だから本物の名刺を出してきたんだろうな」
「僕なら、それでも本物の名刺を出したりはしないですけどね」
 多賀の言う通りだ。いくら自信があるからといって、ここでリスクを取る理由がわからない。

「多賀、そいつの素性に怪しい点はなかったか?」
ぐも駿しゅんすけ、三十二歳。前科や前歴はありません。詳細な経歴まではまだ調べていませんが、サイトによると、専門は英語と中国語だそうです。免許証の写真をコピーしたものがこれです」
 多賀から受け取った写真は、確かにカジノにいた通訳の男の顔と一致する。

「まだ断言はできないが、オーナーである確率は限りなく低そうだな」
「何故ですか?」
「あのカジノは、通訳業務を外注してるわけだろ。外注先人間がオーナーだなんてのは不自然だ。普通なら、完全にカジノの運営をするか、全くカジノには関わらずに金だけ吸っていくかのどちらかだからな。中途半端な関わり方はしないはずだ」
 警察が調べてもオーナーの姿が見えないということから、諏訪は後者だとみている。

「南雲がオーナーだったら全てが片付いたんですけどね」
「そんな簡単な事件だったら、情報課には回ってこないだろ」
 だが、南雲のデータは県警にはなかった。春日が諏訪の机からひっくり返していた候補者リストにも名前はない。以前の捜査はなんだったのだろう。本当になんの当てにもならないじゃないか。

「南雲に関するデータ、全部多賀が調べてくれたのか」
 多賀の成長に諏訪はじんときた。頼もしくなったものだ。
「無闇に他課の捜査官を駆り出すのは章さんくらいです。おかげさまで、簡単な調査は自前でできるようになりました」
 この場にいない伊勢兄弟に対する嫌味も多賀から飛び出すようになってきた。

「大変だっただろ」
「いえいえ」
 多賀はそう言うが、諏訪にはわかる。警察官の仕事は、得てして地味で報われないものだ。それを多賀に任せてしまうのは申し訳ない気持ちになる。春日に言わせれば、適材適所、自分のやれることをやれ、と。だが春日は面倒な事態からは余程のことがない限り平気で逃げるので、諏訪にはそのポリシーは詭弁にしか聞こえない。

「横須賀だったら近いですからね」
 それに自衛艦も沢山見られますから、と多賀は照れた。プラモ作りが趣味の多賀は、もちろん船のプラモも作る。その多賀にとって、横須賀は憧れの街らしい。そんなに遠くないんだから、いつだって行けばいいのに。
「いつでも行ける場所って、なかなか行かないでしょう?」
 多賀は照れた顔で答える。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...