117 / 185
Mission:消えるカジノ
第117話:両立 ~予想はすんなり当たらない~
しおりを挟む
宗教法人「大地の光」で人知れず苦労している三嶋と違い、諏訪はとんとん拍子に捜査を進めている。
カジノに潜入することができた今、次の目標は、オーナーの特定である。
「オーナー候補者リストとかないんすかねぇ」
「以前、うちじゃなくて県警が捜査を担当していた頃の資料は残っていたはずやで」
諏訪の机に乱雑に積まれた資料を春日がひっくり返す。多賀がいれば率先してやってくれるだろうが、今、多賀は諏訪に命じられた捜査に忙しい。
「あ、あった。これやと思うんやけど……」
春日はホッチキス留めされた資料を引っ張り出した。それが随分と分厚いのを見て、春日と諏訪双方に嫌な予感が走る。
「数百人単位でおるやないか」
春日はため息をつきながら、ぱらぱらと資料をめくった。
「こんなん、関係者全員のリストやん。前の捜査担当が相当無能やったか」
「あるいは、オーナーの特定がそれだけ難しいということか」
どちらにせよ、今回の事件で最も厳しいのはオーナーの特定である。逆に言えば、オーナーの身元を把握してしまえば逮捕状を請求して芋づる式に逮捕できるし、そうすればカジノは完全に潰せる。
「片方だけ逮捕するのは簡単なんやけどなぁ」
「そうか? 狙うなら、支配人だっていう玉村えなだろうけど、本名がわからないし、玉村を逮捕しても結局は別の人間が代理で立てられるだけでカジノは消えない。オーナーだけ逮捕できても、スタッフ全員が残っていれば細々と続けることだって可能だ」
「……じゃあ、両方一気に逮捕? そんなん可能なんかねぇ」
いずれにせよ、オーナーの正体と玉村たちスタッフの本名を調べなければどうしようもない。
「そういや、初めてカジノの存在が判明したのは、客に警察官がいたからなんやろ? その警察官にオーナーの名前聞けば全部解決するんちゃうの」
「客じゃオーナーの氏名はわからんだろ」
諏訪は低い声で答える。それは諏訪にも言えることだ。客として潜り込んだはいいが、それだけではオーナーの情報は手に入らない。
「ま、そこは俺にはどうにもならんし、諏訪の力の見せ所や。頑張ってな」
「そういうとこだぞ。いちいち口に出すなよ、こっちのやる気が削がれる」
諏訪が呟くと、春日が首を傾げる。演技だ。
「なんで? 事実やん」
「…………」
春日が相手を見て言っているのはわかっている。思ったことを全部直接言っても、諏訪は絶対に許してくれるという確信が春日にはある。手のひらの上で踊っているような気がしてならない。
「じゃあ、俺は二時からストーカー被害に遭ってる女の子の話を聞きにいかなあかんから、行ってくるわ」
「お前、ほんと女の子が絡むとやる気出すんだな」
「仕事に一生懸命なだけやて」
春日は首をすくめて逃げる。入れ替わるように入ってきたのは多賀だ。
「諏訪さん、とりあえず簡単に調べてきました」
「お、おう」
「諏訪さん、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないから結果を教えて」
「名刺は本物でした」
「ん?」
多賀の報告は諏訪の予想とは違っていた。多賀はビニール袋に入れられた一枚の紙を差し出す。調べていた名刺だ。それは南雲が諏訪に渡したものである。
カジノに潜入することができた今、次の目標は、オーナーの特定である。
「オーナー候補者リストとかないんすかねぇ」
「以前、うちじゃなくて県警が捜査を担当していた頃の資料は残っていたはずやで」
諏訪の机に乱雑に積まれた資料を春日がひっくり返す。多賀がいれば率先してやってくれるだろうが、今、多賀は諏訪に命じられた捜査に忙しい。
「あ、あった。これやと思うんやけど……」
春日はホッチキス留めされた資料を引っ張り出した。それが随分と分厚いのを見て、春日と諏訪双方に嫌な予感が走る。
「数百人単位でおるやないか」
春日はため息をつきながら、ぱらぱらと資料をめくった。
「こんなん、関係者全員のリストやん。前の捜査担当が相当無能やったか」
「あるいは、オーナーの特定がそれだけ難しいということか」
どちらにせよ、今回の事件で最も厳しいのはオーナーの特定である。逆に言えば、オーナーの身元を把握してしまえば逮捕状を請求して芋づる式に逮捕できるし、そうすればカジノは完全に潰せる。
「片方だけ逮捕するのは簡単なんやけどなぁ」
「そうか? 狙うなら、支配人だっていう玉村えなだろうけど、本名がわからないし、玉村を逮捕しても結局は別の人間が代理で立てられるだけでカジノは消えない。オーナーだけ逮捕できても、スタッフ全員が残っていれば細々と続けることだって可能だ」
「……じゃあ、両方一気に逮捕? そんなん可能なんかねぇ」
いずれにせよ、オーナーの正体と玉村たちスタッフの本名を調べなければどうしようもない。
「そういや、初めてカジノの存在が判明したのは、客に警察官がいたからなんやろ? その警察官にオーナーの名前聞けば全部解決するんちゃうの」
「客じゃオーナーの氏名はわからんだろ」
諏訪は低い声で答える。それは諏訪にも言えることだ。客として潜り込んだはいいが、それだけではオーナーの情報は手に入らない。
「ま、そこは俺にはどうにもならんし、諏訪の力の見せ所や。頑張ってな」
「そういうとこだぞ。いちいち口に出すなよ、こっちのやる気が削がれる」
諏訪が呟くと、春日が首を傾げる。演技だ。
「なんで? 事実やん」
「…………」
春日が相手を見て言っているのはわかっている。思ったことを全部直接言っても、諏訪は絶対に許してくれるという確信が春日にはある。手のひらの上で踊っているような気がしてならない。
「じゃあ、俺は二時からストーカー被害に遭ってる女の子の話を聞きにいかなあかんから、行ってくるわ」
「お前、ほんと女の子が絡むとやる気出すんだな」
「仕事に一生懸命なだけやて」
春日は首をすくめて逃げる。入れ替わるように入ってきたのは多賀だ。
「諏訪さん、とりあえず簡単に調べてきました」
「お、おう」
「諏訪さん、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないから結果を教えて」
「名刺は本物でした」
「ん?」
多賀の報告は諏訪の予想とは違っていた。多賀はビニール袋に入れられた一枚の紙を差し出す。調べていた名刺だ。それは南雲が諏訪に渡したものである。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる