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Mission:消えるカジノ
第116話:順調 ~バカの気持ちは分からない~
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徹夜明けの諏訪だが、不思議と眠くはなかった。情報課での報告が諏訪を待っている。やはり諏訪にとって落ち着くのはこちらだ。
諏訪が伊沢文明に接触して飯田と出会い、カジノに入るまでに要した時間はわずか一カ月である。本来なら、よくて二ヶ月。半年かかっても長くはない。
「……トントン拍子じゃん」
「怖いくらいっすよ」
皆の喜ぶ姿とは裏腹に、諏訪の表情は暗かった。あまりにも都合がよすぎる。
「秘密の闇カジノって話だったはずなのに。会員制バーでもこんなすんなり入るのは無理でしょ」
「そうだな。でも単にうまいこといってるだけだと思うけどなぁ。何をそんなに不安がることがある?」
「引っかかりがあるのならその点に注意した方がいい、何かしらの罠の可能性があるから」
裕の言葉に諏訪は小さく頭を傾げた。
「罠っすか……」
「相手は警察の捜査を嗅ぎつける集団だ。僕なら、警察官が捜査しようとしたら食いつくであろうポイントをわざと用意して、そこに罠を張る。一種のセンサーだな」
それをカジノヨコハマはやっている。かもしれない。
「その罠、飯田、ってことはないよな」
確かめるように裕が口を挟む。
「こちらから口止めする前に向こうの手が回っていたら、いくら口止め料を払っても無意味じゃないか」
「それはないだろ。諏訪が調査に来ると分かっているならともかく、わかりもしないのに飯田を罠に使うわけがない。そんなことをしたら、客をみんな罠に利用しないといけないしな」
「飯田さんは罠ではないと思うんっすけど、一人、どうも気になる人がいるんすよねぇ。俺、調べようかなと思ってるんすよ」
「僕、お手伝いしますよ」
多賀が立ち上がる。新人として満点だ。
「諏訪がトントン拍子なのはいいけど」
諏訪と多賀が部屋を出ていき、扉がぱたんと閉まる。その扉を見ながら、章がぼそりと呟いた。
「問題は三嶋だな」
裕が静かにコーヒーに口をつけながら頷く。
「章、何か変化はあった?」
「いや、うんともすんとも。全然連絡が取れない」
「三嶋に限って、連絡無精だってことはないだろ。何かあったのかな」
「いや、あいつ結構面倒くさがりだけどな。仕事ですら平気で後回しにするだろ」
「連絡が全くないなんてことある?」
「あるいはすでに殺されているか」
「怖いこと言うなよ」
「別に死んでほしいと思ってるわけじゃない」
むしろ心配の裏返しだと裕は分かっている。だが、章が口に出すたびに、どうしてもこちらの不安が煽られてしまう。
「僕さ、こっちからアタックしてもいいんじゃないかと思うんだよね」
「警察を使うってこと?」
裕は眉をひそめた。
「調べたら、大地の光って、土曜日にお話の会っていうのをしてるんだよね。お悩み相談会みたいなやつ。三嶋が来るんじゃないかと思って」
「会ってどうするんだ」
どうせ会えたとしても二十分程度だ。情報交換できるほどの時間ではない。
「僕らに連絡よこせ、って言いにいくんだよ。あと生存確認だね」
明るく言う章だが、やはり三嶋のことを心配しているのだろう。
「……まあ、好きにしろ」
章はお悩み相談会とやらに参加すべく、偽名を考えはじめた。こうなった章はもう止められない。
諏訪が伊沢文明に接触して飯田と出会い、カジノに入るまでに要した時間はわずか一カ月である。本来なら、よくて二ヶ月。半年かかっても長くはない。
「……トントン拍子じゃん」
「怖いくらいっすよ」
皆の喜ぶ姿とは裏腹に、諏訪の表情は暗かった。あまりにも都合がよすぎる。
「秘密の闇カジノって話だったはずなのに。会員制バーでもこんなすんなり入るのは無理でしょ」
「そうだな。でも単にうまいこといってるだけだと思うけどなぁ。何をそんなに不安がることがある?」
「引っかかりがあるのならその点に注意した方がいい、何かしらの罠の可能性があるから」
裕の言葉に諏訪は小さく頭を傾げた。
「罠っすか……」
「相手は警察の捜査を嗅ぎつける集団だ。僕なら、警察官が捜査しようとしたら食いつくであろうポイントをわざと用意して、そこに罠を張る。一種のセンサーだな」
それをカジノヨコハマはやっている。かもしれない。
「その罠、飯田、ってことはないよな」
確かめるように裕が口を挟む。
「こちらから口止めする前に向こうの手が回っていたら、いくら口止め料を払っても無意味じゃないか」
「それはないだろ。諏訪が調査に来ると分かっているならともかく、わかりもしないのに飯田を罠に使うわけがない。そんなことをしたら、客をみんな罠に利用しないといけないしな」
「飯田さんは罠ではないと思うんっすけど、一人、どうも気になる人がいるんすよねぇ。俺、調べようかなと思ってるんすよ」
「僕、お手伝いしますよ」
多賀が立ち上がる。新人として満点だ。
「諏訪がトントン拍子なのはいいけど」
諏訪と多賀が部屋を出ていき、扉がぱたんと閉まる。その扉を見ながら、章がぼそりと呟いた。
「問題は三嶋だな」
裕が静かにコーヒーに口をつけながら頷く。
「章、何か変化はあった?」
「いや、うんともすんとも。全然連絡が取れない」
「三嶋に限って、連絡無精だってことはないだろ。何かあったのかな」
「いや、あいつ結構面倒くさがりだけどな。仕事ですら平気で後回しにするだろ」
「連絡が全くないなんてことある?」
「あるいはすでに殺されているか」
「怖いこと言うなよ」
「別に死んでほしいと思ってるわけじゃない」
むしろ心配の裏返しだと裕は分かっている。だが、章が口に出すたびに、どうしてもこちらの不安が煽られてしまう。
「僕さ、こっちからアタックしてもいいんじゃないかと思うんだよね」
「警察を使うってこと?」
裕は眉をひそめた。
「調べたら、大地の光って、土曜日にお話の会っていうのをしてるんだよね。お悩み相談会みたいなやつ。三嶋が来るんじゃないかと思って」
「会ってどうするんだ」
どうせ会えたとしても二十分程度だ。情報交換できるほどの時間ではない。
「僕らに連絡よこせ、って言いにいくんだよ。あと生存確認だね」
明るく言う章だが、やはり三嶋のことを心配しているのだろう。
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