僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
116 / 185
Mission:消えるカジノ

第116話:順調 ~バカの気持ちは分からない~

しおりを挟む
 徹夜明けの諏訪だが、不思議と眠くはなかった。情報課での報告が諏訪を待っている。やはり諏訪にとって落ち着くのはこちらだ。

 諏訪が伊沢文明に接触して飯田と出会い、カジノに入るまでに要した時間はわずか一カ月である。本来なら、よくて二ヶ月。半年かかっても長くはない。
「……トントン拍子じゃん」
「怖いくらいっすよ」
 皆の喜ぶ姿とは裏腹に、諏訪の表情は暗かった。あまりにも都合がよすぎる。

「秘密の闇カジノって話だったはずなのに。会員制バーでもこんなすんなり入るのは無理でしょ」
「そうだな。でも単にうまいこといってるだけだと思うけどなぁ。何をそんなに不安がることがある?」
「引っかかりがあるのならその点に注意した方がいい、何かしらの罠の可能性があるから」
 裕の言葉に諏訪は小さく頭を傾げた。

「罠っすか……」
「相手は警察の捜査を嗅ぎつける集団だ。僕なら、警察官が捜査しようとしたら食いつくであろうポイントをわざと用意して、そこに罠を張る。一種のセンサーだな」
 それをカジノヨコハマはやっている。かもしれない。

「その罠、飯田、ってことはないよな」
 確かめるように裕が口を挟む。
「こちらから口止めする前に向こうの手が回っていたら、いくら口止め料を払っても無意味じゃないか」
「それはないだろ。諏訪が調査に来ると分かっているならともかく、わかりもしないのに飯田を罠に使うわけがない。そんなことをしたら、客をみんな罠に利用しないといけないしな」

「飯田さんは罠ではないと思うんっすけど、一人、どうも気になる人がいるんすよねぇ。俺、調べようかなと思ってるんすよ」
「僕、お手伝いしますよ」
 多賀が立ち上がる。新人として満点だ。

「諏訪がトントン拍子なのはいいけど」
 諏訪と多賀が部屋を出ていき、扉がぱたんと閉まる。その扉を見ながら、章がぼそりと呟いた。
「問題は三嶋だな」
 裕が静かにコーヒーに口をつけながら頷く。

「章、何か変化はあった?」
「いや、うんともすんとも。全然連絡が取れない」
「三嶋に限って、連絡無精だってことはないだろ。何かあったのかな」
「いや、あいつ結構面倒くさがりだけどな。仕事ですら平気で後回しにするだろ」
「連絡が全くないなんてことある?」

「あるいはすでに殺されているか」
「怖いこと言うなよ」
「別に死んでほしいと思ってるわけじゃない」
 むしろ心配の裏返しだと裕は分かっている。だが、章が口に出すたびに、どうしてもこちらの不安が煽られてしまう。

「僕さ、こっちからアタックしてもいいんじゃないかと思うんだよね」
「警察を使うってこと?」
 裕は眉をひそめた。
「調べたら、大地の光って、土曜日にお話の会っていうのをしてるんだよね。お悩み相談会みたいなやつ。三嶋が来るんじゃないかと思って」

「会ってどうするんだ」
 どうせ会えたとしても二十分程度だ。情報交換できるほどの時間ではない。
「僕らに連絡よこせ、って言いにいくんだよ。あと生存確認だね」
 明るく言う章だが、やはり三嶋のことを心配しているのだろう。

「……まあ、好きにしろ」
 章はお悩み相談会とやらに参加すべく、偽名を考えはじめた。こうなった章はもう止められない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...