僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
112 / 185
Mission:消えるカジノ

第112話:信用 ~スキーの良さは忘れない~

しおりを挟む
「けど、カジノってのはパチンコや麻雀とは違う。簡単に負けることができるんだ。一晩で大負けすることだって珍しいことじゃない。俺が五〇〇万の借金を作ったのは二回目に行った時だよ。それ以降、俺はあの場所に出入りしていない。人生で二度だけだ、ヨコハマに行ったのは」
「…………」
「俺はギャンブルに狂ったわけじゃない。パチンコだってやらないし、あの時できた借金以上のものを作ったこともない。けれど、その返済にずっと追われてる」
「俺の裏には警察がいます。方法はまだ考えていませんけど、なんとかなるはずっす。飯田さんに教えていただいたことを肝に銘じて、頑張ります」

「わかった。俺は諏訪くんを信じる。君ならできる。潰してくれよ、ヨコハマを」
 飯田は丁寧に頭を下げた。その悲しげな背中には、後悔と惨めさ、そして男らしさが滲んでいる。センスを持ち、また努力の才能を持ち、結果を出してきた彼が、ここまで堕ちてしまった姿を直視することが諏訪にはできなかった。
「お願いです。俺に協力してください」
 諏訪はしっかりと頭を下げ返す。飯田は頭をあげるように静かに言って立ち上がった。

「ヨコハマにはいつ行きたい?」
 メモに何やら書きながら、飯田が尋ねてきた。
「俺はいつでも構いませんが……」
「営業日は、水曜日と金曜土曜の夕方から夜明けまで。俺がヨコハマの人に電話を入れるから、その日に店に行って、店の人に、俺の名前と諏訪くんの名前、そして予約があると伝えたら通される。初めて行くときは、午後七時に行くのが条件だ。店の客に紛れることができるからね」

「店、というのは?」
「ヨコハマはカジノだけの場所じゃないんだ。昼は貴金属買取店をやってて、夜にカジノをやっている。不知火貴金属商会っていうんだけど、ある電話番号に電話をかけて、俺が名前を名乗って会員だと言ったら、カジノ担当者に電話が通される。そこで、俺は諏訪君を紹介したいと言うんだ。俺ができるのはそこまでだけど」
 飯田はメモをよこしてきた。メモに書かれていたのはヨコハマの電話番号だ。誰かの携帯電話の番号らしい。さすがに固定電話にはできないのだろう。

「ありがとうございます」
 諏訪が頭を下げると同時に、飯田は携帯電話を取る。
「俺は、こういうことは早く済ませたい性質なんだ」
 諏訪は嫌なことは後回しにするタイプである。諏訪より飯田の方が、よほど真面目できちんとしているじゃないか。

 飯田が電話を一本入れたおかげで、諏訪はヨコハマに来週の土曜、十九時から入れることになっている。諏訪は心の底から感謝していた。
「今日は本当にありがとうございました」
「諏訪くん」
 飯田家を後にするべく、立ち上がった諏訪を飯田が呼び止めた。
「今度、滑りに行かないか?」

 飯田は恥ずかしそうに部屋の奥に置かれた段ボールを開ける。丁寧にビニールに包まれたスキー板が出てきた。飯田の部屋には荷物が少ないから、夜逃げのために相当の荷物を捨てたはずである。スキー板も邪魔な荷物のはずだが、どうしても捨てきれなかったのだろう。諏訪は靴を履きながらニヤリと笑う。

「いいですけど、俺、速いっすよ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...