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Mission:消えるカジノ
第109話:家賃 ~交通整理は楽じゃない~
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「いました」
諏訪が北海道に旅立って三日、情報課に一本の電話が入った。もちろん諏訪からである。
「さっき、飯田の姿を発見しました」
「嘘だろ、五千人の中から発見したってのか」
「はい」
諏訪は冷静に答える。章には信じられなかった。一カ月、いや二カ月を予想していた。だから今、諏訪は北海道でマンスリーマンションに住んでいる。
「どうやって?」
「飛行機の中で、もう一度範囲を絞り直したんすよ」
「……どうやって?」
「夜に押されている『いいね』は恐らく自宅だと思います。多賀にもらった資料に、ほとんど同じ場所で『いいね』されているデータがあるでしょ」
「でも資料から住所がわかると言ってもせいぜい町までだ。そこから絞りようがないだろ」
「該当する町には、単身向けマンションが八棟、ファミリー向けと単身混在が四棟ありました。うち一棟は女性専用のマンションなので外してます。飯田は男なので」
最後の説明はさすがにいらない、と思ったが、諏訪の親切心によるものなので、章は寛大な気持ちで受け流しておく。
「で、そのマンションのうち、家賃が安い順に張ってたんすよ」
「……三日で見つかったということは、飯田が住んでるマンションの家賃は安かった、ということか」
「下から二番目に安いマンションで、家賃は一万五千円円っす。マンションというよりはアパートっすね」
「まあ仮にも多重債務者だもんな。札幌で一万五千円って可能なんだな」
「その額なりのアパートっすよ」
「逆に、札幌の住宅街にそれより家賃の安いアパートがあるのが驚きだよ」
「そっちは本当にヤバいっすよ。さすがの飯田も敬遠するだろうなって感じのアパートっすもん」
二人は飯田を陰でこっそり、いやある意味あっけらかんと貶《けな》し続ける。
真にかわいそうなのは一番安いアパートに住む住人か。多重債務者でもないのに見知らぬ捜査官にここまでボロクソに貶されるとは思いもしまい。
「で、今は何してんの?」
「とりあえず、今は飯田のバイト先の近くに張ってます。飯田に接触できるタイミングを探してるところっす。今、飯田はバイト中なので、帰り道にスーパーやコンビニに寄ったところで声を掛けようかと」
「なるほどな、飯田は今フリーターをしてるのか」
「借金があって夜逃げした先で正社員、というのもなかなか難しいでしょうし、そんなもんじゃないっすかねぇ」
「張り込みも大変だなぁ」
「交通整理やら取り締まりよりは楽っすよ」
本来、警察官の仕事には非常に地味な単純作業が多い。諏訪はどちらかというと臨機応変に対応し、頭を使う仕事の方が好きだった。もっとも、地味であればあるほど世の中が平和な証ではあるのだが。
「とりあえず飯田には接触できそうなんだな。よかったよ」
「はい。そこから二週間から一カ月くらいかけて仲良くなって、カジノに紹介させる予定っす」
「それは大変だな、俺も北海道行こうか?」
「……章さんの場合、北海道旅行したいだけっしょ」
諏訪はまた連絡すると言って電話を切った。
諏訪が北海道に旅立って三日、情報課に一本の電話が入った。もちろん諏訪からである。
「さっき、飯田の姿を発見しました」
「嘘だろ、五千人の中から発見したってのか」
「はい」
諏訪は冷静に答える。章には信じられなかった。一カ月、いや二カ月を予想していた。だから今、諏訪は北海道でマンスリーマンションに住んでいる。
「どうやって?」
「飛行機の中で、もう一度範囲を絞り直したんすよ」
「……どうやって?」
「夜に押されている『いいね』は恐らく自宅だと思います。多賀にもらった資料に、ほとんど同じ場所で『いいね』されているデータがあるでしょ」
「でも資料から住所がわかると言ってもせいぜい町までだ。そこから絞りようがないだろ」
「該当する町には、単身向けマンションが八棟、ファミリー向けと単身混在が四棟ありました。うち一棟は女性専用のマンションなので外してます。飯田は男なので」
最後の説明はさすがにいらない、と思ったが、諏訪の親切心によるものなので、章は寛大な気持ちで受け流しておく。
「で、そのマンションのうち、家賃が安い順に張ってたんすよ」
「……三日で見つかったということは、飯田が住んでるマンションの家賃は安かった、ということか」
「下から二番目に安いマンションで、家賃は一万五千円円っす。マンションというよりはアパートっすね」
「まあ仮にも多重債務者だもんな。札幌で一万五千円って可能なんだな」
「その額なりのアパートっすよ」
「逆に、札幌の住宅街にそれより家賃の安いアパートがあるのが驚きだよ」
「そっちは本当にヤバいっすよ。さすがの飯田も敬遠するだろうなって感じのアパートっすもん」
二人は飯田を陰でこっそり、いやある意味あっけらかんと貶《けな》し続ける。
真にかわいそうなのは一番安いアパートに住む住人か。多重債務者でもないのに見知らぬ捜査官にここまでボロクソに貶されるとは思いもしまい。
「で、今は何してんの?」
「とりあえず、今は飯田のバイト先の近くに張ってます。飯田に接触できるタイミングを探してるところっす。今、飯田はバイト中なので、帰り道にスーパーやコンビニに寄ったところで声を掛けようかと」
「なるほどな、飯田は今フリーターをしてるのか」
「借金があって夜逃げした先で正社員、というのもなかなか難しいでしょうし、そんなもんじゃないっすかねぇ」
「張り込みも大変だなぁ」
「交通整理やら取り締まりよりは楽っすよ」
本来、警察官の仕事には非常に地味な単純作業が多い。諏訪はどちらかというと臨機応変に対応し、頭を使う仕事の方が好きだった。もっとも、地味であればあるほど世の中が平和な証ではあるのだが。
「とりあえず飯田には接触できそうなんだな。よかったよ」
「はい。そこから二週間から一カ月くらいかけて仲良くなって、カジノに紹介させる予定っす」
「それは大変だな、俺も北海道行こうか?」
「……章さんの場合、北海道旅行したいだけっしょ」
諏訪はまた連絡すると言って電話を切った。
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