僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
109 / 185
Mission:消えるカジノ

第109話:家賃 ~交通整理は楽じゃない~

しおりを挟む
「いました」
 諏訪が北海道に旅立って三日、情報課に一本の電話が入った。もちろん諏訪からである。
「さっき、飯田の姿を発見しました」
「嘘だろ、五千人の中から発見したってのか」
「はい」
 諏訪は冷静に答える。章には信じられなかった。一カ月、いや二カ月を予想していた。だから今、諏訪は北海道でマンスリーマンションに住んでいる。

「どうやって?」
「飛行機の中で、もう一度範囲を絞り直したんすよ」
「……どうやって?」

「夜に押されている『いいね』は恐らく自宅だと思います。多賀にもらった資料に、ほとんど同じ場所で『いいね』されているデータがあるでしょ」
「でも資料から住所がわかると言ってもせいぜい町までだ。そこから絞りようがないだろ」

「該当する町には、単身向けマンションが八棟、ファミリー向けと単身混在が四棟ありました。うち一棟は女性専用のマンションなので外してます。飯田は男なので」
 最後の説明はさすがにいらない、と思ったが、諏訪の親切心によるものなので、章は寛大な気持ちで受け流しておく。

「で、そのマンションのうち、家賃が安い順に張ってたんすよ」
「……三日で見つかったということは、飯田が住んでるマンションの家賃は安かった、ということか」
「下から二番目に安いマンションで、家賃は一万五千円円っす。マンションというよりはアパートっすね」

「まあ仮にも多重債務者だもんな。札幌で一万五千円って可能なんだな」
「その額なりのアパートっすよ」
「逆に、札幌の住宅街にそれより家賃の安いアパートがあるのが驚きだよ」
「そっちは本当にヤバいっすよ。さすがの飯田も敬遠するだろうなって感じのアパートっすもん」
 二人は飯田を陰でこっそり、いやある意味あっけらかんと貶《けな》し続ける。
 真にかわいそうなのは一番安いアパートに住む住人か。多重債務者でもないのに見知らぬ捜査官にここまでボロクソに貶されるとは思いもしまい。

「で、今は何してんの?」
「とりあえず、今は飯田のバイト先の近くに張ってます。飯田に接触できるタイミングを探してるところっす。今、飯田はバイト中なので、帰り道にスーパーやコンビニに寄ったところで声を掛けようかと」
「なるほどな、飯田は今フリーターをしてるのか」
「借金があって夜逃げした先で正社員、というのもなかなか難しいでしょうし、そんなもんじゃないっすかねぇ」

「張り込みも大変だなぁ」
「交通整理やら取り締まりよりは楽っすよ」
 本来、警察官の仕事には非常に地味な単純作業が多い。諏訪はどちらかというと臨機応変に対応し、頭を使う仕事の方が好きだった。もっとも、地味であればあるほど世の中が平和な証ではあるのだが。

「とりあえず飯田には接触できそうなんだな。よかったよ」
「はい。そこから二週間から一カ月くらいかけて仲良くなって、カジノに紹介予定っす」
「それは大変だな、俺も北海道行こうか?」
「……章さんの場合、北海道旅行したいだけっしょ」
 諏訪はまた連絡すると言って電話を切った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...