107 / 185
Mission:消えるカジノ
第107話:解析 ~針がなければ魚は釣れない~
しおりを挟む
「飯田がいるのは北海道札幌市だということがわかりました」
アクセス解析の結果はすぐに出た。翌日の朝、多賀は飯田の情報をまとめて印刷したものを情報課の面々に配る。顔写真は運転免許証のものだ。誰でもそうだが、免許証の写真だけを見せられると犯罪者感がすごい。
「ねえ、それ最初からアクセス解析したら良かったんじゃないの?」
章のもっともなツッコミを多賀は知らんぷりして話を進める。
アクセス解析のことは諏訪に説明しているうちに思い出した、とバレたくないからだ。伊勢兄弟には言わずともバレているが。
「詳細な現住所はわからないのか」
「スマートフォンの契約はBe-Tailを退職する前だったこともあり、詳細な現住所は分かりません。アクセス解析で、現住所の候補を絞りはしましたが」
多賀は面々に地図を渡す。飯田が北海道に渡ってからのツイート等のアクション全てを解析した結果の地図だ。
「……札幌って、一〇〇万都市だよな」
「人口は二〇〇万人近くいます」
多賀は澄ました顔で頷いた。
「場所を絞ったとしても何人いる?」
「多分、五千人もいませんよ」
それでも多いものは多い。しかも、普通の警察の捜査と違って、あまり多くの人員は費やせない。それが情報課の弱いところだ。
「諏訪は飯田を見つけに北海道まで行くんやな……」
春日が憂いを帯びた美しい目をこちらに向けてきた。同情の目線である。その同情がかえって諏訪の心を折る。
「いつからや?」
「明日の朝、羽田発」
「ほんま行動が早いな。かわいそうに」
春日は哀れんでくるが、だからといって立場を変わってくれるわけではない。
「……早いに越したことはないというか、掴んだ情報は新しいうちに使わなきゃいけないからな」
「それもそうや」
「まあ、頑張ってくるよ」
「飯田を発見したとして、声はかけられるのか?」
春日が離れたと同時に寄って来たのは、コーヒーを淹れてきた章だ。気の利く多賀と違い、自分の分だけを用意して自分一人で飲んでいる。
「それは大丈夫っす。競技が違えど、町で有名選手を見かけて声をかけるのは不自然じゃないっすから」
向こうが諏訪の顔や名前を知っているかはわからないが、飯田の顔を見て声をかける存在として不自然ではない。そこから連絡先を交換しようと持ち掛けても、怪しまれはしないだろう。
「ただ、飯田に会えても、カジノを紹介してもらえるかどうかは微妙なところやな」
「時間がかかるのは承知の上っすけど……」
心配はそこだった。ただの友人にならなれる自信があるが、違法カジノを紹介してもらうことが果たして可能なのか。しかも、相手はカジノのせいで多重債務者に堕ちているというのに。カジノに良い印象を持っていない相手に、カジノを紹介してくれと頼みこみ、実際に紹介してもらうことが可能なのか。
「しかも、相手は消費者金融で多重債務者になってるわけだろ。おそらく、カジノの借金を、消費者金融で金を借りて返したんだろうな。つまりカジノとは縁が切れてるわけだ」
裕がばさりと飯田の資料を机に撒いた。
「飯田に行き当たったところでカジノに行きつくとは思えない」
「俺だったら、別の当てを探すところだな」
「せっかく繋がった糸なのに……」
多賀が肩を落とすが、裕は首を振る。
「いくら海に糸を垂らしても、針がなければ魚は釣れないだろ」
「いや、針なんかいくらでも付けられる」
裕の例え話を一瞬で蹴り落としたのは章だ。あまりの早業に、裕は口を半開きにして章の顔を目で追う。
「金で買え」
章は当たり前のことのように言う。
アクセス解析の結果はすぐに出た。翌日の朝、多賀は飯田の情報をまとめて印刷したものを情報課の面々に配る。顔写真は運転免許証のものだ。誰でもそうだが、免許証の写真だけを見せられると犯罪者感がすごい。
「ねえ、それ最初からアクセス解析したら良かったんじゃないの?」
章のもっともなツッコミを多賀は知らんぷりして話を進める。
アクセス解析のことは諏訪に説明しているうちに思い出した、とバレたくないからだ。伊勢兄弟には言わずともバレているが。
「詳細な現住所はわからないのか」
「スマートフォンの契約はBe-Tailを退職する前だったこともあり、詳細な現住所は分かりません。アクセス解析で、現住所の候補を絞りはしましたが」
多賀は面々に地図を渡す。飯田が北海道に渡ってからのツイート等のアクション全てを解析した結果の地図だ。
「……札幌って、一〇〇万都市だよな」
「人口は二〇〇万人近くいます」
多賀は澄ました顔で頷いた。
「場所を絞ったとしても何人いる?」
「多分、五千人もいませんよ」
それでも多いものは多い。しかも、普通の警察の捜査と違って、あまり多くの人員は費やせない。それが情報課の弱いところだ。
「諏訪は飯田を見つけに北海道まで行くんやな……」
春日が憂いを帯びた美しい目をこちらに向けてきた。同情の目線である。その同情がかえって諏訪の心を折る。
「いつからや?」
「明日の朝、羽田発」
「ほんま行動が早いな。かわいそうに」
春日は哀れんでくるが、だからといって立場を変わってくれるわけではない。
「……早いに越したことはないというか、掴んだ情報は新しいうちに使わなきゃいけないからな」
「それもそうや」
「まあ、頑張ってくるよ」
「飯田を発見したとして、声はかけられるのか?」
春日が離れたと同時に寄って来たのは、コーヒーを淹れてきた章だ。気の利く多賀と違い、自分の分だけを用意して自分一人で飲んでいる。
「それは大丈夫っす。競技が違えど、町で有名選手を見かけて声をかけるのは不自然じゃないっすから」
向こうが諏訪の顔や名前を知っているかはわからないが、飯田の顔を見て声をかける存在として不自然ではない。そこから連絡先を交換しようと持ち掛けても、怪しまれはしないだろう。
「ただ、飯田に会えても、カジノを紹介してもらえるかどうかは微妙なところやな」
「時間がかかるのは承知の上っすけど……」
心配はそこだった。ただの友人にならなれる自信があるが、違法カジノを紹介してもらうことが果たして可能なのか。しかも、相手はカジノのせいで多重債務者に堕ちているというのに。カジノに良い印象を持っていない相手に、カジノを紹介してくれと頼みこみ、実際に紹介してもらうことが可能なのか。
「しかも、相手は消費者金融で多重債務者になってるわけだろ。おそらく、カジノの借金を、消費者金融で金を借りて返したんだろうな。つまりカジノとは縁が切れてるわけだ」
裕がばさりと飯田の資料を机に撒いた。
「飯田に行き当たったところでカジノに行きつくとは思えない」
「俺だったら、別の当てを探すところだな」
「せっかく繋がった糸なのに……」
多賀が肩を落とすが、裕は首を振る。
「いくら海に糸を垂らしても、針がなければ魚は釣れないだろ」
「いや、針なんかいくらでも付けられる」
裕の例え話を一瞬で蹴り落としたのは章だ。あまりの早業に、裕は口を半開きにして章の顔を目で追う。
「金で買え」
章は当たり前のことのように言う。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる