僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
101 / 185
Mission:消えるカジノ

第101話:職務 ~例のパチ屋は全然出ない~

しおりを挟む
諏訪すわしんろうくん。お仕事ですよ」
 しまからフルネームで名前を呼ばれた瞬間に、何か嫌な予感がした。諏訪は眼鏡を取り、目元の滲んでもいない汗を拭く。
「お仕事って、もしかして……」

 逃げようとする諏訪の後を、早足で三嶋がついていく。諏訪は情報課の小さな部屋を早足で逃げ回るが、二十センチも背が低いはずの三嶋をなぜか振り切ることができない。諏訪は逃げられないと悟った。
「情報課としてのお仕事です。もちろん」
 とどめを刺されて諏訪はうめき声をあげながら頭を抱える。

「諏訪が呼び出される仕事だろ?」
「有名スポーツ選手の覚醒剤とか」
「そういうのは、わざわざうちに回しませんよ」
 三嶋が首を振る。
「えっ、回し打ち?」
「その聞き違い、わざとですね?」
 三嶋の冷たい視線が伊勢いせあきらに注がれる。

「いずれにせよ、スポーツ関連だってのは確かだ。一万円賭ける」
 三島から顔を背けた章が一本の指を立てる。だが、章が勝つ以外の筋がない賭けには、当然誰も乗らない。
「賭ける? 賭博とか?」
 章の弟、ゆたかが行くあてのない章の指を見つめて呟いた。

「あ、じゃあきっと野球賭博だよ」
 章は指を引っ込めて代わりに手を打った。
「んなわけ……」
「なんで当ててくるんですかね。面白くないじゃないですか」
 あっさり答えを発表した三嶋に、驚いて目を剥いた五人分の視線が集まる。

「野球賭博じゃないですけどね。横浜を中心に、ある闇カジノがあるそうです。そのオーナーを捕まえろ、と」
「闇カジノかぁ……」
 存在は聞いたことがあるが、誰も実物を見たことがない。当たり前だが。都市伝説だと思っていた。

「お願いしますよ、諏訪くん」
「えー、嫌っすよぉ」
 情報課の面々は、情報課としての仕事を回すと大抵嫌がる。いったいなぜなのだろう。まともに仕事をけるのは多賀くらいのものだ。

「情報課にいる人間が、情報課としての仕事を嫌がらないでくださいよ。全く、多賀くんを見習ってほしいものです。ねぇ」
 三嶋は多賀に顔を向ける。相変わらずの笑顔だが、妙に強い威圧を感じて多賀は頷くしかない。
「私が来週から大地の光に潜入しようって言ってる時に、なんで駄々をこねるんですか? ちゃんと働いてください」
 三嶋の重い事例を引き合いに出されると、ぐうの音も出ない。諏訪はしおれた花となり首を垂れた。

「あなたたち、情報課を何だと思ってるんです?」
 三嶋が説教モードに入る。このまま放置すると確実に面倒なことになる。こういう時、三嶋を邪魔するのに最も適しているのは、
「暇つぶしの場所!」
 章だ。

「…………」
「実際そうだよね?」
「あなたたちのことなんか嫌いです!」
 三嶋は分かりやすく拗ねる。

「ごめんってば。話聞かせてよ、三嶋」
「……横浜にある小規模のカジノです。特徴は、貴金属店や金券ショップなどの店舗の奥にあるということで、表の店舗が閉まってから、客は裏口から出入りするようです。何故か警察の捜査を機敏に察知し、すぐ店舗を変えるのも特徴ですね。県警でも前々から追ってたんですが、なかなかオーナーを逮捕できずに今に至ります」
 面倒な事件が回ってきたものである。

「なんでギャンブルなんかするんだろうな。マカオに行くか、ラスベガスに行くか、パチンコでも行けばいいじゃん」
「違法なのがいいんじゃないんですか?」
 答えを誰も出せない章の疑問に、雑に三嶋が返答する。親切心で返答しているのではない。章が面倒だから、雑でも返答してやるのである。

「パチンコだって厳密には違法ギャンブルに近いものがあるだろ」
「……県警庁舎の建物でそういう話するのはやめてください」
 答えの選択を誤ったことに気づいた三嶋は軽く流す。が、それで止める伊勢兄弟ではない。

「ねえねえ、明日駅前店行こうよ、一日だからきっと出るよ」
「あそこ先月で店長変わったから、出るかどうかわかんないよ」
 硬派のゆたかまでノリノリな状態に、周囲は絶望とドン引きである。

「うーん、じゃあ様子見だけして出なさそうなら帰るか」
「だからここ、県警庁舎ですよ」
「いいじゃん別にぃ」
「怒りますよ」
 三嶋がそう言うと伊勢兄弟は静かになった。あまりの単純さに三嶋は苦笑する。

「だいたい、カジノやってる人間を捕まえようったって、本人のモラルの問題でしょ。警察が関与する話じゃないんじゃないすか?」
「捕まえるのは客じゃなくてオーナーです」
「…………」
 もう思いつく反論がない。諏訪は黙り込む。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...